【豊橋で世代を超えた“化学反応”】技科大生と60代市民が同じ教室へ 「懐かしさ」を語って見えた意外な共通点

豊橋技術科学大学の教室で大学生と60代の市民が世代を超えて意見を交わす講義のイメージ

愛知県豊橋市の豊橋技術科学大学で、学生と地域住民が同じ教室に集まり、世代を超えて意見を交わす新たな講義が始まっている。

工学を専門とする若い学生と、豊富な人生経験を持つ市民。普段はなかなか接点を持たない両者が、哲学的な問いや身近なテーマを通じて対話することで、教室には思いがけない“化学反応”が生まれている。

技科大生と豊橋市民が同じ立場で議論

豊橋技術科学大学は、半導体やセンサーなどの研究分野で知られる国立の工科系大学だ。

これまでの授業は、同年代で似た専門分野を学ぶ学生同士の交流が中心だった。一方で、新たな講義では地域住民も参加し、年齢や職業、人生経験の異なる人たちが同じ立場で意見を交わしている。

講義を担当する総合教育院の岩内章太郎准教授は、似た環境の学生だけで議論することには限界があると考え、市民との対話を通じて、学生に生活者としての感覚や社会との接点を身につけてもらうことを目指している。

工学の知識だけでなく、相手の話を聞き、自分の考えを伝える力を育てる狙いだ。

「目の前のリンゴは同じリンゴ?」から議論が白熱

授業では、哲学の視点からコミュニケーションを考える問いも投げかけられた。

テーマは、「目の前にあるリンゴは、自分が頭の中で思い浮かべるリンゴと同じなのか」。

学生からは、自身の経験や先入観によって、物の見え方が変わるのではないかという意見が出た。

これに対し、参加した60代の市民からは、「外国人が思い浮かべるリンゴと、日本人が考えるリンゴは違うのではないか」「新鮮なリンゴなのか、傷んだリンゴなのかでも印象は変わる」といった、生活経験に基づく意見が相次いだ。

一つのリンゴをめぐる問いから、文化や記憶、価値観の違いへと話が広がり、教室では活発な議論が展開された。

「技科大に来て5年目で初めて」学生にも新鮮な体験

大学院1年の小野寺幹太さんは、豊橋技術科学大学で学び始めて5年目になるものの、市民と一緒に受ける授業は初めてだったという。

これまで豊橋市民とゆっくり話す機会はほとんどなく、地域の人と直接意見を交わせる今回の講義を新鮮に感じている。

3年の林なずなさんも、異なる世代の人と知り合えることを歓迎しており、学生にとっては、大学の外にいる人たちとつながる貴重な機会になっているようだ。

豊橋で生活しながらも、大学と地域社会の間には見えない距離が生まれやすい。今回の講義は、その距離を教室の中から縮める試みともいえる。

60代市民も「若い人の考えが勉強になる」

学びを得ているのは学生だけではない。

参加した60代の八代明恵さんは、自分の子どもよりも若い学生たちの考え方に触れ、その視点の違いを興味深く感じているという。

年齢が若いから経験が足りないと決めつけるのではなく、自分にはない感覚を持つ相手として向き合うことが、参加する市民にとっても刺激になっている。

同じく60代の若子昌洋さんも、自分の経験を一方的に伝えるのではなく、若い世代の考えを聞いた上で、必要な助言ができればと話している。

教える側と教えられる側を固定しないことが、この講義の大きな特徴だ。

テーマは「懐かしさ」 世代差3倍でも共通点

新学期の開始から約2カ月後、教室では少人数のグループに分かれ、「懐かしさ」をテーマにした哲学対話が行われた。

学生と市民が、それぞれ懐かしいと感じる出来事や風景、思い出を語り合い、互いの共通点を探していく。

林さんは、人生の長さが自分たちの約3倍に及ぶ参加者の話を聞き、懐かしさにも経験の積み重ねによる深みがあると感じたという。

一方、小野寺さんは、自分が知らない時代や経験に触れることで視野が広がり、将来、年上の人と関わる際にも役立つのではないかと受け止めている。

八代さんは、世代が違っても、懐かしさを感じる心には共通する部分があると振り返った。

年齢も経験も違う。それでも、一つの感情について語り合えば、意外なところで重なる瞬間がある。講義は、世代の違いだけでなく、人と人との共通点にも気づかせている。

編集部まとめ

豊橋技術科学大学で始まった新たな講義は、地域住民を学生の学びに招くだけの取り組みではない。

若い学生にとっては、大学生活だけでは出会えない価値観や人生経験に触れる機会となり、市民にとっては、若い世代の考え方を知る新鮮な学びの場となっている。

工学系大学という専門性の高い環境に、世代を超えた対話が加わることで生まれる“化学反応”。豊橋の大学と地域をつなぐ、新しい学びの形として今後も注目されそうだ。

週刊TAKAPI編集部/黒木

特記事項:本記事は、豊橋技術科学大学で行われている学生と市民の合同講義について、公開情報をもとに構成しています。発言は趣旨を変えない範囲で整理しています。講義内容や今後の実施予定は変更される場合があります。

Q豊橋技術科学大学の新講義はどのような授業ですか?
A工学系の学生と地域住民が同じ教室に集まり、哲学的な問いや身近なテーマについて対話する講義です。年齢や立場の異なる参加者が対等に意見を交わします。
Qなぜ学生と市民が一緒に学ぶのですか?
A同じ年代や似た専門分野の学生だけでは得にくい生活感覚や社会経験に触れ、学生のコミュニケーション力や社会性を高めることが目的です。
Q講義ではどのようなテーマが扱われましたか?
A「目の前のリンゴは、自分がイメージするリンゴと同じか」や、「懐かしさとは何か」といった、正解が一つではないテーマが扱われました。
Q学生と市民にはどのような気づきがありましたか?
A学生は、自分が経験していない時代や価値観に触れることで視野が広がったと感じています。市民側も、若い世代ならではの考え方が勉強になると受け止めています。
Q今後も同様の講義は行われますか?
A今後の具体的な実施内容や参加方法は、大学の授業計画や募集方針によって決まります。今回の取り組みは、大学と地域をつなぐ新しい教育モデルとして注目されています。

豊橋で始まった、世代を超える学び

豊橋技術科学大学の新講義では、工学を学ぶ学生と地域住民が、年齢や経験の違いを超えて一つの問いを考えています。学生にとっては地域社会や年上の世代と接する機会となり、市民にとっては若い世代の率直な発想に触れる場となっています。専門知識だけでなく、人の話を聞き、自分の考えを伝える力を教室で育てる取り組みです。

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