名古屋市に本社を置くヴィレッジヴァンガードコーポレーションが、大規模な店舗網の見直しを進めている。
2026年5月期には、全国で62店舗を退店。一方、連結業績は売上高が減少したものの、前期の営業赤字から9億1900万円の営業黒字へ転換した。
「遊べる本屋」として全国に広がった愛知発祥の企業は、閉店によって事業を縮小しているだけなのか。それとも、再成長へ向けた収益構造の転換が始まったのか。
最新決算から見えるのは、ひとまず赤字を止めた一方、売上成長や店舗の魅力再生はこれからという、再建途上の姿だ。
ヴィレッジヴァンガードが2026年5月期に62店舗を閉鎖
ヴィレッジヴァンガードコーポレーションの決算説明資料によると、2026年5月期の出退店実績は次の通りだった。
- 出店:1店舗
- 退店:62店舗
- 純減:61店舗
退店した62店舗の内訳は、主力の「ヴィレッジヴァンガード」が53店舗、「new style」が6店舗、「アウトレット」が2店舗、FC店が1店舗だった。
2026年6月1日時点の店舗数は全国232店舗。このうち「ヴィレッジヴァンガード」は218店舗、「new style」は5店舗、アウトレットは9店舗となっている。
大量閉店前の293店舗から比べると、店舗網は1年間で2割以上縮小した計算だ。
なお、2025年7月には業績回復が難しいと判断した81店舗について閉店の可否を検討する方針が広く報じられた。その後、2026年5月期に実際に退店したのが62店舗であり、「81店舗すべてを同時に閉鎖した」という意味ではない点には注意が必要だ。
売上高は6.4%減、営業利益は約18億円改善
2025年5月期と2026年5月期の連結業績は、次の通りです。
売上高
2025年5月期:249億6200万円
2026年5月期:233億5300万円
前期との差:16億800万円減
売上総利益
2025年5月期:93億6200万円
2026年5月期:104億3600万円
前期との差:10億7400万円増
営業利益
2025年5月期:9億3500万円の赤字
2026年5月期:9億1900万円の黒字
前期との差:18億5500万円改善
経常利益
2025年5月期:9億9500万円の赤字
2026年5月期:8億5800万円の黒字
前期との差:18億5300万円改善
当期純利益
2025年5月期:42億4700万円の赤字
2026年5月期:7億3600万円の黒字
前期との差:49億8400万円改善
62店舗を退店しながら、売上高の減少率が6.4%にとどまったことは重要だ。
閉鎖対象に売上規模や採算性の低い店舗が多く含まれていた可能性があり、店舗数の減少幅ほどには全社売上が落ちなかった。既存店売上高も前期比99.8%で、ほぼ前年水準を維持した。
ただし、2026年5月期の売上高と各利益は会社予算を下回った。黒字転換は明確な前進だが、計画通りに再建が進んだとまでは評価できない。
黒字化を支えたのは原価率と固定費の改善
利益改善の要因として大きいのが、売上原価率の低下だ。
売上原価率は前期の62.5%から、2026年5月期には55.3%へ7.2ポイント改善。売上高が減少したにもかかわらず、売上総利益は約10億7400万円増えた。
販売費・一般管理費も、前期から7億8100万円減少して95億1700万円となった。主な費用は次のように減っている。
- 人件費:50億3700万円から47億5200万円
- 地代家賃:22億3800万円から21億4200万円
- 減価償却費:2億1500万円から1億4800万円
不採算店舗の閉鎖によって家賃や人件費を削減し、在庫の処分・圧縮を進めたことが黒字転換につながったとみられる。
商品在庫は158億円から102億円へ圧縮
ヴィレッジヴァンガードの課題を考えるうえで、店舗数と同じく重要なのが在庫だ。
商品在庫は、2024年5月期末の158億9000万円から、2025年5月期末に113億3500万円、2026年5月期末には102億4600万円まで減少した。
2年間で約56億円を圧縮したことになる。
同社は2025年5月期に棚卸資産評価損を含む大規模な特別損失を計上し、当期純損失は42億円を超えた。2026年5月期の利益改善には、不採算店舗の整理だけでなく、前期までに滞留在庫の評価を見直した反動も含まれる。
したがって、今回の黒字をそのまま「商品が再び爆発的に売れ始めた結果」と見るのは早い。
不採算資産と固定費を整理し、利益を出せる規模まで会社を縮めた結果という側面が強い。
営業キャッシュフローは20億円超、現預金も増加
資金面にも改善が表れている。
2026年5月期の営業活動によるキャッシュフローは20億4400万円のプラス。現金及び現金同等物の期末残高は、前期末の20億8600万円から48億6800万円へ増加した。
貸借対照表上の商品在庫は減少し、現金・預金は増加している。少なくとも短期的には、資金繰りの余力を高める方向へ進んだと読める。
一方、財務活動によるキャッシュフローは10億円のプラスだった。事業そのものの改善だけでなく、資金調達も現預金増加に寄与しているため、営業キャッシュフローと資金調達効果を分けて見る必要がある。
2027年5月期も40店舗の退店を計画
大規模な閉店は、2026年5月期で終わるわけではない。
会社は2027年5月期について、出店2店舗、退店40店舗、純減38店舗を計画している。
つまり、62店舗閉鎖後も店舗網の選別は続く。
2027年5月期の連結業績計画は、売上高218億8100万円、営業利益5億400万円、当期純利益1億2600万円。売上高だけでなく、営業利益も前期実績を下回る見通しだ。
会社は、不採算店舗の退店による売上減少を見込む一方、店舗事業の採算改善と、POPUP・EC事業の拡大に注力すると説明している。
大量閉店後すぐに成長路線へ戻るのではなく、2027年5月期も事業規模の適正化を優先する計画といえる。
ECとPOPUPは「店舗縮小後」の柱になれるか
店舗事業
2026年5月期実績:239億1800万円
2027年5月期計画:212億1000万円
POPUP事業
2026年5月期実績:10億1900万円
2027年5月期計画:12億6700万円
EC事業
2026年5月期実績:9億4500万円
2027年5月期計画:13億3100万円
※事業別売上高は連結調整前の数値です。
※事業別売上高の合計は、連結調整前の数値。
ヴィレッジヴァンガードは、漫画、アニメ、VTuber、クリエーターなどとの限定商品やコラボ企画を数多く手がけている。こうした商品は全国一律の大型店舗網を持たなくても、ECや期間限定店で販売できる。
常設店の固定費を抑えながら、話題性の高い企画に合わせて売り場を作る。再建後のヴィレッジヴァンガードは、店舗数を競う小売チェーンから、コンテンツと限定商品を売る企画企業へ比重を移す可能性がある。
アントレックスとの提携で商品開発を強化
同社は2026年5月、輸入雑貨や生活家電などを扱うアントレックスとの業務提携を発表した。
提携では、独自商品の共同開発、プライベートブランド立ち上げの支援、優先的な商品供給、販売データを活用した需要予測などを進める。
ヴィレッジヴァンガードの弱点の一つは、店頭の意外性を重視する一方、需要を超えて商品を抱えれば滞留在庫が増えやすいことだ。
商品調達と需要予測の精度を上げられるかは、今回改善した原価率を一時的なものに終わらせないための重要な条件になる。
愛知発祥企業にとって本店閉店が持つ意味
ヴィレッジヴァンガードは1986年、名古屋市天白区で創業した。
その第1号店である本店も、建物と設備の老朽化を理由に2026年5月31日で閉店した。会社全体の不採算店整理とは理由が異なるものの、創業40年の節目で象徴的な店舗が姿を消した意味は小さくない。
同社の価値は、商品を効率的に並べる一般的なチェーン店とは違い、スタッフの選書や手書きPOP、雑多な陳列によって「知らなかったものと出会える空間」を作った点にあった。
店舗の効率化を進めすぎれば、その個性を失う恐れがある。一方、従来型の店舗運営に固執すれば、家賃、人件費、過剰在庫の問題が再び重くなる。
愛知で生まれた独自の売り場文化を、採算の取れる形でどう残すのか。再建局面の本当の難しさは、数字の黒字化後にある。
【編集部の考察】黒字転換は「再建完了」ではなくスタート地点
2026年5月期の決算から、閉店策が一定の効果を上げたことは確認できる。
62店舗を退店し、在庫と固定費を削減した結果、営業損益は約18億円改善した。営業キャッシュフローも黒字となり、財務上の急場をしのぐ体力は回復している。
しかし、これは主に守りの改革だ。
2027年5月期も40店舗の退店を計画し、売上高と利益はいずれも減少する見通しとなっている。ECとPOPUPの成長計画は示されたものの、店舗事業の減収を埋める規模にはまだ達していない。
今後確認すべきポイントは、次の3点だ。
第一に、既存店売上高を維持できるか。店舗を減らした後に残った店まで客数を落とせば、再び固定費負担が重くなる。
第二に、在庫圧縮後も魅力的な品ぞろえを維持できるか。在庫削減だけを優先し、売り場から意外性や発見が失われれば、ヴィレッジヴァンガードで買う理由そのものが弱くなる。
第三に、ECとPOPUPを継続的な利益源へ育てられるか。限定グッズは話題性が高い一方、作品やタレントの人気に左右されやすい。単発ヒットではなく、安定した収益モデルを構築できるかが問われる。
「62店舗閉鎖」のその後に見えるのは、危機を脱した完成形ではない。大きく身を削り、ようやく再建のスタートラインに立ったヴィレッジヴァンガードの姿である。
※本記事は公開されている企業情報、報道内容、地域特性、市場動向などをもとに編集部が独自に考察した内容です。企業や関係者が公表している出店理由・経営方針を断定するものではなく、一部に編集部の見解や推測が含まれます。最新かつ正確な情報は、各企業・自治体の公式発表をご確認ください。
週刊TAKAPI編集部:黒木
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