愛知県安城市大東町にある倉敷紡績株式会社安城工場跡地で、土壌溶出量基準を超える六価クロム化合物が検出された。最大濃度は基準の3.2倍。調査した1193区画のうち5区画で基準を超えた。
週刊TAKAPIが愛知県に取材したところ、今回判明したのは地表から深さ0.5メートルまでの調査結果で、0.5メートルより深い土壌と地下水は、報告時点で調査されていないことが分かった。
県は、1943年から1950年まで存在した航空機用特殊鋼工場との関連について「可能性はある」としながらも、原因を断定できる証拠はないと説明している。
倉敷紡績株式会社安城工場跡地で六価クロム 最大値は基準の3.2倍
倉敷紡績株式会社と愛知県が2026年9月4日に公表した資料によると、土壌汚染が確認されたのは、安城市大東町1058番1、1228番1の各一部。調査面積は10万8354.1平方メートルに及ぶ。
安城工場跡地の解体撤去工事に伴い、土壌汚染対策法に基づく調査を実施したところ、六価クロム化合物の土壌溶出量は最大で1リットル当たり0.16ミリグラムだった。
基準値は1リットル当たり0.05ミリグラム以下で、最大値は基準の3.2倍となる。
調査結果の概要は次の通り。
- 調査場所:愛知県安城市大東町1058番1、1228番1の各一部
- 調査面積:10万8354.1平方メートル
- 対象物質:六価クロム化合物
- 土壌溶出量の最大値:1リットル当たり0.16ミリグラム
- 土壌溶出量基準:1リットル当たり0.05ミリグラム以下
- 最大超過倍率:3.2倍
- 検出深度:地表から0~0.5メートル
- 基準超過区画:1193区画中5区画
一方、土壌にどれだけ有害物質が含まれるかを示す土壌含有量については、すべての調査区画で法定基準に適合したとしている。倉敷紡績株式会社の公表資料
5区画は比較的近い場所 すべてが隣接しているわけではない
愛知県の担当者は週刊TAKAPIの取材に対し、六価クロムが基準を超えた5区画について、広い調査範囲の中では比較的近い場所にあると説明した。
ただし、5区画すべてが連続して隣接しているわけではないという。
調査対象地は10メートル格子で1193区画に分割されている。各区画を単純に100平方メートルとみなすことはできないため、5区画の合計汚染面積は今回の取材では確認できなかった。
また、県は5区画それぞれの測定値を公表していない。
県の担当者によると、記者発表では基準を超過した区画のうち、最も高い測定値のみを公表する運用になっているという。このため、最大値以外の4区画が基準をわずかに上回ったのか、最大値に近い濃度だったのかは分からない。
深さ0.5メートルより下は未調査 汚染の深度は確定せず
県への追加取材で明らかになった重要な点が、調査の深さだ。
今回報告されたのは、土壌の表層部分を対象とする概況調査の結果で、調査範囲は地表から0.5メートルまでだった。
県の担当者は、0.5メートルより深い場所を調べる深度方向の調査について、今回の報告時点ではまだ実施していないと回答した。
したがって、公表資料にある「基準超過土壌の検出深度0~0.5メートル」は、汚染が0.5メートル以内に収まっていることを示すものではない。
現段階では、表層で基準超過が見つかったという意味にとどまり、さらに深い場所まで汚染が及んでいるかは確認されていない。
敷地内の地下水調査も未実施
敷地内の地下水調査についても、報告時点では実施されていない。
県の担当者は、現在は概況調査の段階であり、今後、事業者が地下水調査を行うと説明。地下水から基準超過が確認された場合は、県への報告を受けてあらためて記者発表する方針を示した。
このため、現時点では次の項目が確認できていない。
- 地下水に六価クロムが到達しているか
- 地下水中の六価クロム濃度
- 地下水の流向や流速
- 汚染が敷地外へ移動する可能性
- 周辺井戸への影響
倉敷紡績株式会社は、汚染箇所をアスファルト舗装または不透水シートで覆っており、土壌の飛散や雨水による汚染拡散のおそれはないと説明している。
ただし、これは地表からの飛散や雨水の浸透に対する説明だ。地下水への影響まで調査によって否定されたわけではない点には注意が必要となる。
周辺の飲用井戸はどこまで調べるのか
県によると、土壌汚染対策法に基づく区域指定の手続きでは、周辺に飲用井戸が存在するかを確認する。
ただし、今回の土地について、敷地から半径何メートルまでを調べるのか、対象となる井戸が何本あるのかは、取材時点で決まっていなかった。
調査範囲は一律ではなく、対象物質の性質に加え、次の条件などを踏まえて決めるという。
- 土地の傾斜
- 地下水の流れる方向
- 地下水の流れる速さ
- 環境省のシミュレーション式による拡散範囲
地下水から基準超過が確認された場合には、こうした条件を基に周辺井戸の調査範囲を設定する。
安城市は市民に対し、飲用には水道水を使用するよう推奨し、井戸水については洗車などの雑用水として使用するよう案内している。
原因は戦時中の特殊鋼工場か 県は「断定できない」
調査対象地は、1943年から1950年まで航空機用特殊鋼の製造工場の敷地の一部として使われていた。
県の公表資料では、当時使われていた原料に六価クロム化合物が含まれていた可能性があるものの、詳細は不明としている。
県の担当者も週刊TAKAPIの取材に対し、当時の工場が汚染原因となった可能性はあるとしながら、次の趣旨で説明した。
当時使われていたという情報があり、原因となった可能性はある。ただし、十分な証拠があるわけではなく、今回の土壌汚染の原因と断定することはできない。
地歴調査では、過去の航空写真などから、この場所に工場が存在したことを確認。事業者が指定調査機関に委託し、土地の使用状況や関連資料を調べた。
県側も、水質汚濁防止法などに基づく過去の届け出を確認し、有害物質の使用情報と照合したという。
しかし、六価クロムの使用を直接示す記録や製造工程、工場配置図など、原因を確定できる資料の存在は今回の取材では確認されなかった。
倉敷紡績株式会社は1951年以降「使用履歴なし」
この土地は、1951年から2025年まで倉敷紡績株式会社安城工場の敷地の一部として使われていた。
倉敷紡績株式会社は、1951年の操業開始以降、安城工場で六価クロム化合物を使用した履歴はないとしている。
県も、事業者が指定調査機関に委託して作成した報告書と、行政が保有する有害物質関係の届け出を照合している。
ただし、これは現在確認できる資料や届け出に基づく整理である。県が独自調査により、過去のすべての工程で六価クロムが使われていなかったことを証明したという意味ではない。
健康被害を示す情報はなし 地下水を含む評価はこれから
県には取材時点で、周辺住民への健康被害を示す情報は入っていない。
六価クロム化合物は、溶液への接触や非常に細かい粒子を含む蒸気の吸入によって、皮膚の発赤や発疹、鼻や喉の炎症などを引き起こすことが知られている。
今回の汚染箇所は舗装や不透水シートで覆われているため、現状では土壌への直接接触や汚染土壌の飛散リスクは抑えられている。
しかし、地下水調査と深度方向の調査はまだ行われていない。
したがって、現段階では「健康被害が確認されていない」とするのが正確であり、地下水への影響まで含めて安全性が確認された段階ではない。
掘削除去の開始・完了時期は未定
倉敷紡績株式会社は今後、汚染土壌の掘削除去を実施する方針だ。
県によると、事業者は作業前に、対策方法や実施期間などを記載した計画書を提出する必要がある。しかし、電話取材時点では県に計画書が提出されておらず、具体的な開始時期や完了時期は決まっていなかった。
次の点も現段階では明らかになっていない。
- 掘削除去する土壌の量
- 除去工事の開始日と完了予定日
- 汚染土壌の搬出先や処理方法
- 除去後に行う確認調査の内容
- 地下水調査の実施時期
- 対策完了後の情報公表方法
県は住民説明会を予定せず 対応は事業者側
周辺住民への個別通知や説明会について、県の担当者は、県として実施する予定はないと回答した。住民への対応は、基本的に事業者側が行うとの認識を示している。
一方、倉敷紡績株式会社が周辺住民への説明会や個別通知を行うかどうかは、今回の県への取材では確認できなかった。
地下水と深度方向の調査が終わっておらず、掘削除去のスケジュールも決まっていない段階だけに、事業者が調査や対策の進捗をどのように地域へ説明するのかが今後の焦点となる。
【編集部の視点】「飛散のおそれなし」だけでは汚染の全体像は見えない
今回の公表で確認されたのは、表層土壌の一部で六価クロム化合物の溶出量が基準を超えたという事実だ。
汚染箇所は舗装などで覆われており、土壌の飛散や雨水による拡散防止策は取られている。この点は重要な安全対策といえる。
一方で、0.5メートルより深い土壌と地下水は未調査で、5区画の個別濃度も明らかにされていない。最大値だけでは、汚染の濃淡や広がりを住民が把握することは難しい。
今後必要なのは、掘削除去の実施だけではない。深度方向と地下水の調査結果、周辺井戸への影響、除去後の確認結果を継続して公表することだ。
県が説明会を予定していない以上、倉敷紡績株式会社には、計画書の提出後に工期や調査結果を分かりやすく地域へ説明する姿勢が求められる。
取材日:2026年9月14
取材先:愛知県
回答者:愛知県環境局環境政策部 水大気環境課
取材方法:電話
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週刊TAKAPI編集部:黒木
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