神奈川県平塚市の市立中学校で2019年9月、当時50代の男性教頭が校舎屋上から転落して死亡した事故について、市が設置した検証委員会は10月23日、調査結果をまとめた報告書を教育委員会に提出した。
報告書は、当時の校長が安全措置を講じないまま、屋上に設置されたエアコン室外機の点検の必要性を教頭に示唆したことを事故の要因として指摘。学校と市教育委員会に危険作業の実施方法を明確に定める仕組みがなかったことも問題視し、教育長を中心とする労働安全衛生管理体制の整備を提言した。
事故から7年余り。教頭が作業の危険性を事前に校長へ伝えていたことも、神奈川県教育委員会の懲戒処分資料で明らかになっている。
台風通過後の校舎点検 フェンス外で教頭が転落死
事故が起きたのは2019年9月9日。台風が通過した後、男性教頭は校舎屋上のフェンス外に設置されたエアコン室外機を点検していた際に転落し、死亡した。
神奈川県教育委員会が2026年3月13日に公表した資料によると、教頭は室外機の点検に伴う危険性を当時の校長に伝えていた。校長もその危険性を認識していたが、点検方針が学校組織として十分に共有されていない中、具体的な安全措置を検討・実施していなかったという。
校長は室外機の点検の必要性を示唆したうえで、教頭に対して室外機が設置されている校舎の点検を指示した。その後、教頭はフェンス外で安全措置を伴わない点検を単独で行い、転落した。
県教育委員会の資料は、校長が室外機の点検を直接命令したとまでは記していない。しかし、作業の危険性を認識しながら安全措置を講じなかったことを、死亡事故に至る職務上の問題として認定している。
当時の校長を停職1カ月 事故から約6年半後の処分
神奈川県教育委員会は2026年3月13日、事故当時の校長だった男性を停職1カ月の懲戒処分とした。
男性は処分当時65歳で、暫定再任用の公立中学校教諭として勤務していた。処分は地方公務員法第29条に基づくもので、県教育委員会は、教頭から危険性を伝えられていたにもかかわらず、安全措置を検討・実施せずに点検の必要性を示唆した経緯を問題視した。
この懲戒処分は、事故当時の校長の職務上の責任を行政上問うものであり、刑事責任の認定を意味するものではない。
一方、今回の検証委員会は、校長個人の判断に加え、学校と市教育委員会の安全管理体制にも問題があったと指摘した。教職員の安全を確保する仕組みそのものが、検証の対象となった。
事故から約4年後に検証委設置 35回の会議を開催
平塚市が教職員転落事故検証委員会を設置したのは2023年8月3日。事故発生から約3年11カ月が経過していた。
委員会は弁護士や学識経験者ら5人で構成され、2026年9月28日までに計35回の会議を開催。個人情報を扱うため審議は非公開とされ、市の公式サイトには各会議の開催日と概要が掲載されている。
10月23日には、堀井雅道委員長らが平塚市役所で吉野雅裕教育長に答申と検証報告書を提出した。委員会の設置から報告書提出までにも約3年2カ月を要している。
ただし、事故後から検証委員会の設置までに約4年を要した理由や、その間に市教育委員会がどのような調査と再発防止策を実施したのかについては、今回確認した公開資料だけでは十分に把握できていない。
検証委が指摘した学校と市教委の安全管理上の問題
10月23日付の報道によると、検証委員会は、当時の校長が独自の判断で安全措置を講じずに室外機点検の必要性を示唆したことを、事故の要因として指摘した。
さらに、学校と市教育委員会において、危険を伴う作業の方法などが明確に定められていなかったことも問題視した。
教頭が危険性を申告していたにもかかわらず、適切な安全措置がないまま作業が行われたことは、今回の事故を検証するうえで重要な事実だ。危険性を把握した管理職が作業の実施をどう判断するのか、安全を確保できない場合にどのような対応を取るのか。学校組織としての判断基準と責任の所在が問われている。
学校では台風や大雨などの災害後、施設の安全確認が必要になる。しかし、点検の必要性があることと、危険な場所で教職員が作業を行ってよいことは別の問題である。
高所などの危険を伴う点検を誰が担当するのか、専門業者への依頼をどう判断するのか、作業を中止すべき場合の基準は何か。こうした手順を組織として整えることが、同種事故の防止につながる。
「教職員の安全対策は不十分」検証委員長が問題提起
報告書を提出した堀井委員長は、児童生徒の安全確保に関する取り組みと比べ、教職員の安全対策にはなお不十分な点があるとの認識を示した。
そのうえで、教育長が教職員の安全を守る責任を自覚し、必要な対応を進めるよう求めた。
検証委員会は、教育長を中心とする労働安全衛生管理体制の整備を提言している。
この提言を受け、市教育委員会が危険作業の判断基準や管理職の役割、学校現場における安全確認の手順をどのように整備するのかが、今後の焦点となる。
事故から7年余りを経て示された検証結果を、再発防止のための具体的な制度や作業手順に反映できるか。市教育委員会には、提言への対応と改善状況について説明することが求められる。
編集部まとめ
平塚市立中学校で発生した教頭の転落死亡事故では、作業の危険性が事前に校長へ伝えられていたにもかかわらず、安全措置を伴わない点検が行われていた。
事故当時の校長は2026年3月、停職1カ月の懲戒処分を受けた。今回の検証委員会は、学校と市教育委員会に危険作業の実施方法を明確に定める仕組みがなかったことも問題視している。
校長個人の職務上の責任と、組織としての安全管理体制の整備は、それぞれ検証すべき問題だ。市教育委員会が報告書の提言をどのような再発防止策につなげるのか、具体的な対応が求められている。
特記事項
本記事は、神奈川県教育委員会の2026年3月13日付懲戒処分資料、平塚市教育委員会の10月16日付記者発表、教職員転落事故検証委員会の公開記録、10月23日付テレビ神奈川の報道に基づき構成した。
検証報告書全文の直接確認および関係者への独自取材は実施していない。報告書の認定内容と提言については、確認できた報道の範囲で記載しており、今後公表される資料などによって新たな事実が判明した場合は、必要に応じて内容を更新する。
週刊TAKAPI 編集部/成田
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