なぜ被害者は実名で、加害者は匿名なのか 特定少年・少年法・事件報道の仕組みを解説

重大事件の報道を見ていると、読者が違和感を持つ場面がある。

被害者は実名で報じられる一方、加害者側は「19歳の男」「自称塗装工の男」などと匿名に近い形で報じられることがある。

「なぜ被害者の名前は出るのに、加害者の名前は出ないのか」

「少年犯罪だから守られるのか」

「警察が報道機関に資料を渡しているのか」

こうした疑問は、事件報道を考えるうえで重要である。

この記事では、少年法、特定少年、被害者実名報道、警察発表、そして少年犯罪の実名報道をめぐる歴史的な転機について整理する。

この記事のポイント

18歳・19歳は、少年法上「特定少年」として扱われる。

特定少年は、起訴された場合に実名報道の制限が一部解除される。

逮捕段階では、報道機関が実名を控え、「19歳の男」「自称塗装工」などと報じることが多い。

被害者の実名報道は、警察発表、遺族の意向、事件の公益性、二次被害の恐れなどを踏まえて判断される。

事件報道は、警察発表や記者クラブ向け説明をもとに始まることが多いが、報道機関独自の取材も加わる。

少年事件の実名報道をめぐっては、1989年の女子高生コンクリート詰め殺人事件をめぐる一部週刊誌報道や、1998年の「新潮45」による実名・顔写真報道が大きな転機として語られてきた。

まず、なぜ加害者側は「19歳の男」と報じられるのか

加害者とされる人物が19歳の場合、少年法上は「特定少年」として扱われる。

18歳・19歳は、民法上は成人であっても、少年法の対象に残っている。

ただし、17歳以下の少年とは異なり、重大事件で起訴された場合には、実名など本人を推測できる報道の禁止が一部解除される。

ここが非常に重要だ。

特定少年だからといって、最初から実名報道が全面的に認められるわけではない。

原則として、起訴前の逮捕段階では、報道機関は匿名に近い形で報じることが多い。

そのため、記事では「19歳の男」「自称塗装工の男」「相模原市南区の男」などの表現になる。

「自称塗装工」とは何か

事件報道でよく見る「自称〇〇」という表現にも意味がある。

「自称塗装工」とは、本人が職業について「塗装工」と説明しているものの、警察や報道機関がその職業を完全に確認できていない、または公式に確認済みとして扱っていない場合に使われる表現である。

つまり、「本人はそう言っている」という意味だ。

これは、職業を断定することで誤報になるのを避けるための表現でもある。

事件報道では、職業、住所、年齢、認否などについて、確認できている情報と、本人の説明にとどまる情報を分けて表現する必要がある。

「自称」という言葉は、その線引きのために使われている。

なぜ被害者は実名で報じられるのか

一方で、被害者が実名で報じられることがある。

ここに、多くの読者が違和感を抱く。

被害者は亡くなっているのに名前が出る。

加害者とされる人物は生きていて、しかも疑いをかけられている側なのに匿名。

この構図は、被害者側にとって不公平に見えることがある。

被害者の実名報道には、いくつかの理由がある。

事件の重大性。

社会的な関心。

被害者が誰であったのかを明らかにする公益性。

事件の全体像を伝える必要性。

警察発表に実名が含まれていること。

ただし、警察が実名を発表したからといって、報道機関が必ず実名で報じなければならないわけではない。

遺族の意向、被害者の年齢、二次被害の恐れ、SNSでの拡散リスクなどを踏まえ、匿名で報じる選択もあり得る。

被害者実名報道への批判

被害者の実名報道には、強い批判もある。

特に、被害者が未成年の場合や、事件内容が極めてセンシティブな場合、実名報道によって遺族や関係者に二次被害が及ぶおそれがある。

SNS時代には、一度名前が出ると、学校、家族、友人関係、写真、過去の投稿などが掘り返されることがある。

その結果、事件とは関係のない憶測や中傷が広がることもある。

報道機関は、事件を伝える必要性と、被害者や遺族を守る必要性の間で判断しなければならない。

被害者の実名を出すことが常に正しいわけではない。

一方で、すべて匿名にすればよいという単純な話でもない。

社会が事件を記憶し、検証し、再発防止につなげるうえで、実名報道が意味を持つと考える立場もある。

少年法61条とは何か

少年事件の実名報道で重要になるのが、少年法61条である。

少年法61条は、少年本人を推測できるような記事や写真の掲載を禁止している。

氏名だけでなく、年齢、職業、住所、顔写真、学校名なども、組み合わせによって本人が特定される場合は問題になる。

この規定の目的は、少年の更生や社会復帰を妨げないようにすることにある。

少年事件は、刑罰だけでなく、少年の立ち直りを重視する制度の中で扱われる。

そのため、成人事件と同じように氏名や顔写真を報じることには慎重さが求められてきた。

特定少年とは何か

2022年の少年法改正により、18歳・19歳は「特定少年」として扱われることになった。

特定少年は、少年法の対象でありながら、17歳以下とは異なる扱いを受ける。

たとえば、重大事件で家庭裁判所から検察官に送致され、起訴された場合には、実名報道の制限が一部解除される。

つまり、特定少年については、起訴後に報道機関が実名や顔写真を報じる余地がある。

ただし、これは「必ず実名で報じなければならない」という意味ではない。

実名にするか匿名にするかは、事件の重大性、公益性、更生の可能性、被害者側の事情、社会的影響などを踏まえ、報道機関が判断する。

1番最初に少年犯罪を実名で報道した媒体はどこか

「少年犯罪を最初に実名で報道した媒体はどこか」と聞かれることがある。

ただ、これを一つの媒体名に断定するのは難しい。

少年事件の実名報道は、時代ごとの報道慣行、週刊誌報道、裁判報道、出版物などが複雑に関係しているためである。

そのうえで、戦後の少年事件実名報道を語るうえで大きな転機として挙げられるのが、1989年の女子高生コンクリート詰め殺人事件をめぐる一部週刊誌報道である。

この事件では、加害者とされた少年らをめぐり、一部週刊誌が実名を挙げた報道を行い、少年法61条や報道倫理をめぐる大きな議論を呼んだ。

当時、日弁連は一部週刊誌による少年の実名報道や、少年を強く断罪する報道姿勢に対して声明を出している。

つまり、この事件は、少年犯罪の実名報道をめぐる社会的議論を大きく広げた代表的な出来事だった。

「新潮45」実名報道事件

もう一つ大きな転機になったのが、1998年の堺市通り魔事件をめぐる「新潮45」の報道である。

この事件では、当時19歳の少年について、「新潮45」が実名や顔写真を掲載した。

これに対し、少年側がプライバシー権や名誉権などを理由に損害賠償を求め、裁判になった。

大阪高裁は、凶悪重大事件であり社会の正当な関心事である場合、表現内容に問題がなければ、実名報道が直ちに違法とはいえないという趣旨の判断を示したとされる。

この判決は、少年事件の実名報道をめぐる重要な裁判例として知られる。

ただし、これは少年法61条の趣旨を否定したものではない。

むしろ、少年の更生保護と、報道の自由・国民の知る権利のバランスをどう取るかという難しい問題を社会に突きつけた。

報道は警察から資料をもらっているのか

事件報道の多くは、警察の報道発表や記者クラブ向けの説明をもとに始まる。

警察は、事件の発生日時、場所、被害者の情報、容疑者の年齢や職業、住所の一部、逮捕容疑、認否や供述の一部などを発表することがある。

報道機関は、その発表をもとに速報を出す。

その後、現場取材、近隣住民への取材、学校や勤務先への確認、弁護士や関係者への取材、過去資料の確認などを行う。

記事の中で、

「警察によると」

「捜査関係者によると」

「代理人弁護士によると」

「関係者によると」

と表現が分かれるのは、情報源が違うためである。

警察がすべての情報を一方的に渡しているというより、警察発表を出発点に、報道機関が取材を重ねて記事を構成している。

警察発表と報道機関の判断は別

警察が実名を発表したとしても、報道機関が必ず実名で報じるとは限らない。

逆に、警察発表では匿名でも、報道機関の独自取材で実名を把握することもある。

ただし、実名を把握していることと、実名で報じることは別である。

報じるべき公益性があるのか。

二次被害の恐れはないのか。

本人や遺族の意向はどうか。

未成年者が関係していないか。

事件の性質上、実名報道が必要なのか。

こうした点を踏まえて、報道機関が判断する。

つまり、実名報道は「警察が出したからそのまま載せる」という単純なものではない。

なぜ読者は不公平に感じるのか

被害者は実名で、加害者は匿名。

この構図が不公平に見えるのは当然である。

被害者は何も悪くない。

それなのに名前が出る。

一方で、加害者とされる人物は少年法や特定少年の制度によって匿名性が守られる。

この違和感は、被害者遺族や読者の感覚として非常に重い。

ただし、制度上は、被害者実名報道と少年加害者の匿名報道は、別の論理で動いている。

被害者の実名は、事件の公益性や警察発表、報道判断の問題。

少年加害者の匿名は、更生保護と少年法の問題。

この二つが並ぶことで、社会には「被害者だけがさらされる」という印象が生まれる。

ここに、事件報道の大きな課題がある。

週刊TAKAPI編集部の視点

週刊TAKAPI編集部は、少年事件や未成年が関係する事件では、実名報道に慎重であるべきだと考える。

同時に、読者が抱く「なぜ被害者だけが実名なのか」という疑問も、決して軽視できない。

報道には、知る権利に応える役割がある。

しかし、報道によって被害者や遺族、関係者がさらに傷つくことがあってはならない。

特定少年についても、起訴後に実名報道が法律上可能になる場合があるが、可能であることと、報じるべきことは同じではない。

事件の重大性。

社会的影響。

更生の可能性。

被害者側の尊厳。

遺族の意向。

二次被害のリスク。

これらを一つずつ見極める必要がある。

週刊TAKAPIは、実名か匿名かという結論だけではなく、その判断の背景にある制度と報道倫理を、読者に分かりやすく伝えていく。

まとめ

被害者は実名で、加害者は匿名。

重大事件の報道では、この構図が読者に強い違和感を与えることがある。

19歳の加害者とされる人物は、少年法上「特定少年」として扱われ、起訴前は匿名に近い形で報じられることが多い。

一方、被害者の実名は、警察発表や報道機関の判断により出ることがある。

少年事件の実名報道をめぐっては、1989年の女子高生コンクリート詰め殺人事件をめぐる一部週刊誌報道、1998年の「新潮45」による堺市通り魔事件の実名・顔写真報道などが、大きな議論を呼んできた。

報道は、警察発表だけで成り立つものではない。

警察発表を出発点に、報道機関が取材し、公益性や二次被害のリスクを踏まえて判断する。

被害者の尊厳。

少年の更生。

社会の知る権利。

報道の自由。

そして、二次被害の防止。

事件報道では、これらのバランスが常に問われている。

本稿は、特定少年、少年法、被害者実名報道、警察発表の仕組みについて整理したコラムです。個別事件における実名・匿名の判断は、事件の性質や報道機関の判断により異なります。

リアルタイムサイト訪問者数
52

コメント

1件
  • 相模原・河川敷の女子高校生殺害事件 通夜に約300人参列、遺族「深い絶望と激しい怒り」 – 週刊TAKAPI

    […] なぜ被害者は実名で、加害者は匿名なのか 特定少年・少年法・事件報道の仕組みを解説 […]

この記事のコメント投稿は締め切られています。