埼玉県加須市で生活保護を受けている精神障害のある50代男性が、障害者加算を長期間支給されず、担当ケースワーカーからも暴言を受けたとして、10月20日、市に約239万円などの損害賠償を求めてさいたま地裁に提訴した。
男性側は、2011年から2024年にかけて計109か月分、167万6420円の障害者加算が支給されていなかったと主張している。また、2023年12月ごろ、医療機関を受診できない窮状を担当職員に相談した際、「死ねばいいじゃん」と言われたと訴えており、職員の言動による精神的苦痛に対しても慰謝料を請求している。
加須市は23日の報道時点で訴状が届いていないと説明しており、暴言の有無や加算を支給しなかった経緯について、市側の詳しい見解は明らかになっていない。
「病院にかかれなくて死にそうだ」相談時の発言を問題視
訴状などによると、男性は2023年12月ごろ、病院を受診できない状況について担当ケースワーカーに電話で相談し、「病院にかかれなくて死にそうだ」と訴えた。これに対し、職員から「死ねばいいじゃん」と言われたという。
男性側は、同じ時期の生活相談でも「生活保護止めていいんだ?」と発言されたと主張している。男性は市に担当職員の変更を求めたものの、認められず、その後も精神的な苦痛を受け続けたとして慰謝料50万円を請求した。
生活保護のケースワーカーは、受給者の生活や健康状態を把握し、必要な支援につなげる立場にある。男性が訴える言葉が実際に発せられたのであれば、生活に困窮する受給者からの相談に対し、行政職員が適切に対応していたかが問題になる。
一方、今回の発言については、男性側が訴訟で主張している段階であり、職員が実際に発言したと確認されたわけではない。男性が求めた担当者変更に市が応じなかった理由も明らかになっていない。
障害者手帳2級を取得、加算の存在を知ったのは2024年
男性は2011年ごろから生活保護を利用しており、2022年5月には精神障害者保健福祉手帳の2級を取得した。しかし、障害者加算の制度を知ったのは、それから2年以上が過ぎた2024年8月だったという。
男性側の説明では、更新後の手帳を受け取るため市役所を訪れた際、生活保護費に障害者加算があることを知り、支給状況を問い合わせたところ、加算が支給されていなかったことが判明した。
市が支給したとされる障害者加算は、2024年6月から8月までの3か月分のみ。男性側は、2011年5月から2024年5月までの期間中、計109か月分について支給されるべき加算があったとし、167万6420円の支払いを求めている。
ただし、2011年5月から2024年5月までの全期間が請求対象となっているわけではなく、109か月分の具体的な算定内訳は明らかになっていない。約239万円とされる損害賠償請求額についても、加算相当額と慰謝料以外の費目は、確認できた報道資料からは特定できない。
「2011年には症状を把握」弁護士は市の説明にも疑問
男性の代理人を務める猪股正弁護士らは20日、さいたま市内で記者会見を開き、加須市が2011年の時点で男性の精神障害の症状を把握していたと指摘した。
弁護士らは、市が当時から男性に障害者手帳の取得を促すなどしていれば、障害者加算の支給につながった可能性があると主張している。また、男性が未支給の加算について問い合わせた際、市側から既に支給しているとの事実に反する説明があったとも訴えた。
生活保護の障害者加算は、障害の程度など一定の要件を満たす場合に、生活扶助の基準額へ上乗せする制度だ。精神障害者保健福祉手帳2級も認定資料になり得るが、手帳を取得したことだけで、過去のすべての期間について加算が認められるわけではない。
厚生労働省の通知では、障害の程度について障害年金の年金証書などを基本に確認し、一定の条件を満たす場合には精神障害者保健福祉手帳や医師の診断資料を用いることも認めている。また、関連する障害年金などの裁定を待たず、福祉事務所が加算の適否を認定する仕組みも設けられている。
今回の訴訟では、男性がいつから加算の支給要件を満たしていたのかに加え、市が当時どのような情報を把握し、必要な確認や認定の手続きを行っていたかが争われることになる。
市は「訴状を確認して対応」 原告はほかの受給者への影響にも言及
男性は提訴に際し、自身が経験した問題について「これは氷山の一角」との認識を示した。裁判を通じて適切な取り扱いを求めることが、同様の問題を抱える人の救済にもつながると考えているという。
これに対し、加須市は訴状がまだ届いていないとして、受け取り次第、内容を確認したうえで適切に対応するとの立場を示している。職員の発言に関する事実確認の状況や、過去の障害者加算の認定について、市がどのような判断を行っていたのかは明らかになっていない。
男性側が主張する未支給額や職員の発言について、現時点で市の違法行為が認定されたわけではない。今後は、当時の障害の状況や市とのやり取り、加算の支給記録などを基に、双方の主張が審理される見通しだ。
編集部まとめ
今回の訴訟では、障害者加算167万6420円の未支給をめぐる主張に加え、生活保護の担当職員による暴言の有無も争われる。原告側は、市が早い段階から男性の症状を把握していたとして、加算の認定に向けた対応が不十分だったと訴えている。
市側の詳しい説明はまだ示されていない。加算の支給要件を満たしていた期間や当時の事務処理、男性が訴える職員の発言について、裁判でどこまで事実が明らかになるかが注目される。
特記事項
本記事は2026年10月23日時点の提訴報道、原告側代理人の説明および厚生労働省の生活保護関係通知に基づき構成した。訴状の原本および市への直接取材による回答は確認しておらず、原告側の主張と確認済みの事実を区別して記載している。
週刊TAKAPI 編集部/松本
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