豊橋駅前で営業する居酒屋「どんべえ」の運営会社が、同じく豊橋駅前の大衆居酒屋「ひっぱり凧」を事業承継したことが分かった。
今回の承継ではM&Aの手法を活用。売り手と買い手はいずれも豊川信用金庫豊橋支店の取引先で、地域金融機関が持つネットワークを生かした事業承継となった。
後継者不在を理由に店を閉じるのではなく、近隣で同業態を展開する事業者へ店舗と従業員を引き継ぐ形で、豊橋駅前の飲食店が残されることになる。
「ひっぱり凧」を「どんべえ」運営会社が承継
事業を引き継いだのは、豊橋市広小路1丁目で居酒屋「どんべえ」を運営する有限会社幹成。
一方、事業を譲渡したのは、大衆居酒屋「ひっぱり凧」を運営してきたエヌケー株式会社だ。
「ひっぱり凧」は豊橋市松葉町2丁目にあり、豊橋駅から徒歩圏内。昭和レトロを感じさせる店内を特徴とし、焼き鳥や刺身、おでん、揚げ物などを提供してきた。
公式サイトによると、1階にはテーブル席や座敷、2階には宴会場があり、忘新年会や歓送迎会などにも対応している。
一方の「どんべえ」は豊橋市広小路1丁目、豊橋駅から徒歩約3分の場所で営業。公式サイトによると客席数は180席で、豊橋駅前で長く営業を続ける居酒屋だ。
なぜひっぱり凧は事業譲渡を選んだのか
今回の背景にあるのが、後継者問題だ。
報道によると、エヌケーの高橋宏行社長は72歳。後継者がおらず、自身の年齢も考慮して事業を引き継ぐ相手を探していたという。
そこで承継先となったのが、同じ豊橋駅前で居酒屋を運営する幹成だった。
遠方の企業やまったく異なる業種への譲渡ではなく、近隣で同じ飲食業を営み、互いに顔が分かる事業者への承継となったことが今回の特徴の一つだ。
従業員も承継 「ひっぱり凧」の店はどうなる?
今回の事業承継では、店舗だけではなく従業員も引き継がれた。
幹成の山口義晴社長は、同じ業態かつ同じエリアで営業しているため地域の顧客ニーズを把握しており、事業規模の拡大につながると判断したとしている。
また、既存の従業員を引き継ぐことで、承継後も安定した店舗運営につなげられるメリットがある。
注目されるのは、「ひっぱり凧」という店舗が今後どうなるかだ。
現時点では「どんべえ」へ店名を統一するのではなく、ひっぱり凧が持つ現在のコンセプトを大切にしながら、店舗をさらにブラッシュアップしていく方針が示されている。
つまり今回の事業承継は、単純に「ひっぱり凧が閉店して、どんべえになる」という話ではない。
長年築いてきた店舗の特徴や従業員を残しながら、運営主体を次の事業者へ移す形となる。
豊川信用金庫「同じ豊橋支店の取引先」同士をつなぐ
もう一つのポイントが、豊川信用金庫豊橋支店の取引先同士による事業承継だったことだ。
売り手のエヌケーと、買い手の幹成は、ともに豊川信用金庫豊橋支店の取引先。
豊川信用金庫は、同じ支店の取引先同士による今回のケースを、地域に密着した金融機関だからこそ実現できたスキームとしている。
金融機関は融資だけではなく、日常的な取引を通じて地域企業の事業内容や経営課題を把握する立場にある。
「事業を譲りたい会社」と「事業を拡大したい会社」を同じ地域の中で結びつけることができれば、後継者問題を解決する選択肢の一つとなる。
豊川信金とバトンズは2024年から事業承継で連携
今回の承継には、M&A・事業承継支援プラットフォームを展開する「バトンズ」も関わった。
バトンズは2024年8月、豊川信用金庫との事業承継分野での提携開始を発表している。
目的として掲げられたのが、愛知県三河地区を中心とする後継者不在企業の第三者承継やM&Aを進め、雇用を守り、地域経済の活性化につなげることだった。
豊川信用金庫も現在、事業承継・M&Aを経営支援サービスの一つとして位置付けている。
同金庫はM&Aについて、売り手側には従業員の雇用継続や廃業コストの削減、買い手側には事業拡大やノウハウ・設備の獲得などのメリットがあるとしている。
さらに豊川信用金庫の公表資料によると、2025年4月に「事業アトツギ支援課」を新設し、事業承継・M&A支援を強化している。
「廃業」ではなく「第三者承継」という選択肢
今回の「ひっぱり凧」のケースで重要なのは、経営者に後継者がいないことが、そのまま店舗の消滅にはつながらなかった点だ。
特に飲食店の場合、閉店すれば店名だけではなく、従業員の雇用、常連客との関係、仕入れ先との取引、調理や接客のノウハウなども失われる可能性がある。
一方、M&Aによる第三者承継であれば、経営者の親族や社内に後継者がいなくても、別の企業へ事業そのものを引き継げる可能性がある。
今回、「ひっぱり凧」では店舗の営業基盤だけでなく従業員も承継された。
豊橋駅前という同じ商圏で営業する「どんべえ」側にとっても、ゼロから新店舗を立ち上げるのとは異なり、既存の店、人材、顧客基盤などを生かしながら事業を拡大できる可能性がある。
豊橋駅前の店を地域内で次世代へ
豊橋駅周辺では長年営業してきた個人店や中小事業者も少なくない。
経営者の高齢化が進む中、「店は続けられるが後継者がいない」という問題は、今後さらに地域経済の課題になる可能性がある。
そうした中で今回成立したのは、同じ豊橋駅前で営業する居酒屋同士による事業承継だった。
売り手にとっては店舗と従業員を次の経営者へ引き継ぐことができ、買い手にとっては既存事業との親和性を生かした事業拡大につながる。
そして地域にとっては、長年親しまれてきた店舗や雇用が残る。
「ひっぱり凧」の事業承継は、東三河で後継者不足が課題となる中、地元企業・地域金融機関・M&A支援事業者が連携する第三者承継の一例として注目されそうだ。
今後は、運営会社が変わった後に「ひっぱり凧」のメニューや価格、営業時間、店舗コンセプトがどのように変化するのかも焦点となる。
店舗情報
ひっぱり凧
所在地:愛知県豊橋市松葉町2-40-5
営業時間:平日16:00~22:30、週末16:00~23:30
電話:0532-58-6066
※営業時間などは公式サイト掲載情報。最新情報は店舗へ確認してください。
居酒屋 どんべえ
所在地:愛知県豊橋市広小路1丁目37
営業時間:17:00~24:00
客席数:180席
定休日:日曜日(宴会等は要相談)
電話:0532-55-1845/0120-37-1845
※最新情報は公式サイトで確認してください。
※本記事は2026年10月6日時点で確認できた公表情報、各店舗の公式情報、報道内容を基に構成しています。事業譲渡の金額や契約条件など、公表されていない事項については記載していません。
週刊TAKAPI 編集部/黒木
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