SNS上で、若者とみられる複数人が夜間の歩道上で高齢男性に接触し、押す、引くように見える動画が拡散している。
問題は、動画がSNSに出たことだけではない。
その場にいた誰かが、高齢男性に接触した。
周囲にいた誰かが、止めなかった。
誰かが、スマホを向けた。
笑い声のような音まで、動画に残った。
この順番を見落としてはいけない。
週刊TAKAPIは4月29日、当該動画について、前後の経緯、当事者同士の事情、学校名などは現時点で確認中であり、未確認情報の拡散には慎重な扱いが必要だと報じた。映像では、若者の一人が高齢男性に接触し、周囲から笑い声のような音声も聞こえるとされる。ただし、切り取られた動画だけで全体を断定することはできない。
【関連記事】
歩道で高齢男性に乱暴行為か “面白半分”の可能性に批判 真偽含め波紋広がる
ただし、仮に映像の通りであれば、高齢者への身体的な接触や威圧的な行為は、悪ふざけでは済まされない可能性がある。高齢者が転倒すれば、骨折や頭部外傷につながるおそれもある。若者同士のじゃれ合いとは違う。年齢や体力差がある相手に対し、複数人で近づき、押すように見える行為があったなら、社会が強い違和感を持つのは当然である。
今回考えるべきなのは、SNS投稿だけではない。
高齢男性に接触した行為。
周囲が止めなかった空気。
その場でスマホを向けた判断。
笑い声のような音まで残った映像。
SNSへの投稿。
保存。
再投稿。
学校名や個人名を探す動き。
この一つ一つを分けて見なければならない。
SNSは最後の出口である。
その前に、目の前で人が怖い思いをしているかもしれない場面で、助けるより先に撮影が始まっていた可能性がある。
過去にも、人を狙う路上犯罪はあった
人を狙う行為そのものは、今に始まった話ではない。
1990年代には「おやじ狩り」という言葉が社会に広がった。イミダスは、おやじ狩りについて、帰宅途中の中高年男性を狙い、因縁をつけ、殴る、蹴るなどの乱暴を加えて金を奪う少年犯罪として説明している。1996年5月に東京都江東区で起きた事件では、高校生を含む少年数人が帰宅途中の男性に暴行を加え、金を要求したとされる。
同じ1990年代には「エアマックス狩り」も社会問題になった。東洋経済オンラインは、90年代のスニーカーブームの中で、人気スニーカーを履いた人を狙った襲撃事件が起き、「エア マックス狩り」という言葉が生まれるほど社会問題になったと伝えている。
もちろん、今回の動画を「おやじ狩り」と断定することはできない。現時点で確認できるのは、動画が拡散し、高齢男性への接触行為とみられる場面に批判が集まっているという点である。
それでも、複数人で一人の高齢者に近づく。
押す、引くように見える動きがある。
周囲から笑い声のような音が聞こえる。
こうした場面が事実であれば、過去に社会問題化した路上での乱暴行為を思い出す人がいても不思議ではない。
過去と違うのは、今はその場で終わらないことだ。
今は、1本の動画が別の被害を生む
過去の路上犯罪は、被害者、加害者、目撃者、警察、学校、家庭の間で問題になった。もちろん、それだけでも重大な事件である。
しかし現代は、そこにスマホが加わっている。
誰かが人に乱暴な接触をする。
周囲の人が止めずにスマホを向ける。
笑い声のような音声まで動画に入る。
その動画がSNSに投稿される。
第三者が保存する。
別のアカウントが再投稿する。
学校名や個人名を探す投稿が出る。
無関係な人まで巻き込まれる可能性が出る。
ここまで進むと、問題は「その場の行為」だけでは終わらない。
今回の動画を見て怒る人がいるのは自然である。高齢男性に対する乱暴な接触があったなら、重大な問題として扱われるべきだ。
一方で、怒りのまま未確認の学校名、個人名、顔写真、アカウント情報を広げる行為も危険である。警察庁は、インターネット上の誹謗中傷は内容によって名誉毀損罪や侮辱罪などの刑事責任を問われる場合があると説明している。
悪い行為を批判することと、確認されていない個人情報を広げることは違う。
ここを分けなければ、批判する側が別の被害を生む側に回ってしまう。
スマホは日用品になった。だから使い方を教えなければならない
ここで大人が「最近の若者はスマホばかり見ている」と言うだけでは足りない。
こども家庭庁の令和7年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」では、インターネットを利用している青少年のうち、こども専用の機器としてスマートフォンを利用している割合は93.3%だった。中学生では95.4%、高校生では99.1%が、スマートフォンをこども専用で使っていると回答している。
スマホは、若い人にとって特別な機械ではない。
連絡を取る。
写真を撮る。
動画を見る。
検索する。
投稿する。
友人とつながる。
毎日の中にある道具である。
だからこそ、スマホを持たせるかどうかだけを議論しても足りない。必要なのは、スマホをどう使うかを教えることだ。
撮ってよい場面と、撮ってはいけない場面がある。
投稿してよい情報と、出してはいけない情報がある。
人が困っている場面では、撮影より先に声をかける必要がある。
証拠として記録する場合でも、SNSに出す前に、警察、学校、施設、保護者へ渡すべき場面がある。
未確認の学校名、氏名、顔写真、住所、アカウント名を広げてはいけない。
この順番を、家庭、学校、職場、地域で繰り返し教える必要がある。
スマホは便利な道具である。
しかし、人を笑いものにする道具にしてはいけない。
人の顔、声、姿、場所を勝手に広げる道具にしてはいけない。
目の前で人が困っているかもしれない場面で、最初に向けるべきものはカメラではない。
大人も「分からない」では済まされない
今回のような問題では、若い人の行動ばかりが注目される。
しかし、大人も逃げてはいけない。
「SNSは分からない」
「スマホは若い人のもの」
「ネットのことは苦手」
教育する立場にいる大人が、この言葉で済ませてしまえば、若い人に正しい使い方を教えられない。
こども家庭庁の同調査では、インターネットに関する啓発や学習を受けた経験について、青少年の保護者では73.8%、低年齢層のこどもの保護者では59.0%が「はい」と回答している。すでに学んでいる保護者は多い。それでも、現場では撮影、投稿、保存、再投稿、特定拡散の危険まで十分に伝わっていない場面がある。
親、教員、部活動の指導者、企業の上司、地域の大人。若い人と関わる立場にある以上、スマホ、SNS、撮影、投稿、保存、再投稿、個人情報、特定拡散について、大人自身も学ぶ必要がある。
若い人に「撮るな」「投稿するな」と言うだけでは足りない。
なぜ撮ってはいけないのか。
なぜ投稿してはいけないのか。
なぜ未確認の名前や学校名を広げてはいけないのか。
人が困っている場面で、なぜ撮影より先に声をかけるべきなのか。
そこまで説明しなければならない。
スマホを知らない大人が、スマホを使う若者を注意することは難しい。
だからこそ、大人も学ぶ必要がある。
これは若者だけの課題ではない。
子どもや若い人に関わる大人の課題でもある。
怒った人にも、守るべき順番がある
動画を見た人が怒るのは当然である。
だが、怒りと拡散は別である。
警察庁は、インターネット上に誹謗中傷などが掲載されている場合、削除依頼や相談、警察への通報・相談の際に必要になるため、掲載されたサイトやSNSのページを印字し、サイト名、URL、書き込み者、書き込み日時、内容などを記録するよう案内している。
必要なのは、特定ごっこではない。
投稿画面を保存する。
URLを控える。
投稿日時を記録する。
投稿者名を控える。
内容を記録する。
警察、学校、自治体、プラットフォームへ伝える。
確認されていない個人情報は広げない。
この順番を間違えると、悪い行為を批判している側まで、別の被害を生む側に回ってしまう。
「許せない」と思った時ほど、名前を探す前に記録する。
学校名を広げる前に、通報する。
顔写真を貼る前に、確認されていない情報を止める。 怒りを行動に移すなら、特定ではなく、記録と通報を選ぶべきである。
筆者が今回の動画で最も強く感じたのは、若者の悪ふざけという言葉だけでは片づけられない、スマホを持つ社会そのものの危うさである。今回の問題を「若者の悪ふざけ動画」だけで終わらせてはいけないと考えている。
人が怖い思いをしているかもしれない。
転ぶかもしれない。
けがをするかもしれない。
周囲に助けを求めているかもしれない。
その場面で、止めるより先にスマホを向ける。
笑い声のような音まで動画に入る。
それをSNSに出す。
別の人が保存し、再投稿し、学校名や個人名を探し始める。
これは、若者だけの問題ではない。
スマホを持つ人間全員の問題である。
過去にも、おやじ狩りやエアマックス狩りのような路上で人を狙う事件はあった。中高年男性を狙う事件もあった。人気の靴を履いた人が狙われた時代もあった。人を狙う行為は、昔から許されなかった。
ただ、現代はそこにスマホが加わった。
人が困っているかもしれない場面で、助けるより先に撮る。
撮ったものをSNSに出す。
別の人が保存し、再投稿する。
さらに未確認の学校名や個人名が広がる。
この流れは、現場の行為とは別の被害を作る。
大人も「SNSは分からない」「スマホは苦手」で済ませてはいけない。子どもや若い人に注意する立場にいるなら、大人自身が、撮影、投稿、保存、再投稿、特定拡散の危険を学ばなければならない。
高齢男性への乱暴な接触があったなら、それは重大な問題である。
同時に、怒りのまま未確認の名前、学校名、顔写真、アカウント情報を広げることも重大な問題である。
必要なのは、特定ではない。
記録である。
通報である。
確認されていない情報を広げない判断である。
スマホを向ける前に、目の前の人を助ける。
名前を広げる前に、事実を確認する。
怒りを投稿する前に、必要な場所へ通報する。
今回の記事で伝えたいのは、この順番である。
Q1. 高齢男性を押すように見える動画は何が問題なのか
高齢男性への乱暴な接触の可能性だけでなく、スマホ撮影、SNS投稿、保存、再投稿、未確認の学校名や個人名の特定拡散まで広がっている点が問題です。動画だけで全体を断定することはできませんが、撮影、投稿、拡散まで含めて考える必要があります。
Q2. おやじ狩りやエアマックス狩りとの違いは何か
過去にも路上で人を狙う事件はありました。現代はそこにスマホ撮影、SNS投稿、動画保存、再投稿、学校名や個人名の特定拡散が加わっている点が違います。その場で終わらず、別の被害を生む可能性があります。
Q3. 動画を見た人はどう対応すべきか
投稿画面、URL、投稿日時、投稿者名、内容を記録し、警察、学校、自治体、プラットフォームへ通報・相談する対応が必要です。未確認の学校名、個人名、顔写真、住所、アカウント情報は広げるべきではありません。
Q4. 大人に求められることは何か
若い人にスマホの使い方を教えるだけでなく、大人自身もSNS、撮影、投稿、個人情報、保存、再投稿、特定拡散について学ぶ必要があります。「SNSは分からない」「スマホは苦手」では、子どもや若い人に正しい使い方を教えることはできません。
Q5. なぜ「スマホを向ける前に止める」が重要なのか
人が怖い思いをしているかもしれない場面では、撮影より先に安全確認や声かけが必要です。証拠として記録する場合でも、SNSに投稿する前に、警察、学校、自治体、施設、保護者など必要な場所へ渡す判断が求められます。
参考・出典
週刊TAKAPI
歩道で高齢男性に乱暴行為か “面白半分”の可能性に批判 真偽含め波紋広がる
https://108takapi.jp/2026/04/29/202604291142/
イミダス
オヤジ狩り
https://imidas.jp/ryuko/detail/N-05-6-090-97.html
東洋経済オンライン
90年代に「エア マックス」が爆発的に売れた理由
https://toyokeizai.net/articles/-/620367?display=b
こども家庭庁
令和7年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」報告書
https://www.cfa.go.jp/policies/youth-kankyou/internet_research/results-etc/r07
警察庁
インターネット上の誹謗中傷等への対応
https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/defamation.html
