後継者が見つからないまま、経営者に「もしも」が起きる。中小企業の事業承継をめぐる問題が、企業の存続そのものを左右する段階に入っている。
東京商工リサーチが2026年10月6日に公表した調査によると、2026年度上半期(4~9月)の「後継者難」倒産は263件となり、前年同期から23.4%増加した。
これまで年度上半期で最多だった2023年度同期の222件を上回り、過去最多を更新した。さらに注目されるのが倒産に至った理由だ。代表者の「死亡」と「体調不良」を合わせると225件に達し、全体の85.5%を占める。
事業承継を「いつか考える問題」として先送りすることのリスクが、数字となって表れ始めている。
「後継者難」倒産が263件 年度上半期として過去最多
東京商工リサーチによると、2026年度上半期の「後継者難」倒産は263件(前年同期比23.4%増)だった。
3年ぶりに前年同期を上回り、2023年度上半期に記録した222件を超えて過去最多となった。
今回の調査は、2026年度上半期に発生した負債1000万円以上の「人手不足」関連倒産のうち、「後継者難」を抽出して分析したものだ。
後継者問題というと、「子どもが会社を継がない」「親族に後継者がいない」というイメージを持ちやすい。
しかし今回の数字から見えてくるのは、それだけではない。
最大の要因は経営者の「死亡」120件
「後継者難」倒産を要因別に見ると、最も多かったのは代表者の「死亡」120件で、前年同期比22.4%増だった。
次いで「体調不良」105件で、同22.0%増。
この2つだけで225件となり、後継者難倒産全体の85.5%を占めた。
つまり、「後継者を決める前に経営者が亡くなった」「経営を続けられない状態になった」というケースが、後継者難倒産の大部分を占めていることになる。
事業承継では後継者を見つけるだけでは終わらない。経営ノウハウや取引先との関係、従業員との信頼関係、技術、許認可、株式、資産など、引き継ぐべきものは多岐にわたる。
そのため、経営者が元気なうちから準備する必要がある。
資本金1000万円未満が約7割 小規模企業ほど深刻か
企業規模にも特徴が表れている。
資本金別では、1000万円未満が180件で、前年同期比32.3%増。全体の68.4%を占めた。
倒産形態では「破産」が249件に達し、全体の94.6%を占めている。
東京商工リサーチは、小・零細企業では同族経営が多いことに加え、人的・資金的な余裕が乏しく、後継者育成や事業承継の準備が後回しになりやすいと指摘している。
大企業であれば経営者が交代しても組織として事業を継続できるケースが多い。
一方、小規模企業や個人事業では「社長自身」が営業、技術、取引先との関係、資金繰りなどを担っていることも少なくない。
経営者の突然の死亡や病気が、そのまま事業継続の危機につながる構造がある。
「黒字なら会社は残る」とは限らない
もう一つ重要なのが、業績が悪い企業だけの問題ではないという点だ。
中小企業庁がまとめた事業承継・引継ぎ支援事業の報告では、企業の休廃業・解散件数が増加するなか、その約半数が黒字企業だったとしている。
さらに、廃業予定企業の約3割が後継者不在を理由としているとされる。
利益が出ている。顧客もいる。技術もある。
それでも引き継ぐ人がいなければ、事業がなくなる可能性がある。
これは経営者個人だけの問題ではない。
企業がなくなれば従業員の雇用だけでなく、取引先、仕入先、地域のサービス、長年培われてきた技術やノウハウまで失われる可能性がある。
特に地域密着型の中小企業が多い地方では、事業承継問題は地域経済そのものの問題になり得る。
親族に継がせるだけではない M&Aも事業承継の選択肢
事業承継というと、経営者の子どもが会社を引き継ぐ「親族内承継」を思い浮かべる人も多い。
しかし現在は、それだけが選択肢ではない。
中小企業庁は事業承継について、
親族内承継
従業員承継
第三者承継(M&A)
などの方法を示している。
後継者候補が親族にいなくても、社内の役員や従業員に引き継ぐ方法がある。
さらに、会社や事業を必要とする第三者に譲渡することで、従業員の雇用や取引関係、ブランド、店舗、技術などを残せる可能性もある。
全国には公的相談窓口となる「事業承継・引継ぎ支援センター」が設置され、後継者不在企業と譲受希望者とのマッチングなども行われている。
愛知県でも無料の事業承継相談・M&A支援
愛知県でも愛知県事業承継・引継ぎ支援センターが設置されている。
同センターでは、親族内承継や第三者承継に関する相談のほか、事業承継診断、事業承継計画の策定、譲渡・譲受企業のマッチングなどを無料で支援している。
事業承継では「まだ会社を売るつもりはない」「子どもが継ぐか決まっていない」という段階でも、将来の選択肢を整理しておくことに意味がある。
経営者が健康で、会社の業績が安定している時期ほど、選択できる手段は多いからだ。
後継者問題は「その時になってから」では遅い
今回の263件という数字で特に重く受け止める必要があるのは、死亡・体調不良が85.5%を占めたことだろう。
経営者自身が元気であれば、「まだ数年は大丈夫」と考えてしまうこともある。
しかし病気や事故は予定できない。
そして突然経営できなくなった時点から後継者を探し、会社の価値を調査し、金融機関や取引先との調整を進めるのは簡単ではない。
事業承継は「引退するときに考える問題」ではなく、経営上のリスク管理として準備しておく問題へと変わりつつある。
直接支援だけでなく経営者側の意識改革も
国や自治体、金融機関などによる事業承継支援の重要性はさらに高まっている。
相談窓口を設置するだけでなく、後継者候補とのマッチング、専門家費用への支援、企業価値の整理、M&A支援など、実際の承継につながる直接的な仕組みが必要になる。
一方で、公的な制度が存在していても経営者が相談しなければ支援につながらない。
東京商工リサーチも、政府や金融機関の支援に加え、経営者自身が将来を見据え、事業継続、事業譲渡、廃業について早期に判断する意識改革が必要との見方を示している。
「誰に継がせるのか」。
そして、後継者がいなければ「誰に事業を託すのか」。
さらに承継が難しい場合には「いつ、どのように事業を終えるのか」。
263件という過去最多の数字は、こうした判断を先送りすることのリスクを改めて浮き彫りにした。
特記事項
本記事は、東京商工リサーチが2026年10月6日に公表した「2026年度上半期(4-9月)の『後継者難』倒産動向」および中小企業庁などの公表資料を基に構成しています。
事業承継の方法や必要な手続きは、企業の財務状況、株主構成、資産、負債、後継者の有無などによって異なります。実際の承継を検討する場合は、事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関、税理士など専門機関への相談が必要です。
週刊TAKAPI編集部:黒木
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