【検証】学校で起きた「犯罪行為」はいじめ重大事態になるのか 見落とされる性被害・暴力と学校の調査義務

学校内で起きる暴力、性的な嫌がらせ、金品の要求、SNS上での画像や動画の拡散。

学校ではしばしば「生徒間トラブル」「悪ふざけ」「指導上の問題」といった言葉で扱われる。

しかし、その行為が刑法上の暴行、傷害、恐喝などに該当する可能性がある場合でも、それが同時に「いじめ」である可能性は消えない。

さらに、被害を受けた児童生徒の生命、心身、財産に重大な被害が生じた「疑い」があれば、いじめ防止対策推進法上の「重大事態」として調査が必要になる場合がある。

重要なのは、重大な被害が完全に証明されてから調査する制度ではないという点だ。

文部科学省のガイドラインは、重大な被害が生じた「疑い」がある段階から、学校や学校設置者が重大事態として対応を開始することを求めている。

学校で起きた犯罪性のある行為と「いじめ重大事態」は、どこで交わるのか。

週刊TAKAPIが制度を検証する。

「犯罪」と「いじめ」は別物ではない

いじめ防止対策推進法では、「いじめ」は、一定の人的関係にある児童生徒から心理的または物理的な影響を受け、対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものと定義されている。

つまり、

殴る。
蹴る。
物を壊す。
金を要求する。
性的な行為を強要する。
SNSで画像や動画を拡散する。

こうした行為が刑法などに触れる可能性があるからといって、「いじめ」ではなくなるわけではない。

むしろ、同じ行為について、

「学校教育上はいじめ」

「刑事法上は犯罪行為に該当する可能性」

という二つの側面から対応しなければならないケースがある。

文科省も、学校で起き得るいじめについて、暴行や傷害など犯罪に該当し得る具体例を示し、犯罪行為として取り扱われるべき事案については警察との連携を求めている。 (文部科学省)

重大事態になる基準は「犯罪かどうか」ではない

では、犯罪性のある行為が起きれば、自動的に「いじめ重大事態」になるのか。

答えは、必ずしもそうではない。

重大事態を定める基準は、「犯罪が成立するか」ではなく、いじめによって重大な被害が生じた疑いがあるかどうかだ。

いじめ防止対策推進法28条は、大きく二つの場合を重大事態としている。

一つは、いじめによって児童生徒の生命、心身または財産に重大な被害が生じた疑いがある場合。

もう一つは、いじめによって相当期間、学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある場合だ。

このいずれかに該当すれば、学校または学校設置者には、速やかに組織を設けて事実関係を明確にするための調査を行うことが法律上求められる。 (文部科学省)

最大のポイントは「疑い」の段階

この制度で特に重要なのが、「重大な被害が確認された場合」ではなく、「重大な被害が生じた疑いがある場合」とされていることだ。

文科省の2024年8月改訂ガイドラインも、重大事態について、

重大な被害が生じた疑い、またはいじめによって不登校を余儀なくされた疑いがある段階

から対応を開始する制度だと明確にしている。 (文部科学省)

つまり、

「まだ事実関係が確定していない」

「加害側と被害側で説明が違う」

「医師の診断がまだ出ていない」

といった事情だけで、重大事態への対応を先送りしてよいとは限らない。

重大事態調査は、まさにその事実関係を明らかにするために行うものだからだ。

性的被害は特に見落としてはいけない

学校内のトラブルで注意が必要なのが、性的な嫌がらせや性被害だ。

身体を触る。
服を脱がせようとする。
性的な画像を撮影する。
画像や動画をSNSで共有する。
性的な言葉を執拗に浴びせる。

こうした行為は、被害児童生徒に深刻な精神的影響を与える可能性がある。

さらに行為の内容によっては、刑法や性的姿態撮影等処罰法、児童ポルノ禁止法などの問題になる可能性もある。

学校側が単に「ふざけ」「生徒同士のトラブル」として処理すれば、教育上の問題だけではなく、重大事態や警察との連携という観点まで見落とす危険がある。

文科省も、インターネットを利用した名誉毀損や児童ポルノ関連事犯など、犯罪行為として扱うべきいじめについて警察との連携を求めている。 (文部科学省)

殴る、蹴る――「指導」で終えてよいのか

暴力も同じだ。

生徒同士で殴る、蹴るといった行為について、学校現場では生活指導や生徒指導として処理されることがある。

だが文科省は、学校で発生し得る犯罪行為の例として、同級生の腹を繰り返し殴ったり蹴ったりする行為を「暴行」、顔を殴って骨折させる行為を「傷害」の例として示している。 (文部科学省)

そして2026年1月30日、文科省はSNS上で暴力行為の動画が投稿・拡散された問題を受け、全国の学校などに緊急通知を出した。

通知では、見過ごされている暴力やいじめがないか改めて確認するとともに、暴力行為やいじめの中には暴行罪や傷害罪などの犯罪行為に該当し得るものがあるとして、警察との連携を求めている。 (文部科学省)

2026年になっても国が改めてこの点を通知しなければならなかったという事実は重い。

学校には警察との連携義務もある

いじめ防止対策推進法23条6項は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものだと認められる場合、学校は所轄警察署と連携して対処すると規定している。

さらに、児童生徒の生命、身体または財産に重大な被害が生じるおそれがある場合には、直ちに警察に通報し、援助を求めなければならない。 (文部科学省)

つまり、

「学校内のことだから学校だけで解決する」

という発想には限界がある。

教育的指導が必要であることと、犯罪の可能性について警察と連携することは両立する。

保護者が警察対応を求めた場合

被害児童生徒や保護者が「犯罪として扱ってほしい」と訴えた場合についても、文科省は警察との連携を示している。

過去の通知では、重大ないじめ事案に該当しない場合であっても、児童生徒や保護者が犯罪行為として取り扱うことを求めた場合、警察が被害届を受理することを踏まえ、学校側も捜査や調査に協力するよう求めている。 (文部科学省)

学校が「これは警察案件ではない」と一方的に決めて終わらせる制度にはなっていない。

「本人が重大事態だと言ったら」どうなるのか

重大事態をめぐっては、学校側と被害児童生徒・保護者側で認識が食い違うことも珍しくない。

しかし重大事態制度は、学校が最初からすべての事実を認定してから始める制度ではない。

だからこそ文科省は、重大な被害等の「疑い」の段階から重大事態として扱い、調査に向けて動き出せる体制を学校設置者に求めている。

2026年3月19日に文科省が公表した点検結果でも、重大事態への対応手順を十分に整備していない学校設置者が残っているとして、改めて対応の徹底を求めた。 (文部科学省)

なぜ「学校内のトラブル」という言葉が危険なのか

もちろん、児童生徒同士のすべてのトラブルが犯罪になるわけではない。

すべてのいじめが重大事態になるわけでもない。

問題なのは、最初から

「けんかだった」

「悪ふざけだった」

「双方に問題があった」

「学校内で指導済み」

と分類してしまうことで、その後に必要な判断まで止めてしまうケースだ。

本来確認すべきなのは、

何が起きたのか。

被害児童生徒はどう受け止めているのか。

身体的・精神的被害は生じていないか。

欠席や転校につながっていないか。

犯罪行為に該当する可能性はないか。

そして、重大事態の「疑い」がないか。

という点だ。

調査は誰かを罰するためだけの制度ではない

重大事態調査について、「加害者を処罰するための調査」と理解されることもある。

しかし文科省のガイドラインは、重大事態調査について、民事・刑事・行政上の責任追及を直接の目的とするものではないと整理している。

目的は、何が起きたのかを明らかにし、被害児童生徒への対応と再発防止につなげることにある。 (文部科学省)

だからこそ警察の捜査と学校の重大事態調査は、どちらか一方を選択する関係ではない。

刑事事件として警察が動いていても、学校側に必要な重大事態調査がなくなるわけではない。

2026年になっても文科省が「見落とすな」と通知

文科省は2026年3月、全国の学校・学校設置者を対象にした点検結果を公表した。

その中で、

・犯罪行為に相当し得るいじめについて警察に相談・通報することを保護者などへ周知すること

・重大事態発生時の対応手順をあらかじめ明確にすること

などについて、なお十分ではない学校や設置者があることを明らかにした。

文科省は「疑い」の段階から重大事態として扱うことができるよう、体制整備を改めて求めている。 (文部科学省)

制度ができて10年以上が経過した。

それでも国が繰り返し通知を出している。

そこには、法律と学校現場の運用との間に、なお距離があることがうかがえる。

問われるのは「最初の判断」

学校で暴力や性的被害を訴える児童生徒が現れたとき、最初にどの言葉で扱うか。

「トラブル」と呼ぶのか。

「いじめ」と認知するのか。

警察へ相談するのか。

重大事態の可能性を検討するのか。

その初動によって、その後の調査や被害児童生徒の保護は大きく変わる。

犯罪行為に該当する可能性があるほど重大な行為であれば、なおさら「学校の中で起きたこと」という理由だけで軽く扱うことはできない。

学校には教育の場として子どもを守る役割がある。

そして現在の法律は、必要な場合には学校だけで抱え込まず、学校設置者、警察、医療や福祉などとも連携して対応することを前提としている。

「これはいじめなのか」

「犯罪なのか」

二者択一で考えること自体が、問題を見誤らせる可能性がある。

一つの行為が、いじめであり、重大事態の対象となり、同時に犯罪行為として捜査対象になる。

学校現場には、その可能性を最初から排除しない対応が求められている。

Q学校で犯罪行為が起きた場合、自動的に「いじめ重大事態」になりますか?
A自動的になるわけではありません。重大事態かどうかは、犯罪が成立するかではなく、いじめによって生命、心身、財産に重大な被害が生じた疑いがあるか、または相当期間の欠席を余儀なくされた疑いがあるかなどを基準に判断されます。
Q暴行や傷害にあたる行為でも「いじめ」になりますか?
Aなり得ます。刑法上の犯罪行為に該当する可能性があることと、いじめ防止対策推進法上の「いじめ」に該当することは両立します。犯罪性があるから「いじめではない」ということにはなりません。
Q性的な嫌がらせや性被害も、いじめ重大事態になることがありますか?
Aあります。身体への接触、性的行為の強要、性的な画像の撮影・共有などによって重大な精神的・身体的被害が生じた疑いがあれば、重大事態として調査が必要になる可能性があります。
Q重大事態は被害が確定してから認定されるのですか?
Aいいえ。重要なのは「重大な被害が生じた疑い」がある段階です。事実関係を完全に確定してから調査を始める制度ではなく、疑いがある段階から重大事態として対応することが求められています。
Q学校内で起きた暴力について、学校は警察に相談できますか?
Aはい。犯罪行為として取り扱われるべきいじめについては、学校は所轄警察署と連携して対応することが法律上求められています。生命、身体、財産に重大な被害が生じるおそれがある場合は、直ちに警察へ通報し援助を求める規定もあります。
Q警察が捜査している場合、学校の重大事態調査は不要になりますか?
A原則として別の制度です。警察の捜査は刑事責任を明らかにするためのもので、学校や学校設置者による重大事態調査は、事実関係の把握、被害児童生徒の支援、再発防止などを目的とします。
Q保護者が「重大事態だ」と申し立てた場合、学校はどう対応すべきですか?
A学校側の認識だけで直ちに否定するのではなく、重大な被害が生じた疑いがあるかを確認し、重大事態に該当する可能性を適切に検討する必要があります。
Q「生徒同士のトラブル」「悪ふざけ」と学校が判断すれば、それで終わりですか?
Aいいえ。呼び方ではなく、実際にどのような行為があり、被害児童生徒にどの程度の身体的・精神的影響が生じたか、欠席や転校につながっていないか、犯罪行為に該当する可能性がないかを確認する必要があります。

週刊TAKAPI 編集部/たかぴ

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