糖尿病治療薬「マンジャロ」が、精神科でダイエット目的に処方されるケースが報じられている。東北地方で精神科クリニックを運営する医師は、体形への劣等感や自己嫌悪を訴える女性患者らに処方し、「患者から頼まれると断りにくい」と説明したという。
患者の苦痛を軽くしたいという医師の思いは理解できる。しかし、訴えが切実であることと、薬の使用が医学的に妥当であることは分けて考えなければならない。
マンジャロの一般名はチルゼパチド。GIPとGLP-1の二つの受容体に作用し、国内では2型糖尿病治療薬として承認されている。糖尿病ではない人に美容や単純な減量を目的として使う場合は、承認された効能を外れる適応外使用となる。
日本糖尿病学会は、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬を美容・痩身目的で安易に使用することについて、有効性と安全性が確認されていないとして注意を促してきた。必要な糖尿病患者への供給に影響する点も無視できない。
一方、チルゼパチドの体重減少効果は臨床試験で示されている。糖尿病のない肥満・過体重の成人を対象とした「SURMOUNT-1試験」では、72週間の投与で平均体重が大きく減少した。ただし、対象者は医学的な基準を満たし、生活習慣への介入と継続的な管理を受けていた。外見への悩みだけを理由に処方する根拠とはならない。
さらに「SURMOUNT-4試験」では、投与を継続した群で減量効果が維持された一方、薬を中止した群では体重が戻る傾向が確認された。これは薬物依存を示すものではないが、患者が「やめたら太る」と強く恐れ、薬を手放せなくなる心理的な問題につながる可能性がある。
精神科では、この点がより重要になる。摂食障害や身体像への強いこだわりを抱える患者が急激な体重減少を経験すると、「もっと痩せなければならない」という思考や食事制限、頻回な体重測定を強める恐れがある。
ここでいう心理的依存は、マンジャロそのものに麻薬のような依存性があるという意味ではない。薬の効果を安心感や自己価値の支えにし、「注射がなければ自分を保てない」と感じる状態を指す。薬理学的な依存とは明確に区別する必要がある。
処方前には、摂食障害歴、極端な食事制限、身体像への執着、希死念慮などを確認し、必要に応じて糖尿病・肥満症の専門医、心理職、管理栄養士と連携すべきだ。
患者の声を聞くことと、求められた薬を出すことは同じではない。「断りにくい」と感じる場面だからこそ、処方しない判断を含む明確な基準が求められる。
特記事項:本稿は報道された精神科での処方事例、日本糖尿病学会の見解、医薬品情報およびSURMOUNT試験の公表結果を基に構成しています。個別の治療は、患者の身体・精神状態を診察した医師が適応と危険性を慎重に判断する必要があります。
週刊TAKAPI編集部/成田
精神科での処方を巡る争点
マンジャロには臨床試験で確認された体重減少効果がある一方、日本での承認対象は2型糖尿病である。精神科で美容・減量目的に処方する場合、適応外使用となり、摂食障害の悪化や薬を心理的な支えにするリスクも考慮しなければならない。患者の希望だけでなく、医学的な適応と安全性を基準に判断する必要がある。
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