あと一人。
横浜スタジアムの視線が、マウンド上の織田翔希投手(3年)へ集まった。
横浜が大差でリードし、甲子園出場は目前。それでも織田は、力を抜いて終わらせるつもりなどなかった。
9回2死。最後の打者を迎えると、右腕は明らかにギアを入れ替えた。
初球、157キロ。
2球目、156キロ。
3球目、再び157キロ。
4球目、155キロ。
5球目も155キロ。
炎天下の決勝を投げ抜いた高校生が、最後の打者への5球をすべて155キロ以上でそろえた。横浜スタジアムがどよめくのも当然だった。
7月26日、第108回全国高校野球選手権神奈川大会決勝。横浜は桐光学園を11―1で破り、2年連続22度目となる夏の甲子園出場を決めた。春夏を通じて4季連続となり、県内公式戦の連勝も39に伸ばした。
その中心にいたのは、万全とは言えない状態で先発を志願し、最後までマウンドを守ったエースだった。
本来なら、別の投手が先発するはずだった
決勝の2日前、織田は準決勝の慶応戦に先発していた。
初回から150キロ台を連発し、2回には自己最速となる157キロを計測。慶応打線を無安打無失点に抑えていたが、足に異変が出て7回途中で降板した。
決勝までは中1日。
村田浩明監督は当初、小林鉄三郎投手の先発を考えていたという。エースの状態や将来を考えれば、無理をさせない判断も自然だった。
しかし試合前、織田は監督のもとへ向かった。
「きょう、行きたいです」
監督人生で初めて受けたという、選手からの先発志願だった。
投げられる保証があったわけではない。最後まで持つ確信があったわけでもない。
それでも織田は、高校最後の神奈川大会決勝をほかの誰かに預けなかった。
悪天候で開始が遅れても、初回から155キロ
決勝は悪天候の影響で試合開始が15分遅れた。待たされた直後のマウンドで、負傷明けの投手がどこまで出力を上げられるのか。球場には期待と不安が入り交じっていた。
その心配を、織田は最初の打者から吹き飛ばした。
初回に155キロを計測。力のある直球にスライダー、フォーク、チェンジアップを交え、桐光学園打線を押し込んだ。
6回に併殺の間に1点を失ったものの、大きく崩れることはない。
打線も11得点を奪い、エースを援護した。
スコアだけを見れば横浜の圧勝だった。
しかし、この決勝を特別な試合にしたのは、11点という得点差ではない。
最後まで落ちなかった織田の出力だった。
最高球速ではなく、「最後まで出せること」が異常だった
織田の凄みは、157キロという数字だけではない。
高校生が地方大会で157キロを記録するだけでも衝撃的だが、決勝を投げ抜いた最終盤に、その出力をもう一度引き出した。
最後の5球が示したのは、単純な最高速度ではなかった。
球数を重ねてもフォームと出力を維持できる身体能力。疲労と痛みを抱えながらも、勝負どころで最大出力へ切り替えられる集中力。そして、試合を終わらせる責任を自分で引き受けるエースの意志だった。
準決勝にはNPBとメジャーを合わせて多数の球団関係者が集まり、その出力の高さや安定性を評価する声が出ていた。決勝の最終回は、その評価をさらに裏付ける投球となった。
SNSは驚きと心配で割れた
最後の投球が伝わると、SNSでは球速とスタミナへの驚きが広がった。
「最後に157キロは異常」
「高校生とは思えない」
「最終盤で出力が上がるのは怪物すぎる」
一方で、準決勝で足に異変が出ていたことから、甲子園へ向けた状態を心配する反応も目立った。
もっと投球を見たい。だが、無理を重ねてほしくない。
織田の剛球は、ファンにその両方を抱かせた。
勝った瞬間、怪物右腕が泣いた
最後のアウトが決まると、織田の表情が崩れた。
試合後の整列では足を引きずり、味方の肩を借りるようにして歩いた。
マウンドでは痛みを見せず、最後の打者へ155キロを超える直球を投げ続けた。その緊張が勝利の瞬間に切れ、大粒の涙となってあふれた。
「全部出し切った」
その言葉どおりだった。
ただ速いだけの投手なら、ここまで人の心は動かさない。
投げられるか分からない状態で先発を志願したこと。失点を最小限に抑えて試合を作ったこと。最後までマウンドを降りなかったこと。そして、役目を終えた瞬間に泣いたこと。
そのすべてが重なり、織田翔希というエースの物語になった。
怪物の証明と、甲子園へ残された課題
劇的な完投だったからこそ、冷静に見なければならない部分もある。
準決勝で足に異変が出た投手が、中1日で決勝を投げ切った。甲子園へ向けて最優先されるべきなのは、さらなる球速ではなく身体の回復だ。
横浜には厚い投手陣がある。
全国制覇を狙うなら、織田一人にすべてを背負わせるのではなく、エースをどのように守りながら勝ち進むかが重要になる。
最後の5球は、怪物の証明だった。
同時に、その怪物へこれ以上何を背負わせるのかを問いかける5球でもあった。
編集部まとめ
中1日で決勝の先発を志願した横浜・織田翔希は、桐光学園を1失点に抑えて完投。9回2死から最後の打者へ投じた5球は、すべて155キロ以上だった。横浜を4季連続の甲子園へ導いた一方、準決勝で足に異変が出ていただけに、全国大会へ向けた回復と投手運用も焦点になる。157キロの剛球と試合後の涙は、エースの強さと、その身体が背負った重さの両方を映していた。
週刊TAKAPI編集部/松本
特記事項:本記事は大会結果、スポーツ報道および公開されているSNS上の反応を基に構成しています。SNS上の声は代表的な傾向を要約したもので、個別投稿を直接引用したものではありません。
怪物右腕が決勝で見せたもの
中1日で先発を志願した横浜・織田翔希は、足に不安を抱えながら桐光学園を1失点で完投した。9回2死から最後の打者へ投じた5球はすべて155キロ以上。横浜を4季連続の甲子園へ導き、試合後には涙を流した。異次元の球速とエースの覚悟が強く残る決勝となった。
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