まんじゅう、最中、ようかん、団子、練り切り――。日本の食文化を長年支えてきた和菓子店の倒産が過去最多ペースで進んでいる。
帝国データバンクが2026年10月3日に公表した「『和菓子店』の倒産動向(2026年1-9月)」によると、2026年1~9月に発生した和菓子店の倒産は22件となった。すでに前年の年間件数を上回り、年間でも過去最多を更新するペースだ。
背景にあるのは小豆や砂糖、もち米などの原材料価格の上昇だけではない。包装資材、光熱費、人件費など幅広いコストが上昇する一方、価格転嫁には難しさがある。さらに、消費者ニーズの変化や職人の高齢化、後継者問題なども重なっている。
特に目立つのが、長い歴史を持つ老舗の苦境だ。2020年以降に倒産した和菓子店では業歴50年以上が約半数を占める。
その一方、若い世代をターゲットとした「ネオ和菓子」やネット通販、ふるさと納税、インバウンド需要など、新しい市場に活路を見いだす事業者もある。
和菓子業界でいま何が起きているのか。
和菓子店の倒産、2026年1~9月だけで22件
帝国データバンクの調査によると、2026年1月から9月までに発生した和菓子店の倒産は22件だった。
ここでいう和菓子店とは、まんじゅうや干菓子、練り切りなどを製造し、小売も手がける事業者など。倒産件数は負債1000万円以上で法的整理となったケースを対象としている。
したがって「22件」は、全国で閉店した和菓子店すべてを示した数字ではない。経営者の高齢化などを理由に自主的に事業を終了した廃業や、集計基準に該当しない小規模事業者などは含まれない。
それでも、法的整理に至った事業者だけで過去最多ペースとなっていることは、業界を取り巻く経営環境の厳しさを示している。
小豆・砂糖だけではない「多重コスト高」が直撃
和菓子店を苦しめる大きな要因の一つがコスト上昇だ。
和菓子には小豆、砂糖、もち米、小麦粉などさまざまな原材料が使われる。こうした材料だけでなく、商品を入れる箱や袋などの包装資材、店舗や工場で使用する電気・ガス、人件費など、製造から販売まで幅広い部分で負担が増している。
つまり、単純に「あんこの材料が高くなった」という問題ではない。
一つ100円、200円台といった比較的身近な価格帯の商品を多く扱う和菓子店では、数円、数十円単位のコスト増加でも、販売数量が多くなれば経営への影響は大きくなる。
さらに製造設備を抱える店舗では、機械の修繕や更新も必要になる。長年営業してきた老舗ほど建物や設備が古くなっているケースもあり、設備投資の時期と物価高が重なれば負担はさらに大きくなる。
「値上げすればいい」が難しい和菓子店
原材料価格が上昇したのであれば、その分を商品の販売価格に転嫁する方法が考えられる。
しかし、和菓子ではこれが簡単ではない。
まんじゅうや団子、大福などは、日常のお茶菓子として購入される商品でもある。消費者の中には長年の価格イメージがあり、大幅な値上げをすれば購入する個数や頻度が減る可能性がある。
例えば1個当たりの利益を確保するため価格を引き上げても、販売数量が大きく落ちれば、店舗全体の利益が改善するとは限らない。
「値上げしなければ利益が減る。しかし値上げすれば客離れが起きるかもしれない」という難しい判断を迫られている。
特に地域の固定客を中心に営業してきた小規模店では、長年利用してきた顧客との関係もあり、急激な価格変更に踏み切りにくい事情も考えられる。
倒産した和菓子店の約半数が「業歴50年以上」
今回の調査でさらに注目されるのが、老舗の倒産だ。
帝国データバンクによると、2020年以降に倒産した和菓子店138件のうち、業歴100年以上は24件で17.4%を占めた。
業歴50年以上まで広げると、全体のおよそ半数に達するという。
長い歴史を持ち、地域で知名度のある店であっても倒産リスクと無縁ではないことが分かる。
老舗には長年培ってきた味やブランド、固定客、地域からの信頼という大きな強みがある。一方で、従来の商品構成や販売方法、価格帯を大きく変更しにくいという側面もある。
「昔からこの値段だった」「この商品をこの形で売ってきた」という歴史が、環境が急速に変化した局面では経営判断を難しくする可能性もある。
若者の和菓子離れだけではない 「買う場面」が変わった
和菓子業界が直面しているのはコスト問題だけではない。消費者が和菓子を購入する場面そのものも変化している。
かつて和菓子は日常のお茶菓子に加え、冠婚葬祭、法事、祝い事、地域行事、季節の贈答品、手土産など、さまざまな場面で購入されてきた。
ところが冠婚葬祭の簡素化や生活様式の変化が進めば、こうした需要も変化する。
さらに、ケーキや洋菓子、コンビニスイーツなど選択肢が増えたことで、消費者が甘い物を食べたいときに必ずしも和菓子専門店を選ぶとは限らなくなった。
スーパーやコンビニでも、大福やどら焼き、団子などを気軽に購入できる。
専門店は大量生産品との単純な価格競争ではなく、「専門店だから買いたい」と思わせる価値をどのように作るかが問われている。
後継者がいても残る「職人の技術承継」という問題
老舗和菓子店では、もう一つ避けて通れない問題がある。
事業承継だ。
一般的な事業承継でも後継者不足は大きな問題だが、和菓子店の場合は会社や店舗の経営権を引き継ぐだけでは十分ではない場合がある。
練り切りをはじめ、職人の経験や感覚、手作業によって品質を維持している商品もある。レシピだけでは再現できない技術が蓄積されているケースも少なくない。
経営者の後継者が見つかったとしても、製造を担ってきた職人が高齢化して技術を引き継げなければ、同じ商品を作り続けられなくなる可能性がある。
和菓子店の事業承継では、「会社を誰が継ぐのか」と同時に「味と技術を誰が継ぐのか」という二つの課題を考える必要がある。
苦境の一方で注目される「ネオ和菓子」
ただ、和菓子業界が衰退する一方というわけではない。
新たな顧客層を取り込むため、伝統的な和菓子を現代的にアレンジした「ネオ和菓子」が注目されている。
ネオ和菓子に法律上の明確な定義があるわけではないが、伝統的な素材や製法に洋菓子の要素を組み合わせたり、見た目や食感を現代風にしたりした商品などを指して使われることが多い。
フルーツを大胆に使った大福、あんことバターやチョコレートなどを組み合わせた菓子、色鮮やかな創作和菓子など、その形はさまざまだ。
特に重要なのがSNSとの相性だ。
従来の和菓子にあまり接点がなかった若い世代でも、InstagramやTikTokなどで商品を知り、「食べてみたい」「写真を撮りたい」と店舗を訪れる可能性がある。
伝統的な和菓子を捨てるのではなく、入口となる商品を変えることで、新しい顧客に店そのものを知ってもらう戦略だ。
店頭だけに頼らない EC・ふるさと納税・インバウンド
販売方法にも変化が出ている。
従来の地域密着型和菓子店は、店舗周辺の住民や地域行事、贈答需要などに支えられてきた。
しかし、人口減少や顧客の高齢化が進む地域では、店舗周辺だけを商圏とする経営には限界がある。
そこで重要になるのが、ネット通販やふるさと納税などを利用して商圏を全国に広げる方法だ。
地域では有名でも全国的には知られていなかった銘菓が、SNSや通販をきっかけに全国へ広がる可能性もある。
観光地ではインバウンドも新たな顧客になり得る。四季を表現した練り切りなどは、食べ物としてだけでなく「日本文化を体験する商品」として価値を打ち出すこともできる。
大量生産する商品と個人店が価格だけで競争するのは難しい。季節限定商品や出来たての商品、地域の食材、贈答価値など、専門店ならではの違いを明確にできるかが重要になる。
ようかんや最中、焼き菓子など比較的日持ちする商品は通販との相性が良い。一方、生菓子では賞味期限や温度管理、送料などの問題があるため、通販向け商品の開発も必要になる。
従業員や外部の経営者、別の企業などが事業を引き継ぐ方法もある。ただし和菓子店の場合、店舗や商標だけでなく、レシピ、製法、仕入れ先、職人技術なども重要な資産となるため、早い段階から整理する必要がある。
何代にもわたり受け継がれてきた製法や地域との関係は、新規参入店には簡単に作れない価値だ。一方、その魅力を若い世代や地域外の消費者へ伝える情報発信も必要になる。
「守るために変わる」ことが老舗にも求められる時代へ
和菓子店の倒産が過去最多ペースとなっている背景には、一つの原因ではなく複数の構造的な問題がある。
原材料や包装資材、光熱費、人件費などのコスト上昇。値上げの難しさ。消費者ニーズや冠婚葬祭、贈答文化の変化。職人の高齢化と後継者不足――。
そして、2020年以降の倒産で業歴50年以上が約半数を占めるという事実は、「老舗だから生き残れる」という時代ではなくなっていることを象徴している。
一方で、和菓子そのものの魅力が失われたわけではない。
ネオ和菓子やSNSを通じて若い世代と新たな接点を作る。ECやふるさと納税によって商圏を全国へ広げる。インバウンドに日本文化として売り込む。第三者への事業承継によって店や技術を残す。
選択肢は以前より広がっている。
これから問われるのは「伝統を守るか、変えるか」という二者択一ではない。
伝統的な味や技術を次の世代に残すために、商品、価格、販路、情報発信、経営そのものをどこまで変えられるのか。
和菓子業界は今、「守るために変わる」という難しい転換点を迎えている。
特記事項
本記事で使用する「倒産」は、帝国データバンクの集計基準に基づく負債1000万円以上・法的整理となった事業者を指します。自主廃業などを含めた全国の和菓子店の「閉店件数」と同じではありません。
また「ネオ和菓子」は法律などで定められた分類ではなく、伝統的な和菓子に現代的なデザイン、素材、洋菓子の要素などを取り入れた商品を示す一般的な呼称として使用しています。
週刊TAKAPI編集部:黒木
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