イノシシやシカなどによる農作物被害が続く中、豊橋市二川町のペット用品販売「トムキャット」の狩猟部が9月、防獣用品を広めるプロジェクトチーム「わな道」を立ち上げました。
使うのは、野生動物の嗅覚に働きかける誘引剤です。獣道や箱わなの周辺に設置し、捕獲地点へ動物を誘導する考えで、粉末や液体など複数のタイプを展開しています。
ただし、「においを使った場所で捕獲できた」という事例と、「誘引剤によって捕獲率が上がった」と科学的に示すことは別の話です。
「わな道」はこの点を検証するため、大学などと連携した実証実験を計画しています。プロジェクトリーダーは戸﨑るいさん。今後、科学的な根拠を蓄積し、行政や猟友会、地域の捕獲関係者との連携につなげたい考えを示しています。
「におい」で捕獲地点へ誘導
「わな道」が着目したのは、イノシシやシカなどが持つ鋭い嗅覚です。
公開されている誘引剤は、粉末や液体など現場に応じて使い分けるタイプで、ラインアップは5種類。餌を置いた箱わなの周辺や入り口、獣道などで使う方法が紹介されています。
わな猟では、動物がわなのある場所まで来なければ捕獲にはつながりません。国の捕獲技術資料でも、箱わなは基本的に餌などによる誘引を必要とする手法とされています。
「わな道」は、この誘引部分に専用のにおいを加えることで、捕獲現場での使いやすさを高めようとしています。
捕獲事例はあるが「誘引剤の効果」とは限らない
公開情報では、誘引剤を使用した場所でイノシシなどを捕獲した事例が複数紹介されています。
一方で、現場の猟師からも「誘引剤の効果で捕獲できたのか、偶然通ったのかを科学的に判断するのは難しい」との趣旨の指摘が出ています。
ここは今回の取り組みを見るうえで重要な点です。
野生動物の捕獲結果は、わなの位置や動物の生息数、季節、周囲の餌、行動経路などによって変わります。
誘引剤をまいた場所で1頭、あるいは複数頭が捕獲されたとしても、それだけでは誘引剤が結果にどの程度影響したのかまでは分かりません。
製品サイトや利用者による捕獲事例は使用実績として見ることができますが、週刊TAKAPIでは、それをそのまま製品の科学的効果とは扱いません。
愛知県の農作物被害、2024年度は5億7700万円
こうした取り組みの背景には、県内で続く鳥獣被害があります。
愛知県によると、2024年度の野生鳥獣による農作物被害は、被害面積497ヘクタール、被害量3371トン、被害金額5億7700万円でした。
被害額は前年度から約2割増え、14年ぶりに5億円を上回りました。県の資料では、鳥類を含めた全国比較で2024年度の被害額は全国3位。獣類ではイノシシによる被害額が最も大きくなっています。
東三河、奥三河でも問題は続いています。
9月2日までの公開情報では、新城市の被害額は約330万円。新城市、設楽町、東栄町、豊根村の4市町村を合わせると2366万1000円とされています。
この2366万1000円については、週刊TAKAPIでは各市町村の一次資料との個別照合まで完了していないため、公開情報で示された数値として扱います。
プロジェクトリーダーは戸﨑るいさん
「わな道」のプロジェクトリーダーを務めるのは戸﨑るいさんです。
プロジェクト名には、人と野生動物のすみ分けや、次の世代へ獣害対策をつなげていく「道標」にしたいとの考えが込められています。
狩猟部では、誘引剤を販売するだけでなく、使用方法を説明する漫画形式のマニュアルを公開し、電話やメールで利用者からの相談にも対応しています。
メンバーの中には、活動にあわせてわな猟免許を取得した人もいるとされています。
単に商品を販売するだけで終わるのか、地域の捕獲現場まで踏み込んだ活動になるのか。9月に始動したばかりのプロジェクトだけに、今後の活動範囲も確認していく必要があります。
大学などと実証実験を計画
次の段階として計画されているのが、大学などと連携した実証実験です。
公開情報では、誘引剤による捕獲効率や誘導効果について客観的なデータを蓄積する方針が示されています。
一方、9月3日時点で、連携する大学名や研究者、実験開始時期、調査期間、評価方法などの詳細は公表されていません。
したがって、どのような条件で何を比較するのかについて、現時点で推測することはできません。
重要なのは、「実証実験を計画している」という事実と、「科学的に効果が証明された」という状態を混同しないことです。
検証内容と結果が公表されれば、誘引剤が実際の捕獲現場でどの程度機能するのかを判断する材料が初めてそろってきます。
豊橋発の取り組み、結果をどう示すか
東三河では、農作物への食害だけでなく、イノシシによる農地の掘り起こしや、あぜ、石垣などへの被害も課題となっています。
「わな道」が提示したのは、こうした問題に対して「におい」という別の角度から捕獲を支援する方法です。
利用者による成功例はすでに紹介されています。一方で、それがどこまで再現できるのかは、これから確かめる段階です。
豊橋・二川から始まったプロジェクトが、実際のデータを示し、地域の獣害対策の選択肢の一つとして定着するのか。
次に見るべきなのは、宣伝文句ではなく、実証の中身と結果です。
編集部まとめ
豊橋市二川町で始動した「わな道」は、イノシシやシカなどの嗅覚を利用した誘引剤を、わな猟に取り入れるプロジェクトです。
愛知県の農作物被害額は2024年度に5億7700万円まで増えており、東三河・奥三河でも獣害対策は継続的な課題となっています。
一方、「わな道」の誘引剤について確認できるのは、現時点では販売側の説明と利用者による捕獲事例が中心です。
大学などとの実証計画が具体化し、検証方法や結果が公表されれば、誘引剤が獣害対策としてどこまで使えるのかを、より客観的に判断できるようになります。
週刊TAKAPI編集部/松本
特記事項
「わな道」の9月始動、戸﨑るいさんがプロジェクトリーダーを務めていること、誘引剤の使用方法、大学などとの実証実験計画は、9月3日までに確認した公開情報を基に構成しています。誘引剤については、販売側の説明や個別の捕獲事例と、科学的に確認された効果を区別して記載しています。奥三河4市町村の被害額2366万1000円は、各自治体の一次資料との個別照合前のため、公開情報で示された数値として扱っています。
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