愛知県東三河の生活や農業、製造業を支える豊川用水で、2025年8月から2026年4月まで続いた大規模な渇水について、一連の対応の全容が明らかになっています。
節水対策は2025年8月29日から2026年4月28日までの243日間に及び、豊川総合用水事業の完成以降では最長規模となりました。
最も厳しい時期には、農業用水と工業用水で50%、水道用水で30%まで節水率を引き上げ。2026年3月には主要水源の宇連ダムが枯渇し、通常とは異なる緊急取水や他水系からの導水まで実施されました。
243日間の節水 約1800万立方メートルの使用を抑制
豊川用水では2025年夏から少雨が続き、水源の貯水量が低下したことから、8月29日に節水を開始しました。
当初は低い節水率からスタートしましたが、水源状況の悪化に伴って段階的に強化。2026年3月27日には、農業用水50%、工業用水50%、水道用水30%まで引き上げられました。
一連の対応をまとめた資料では、節水によって約1800万立方メートルの水使用を抑えたとされています。
単純な節水要請だけではなく、家庭、農業、企業がそれぞれ水の使用量を削減した結果、長期間にわたって限られた水源を維持する形となりました。
宇連ダムが枯渇 運用開始以来初めて「底水」を利用
渇水が最も深刻化したのは3月です。
新城市にある宇連ダムでは貯水量が急速に低下し、3月17日に通常利用できる水が枯渇しました。
このため、通常の最低取水水位より下に残っていた、いわゆる「底水」をポンプでくみ上げて下流へ送る緊急対応を実施しました。
宇連ダムで最低水位以下の水を利用したのは、1968年の運用開始以降で初めてとされています。
豊川用水を支える中心的なダムで通常の取水ができなくなったことは、今回の渇水の深刻さを象徴する事態となりました。
豊川本川から緊急取水 約32万立方メートルを確保
水源確保では、豊川本川から直接水をくみ上げる緊急取水も行われました。
2月20日から、豊川市内の三上橋付近で、下流に必要な水量を確保したうえで余裕のある水をポンプで取水し、既存水路を通じて豊川用水へ送水しました。
この方法で確保された水は約32万立方メートルに上ったとされています。
ダムからの通常供給だけでは維持できない状況となり、河川、調整池、既存水路などを組み合わせて水を確保する異例の運用が続きました。
佐久間ダムからも緊急導水 4月25日から3日間実施
さらに注目されたのが、天竜川水系から豊川水系へ水を送る佐久間導水です。
豊川水系だけでは水源確保が難しくなったことから、佐久間ダム側から水を融通する緊急措置が準備されました。
その後、水源状況を踏まえて4月25日から27日までの3日間、実際に導水を実施。豊川水系へ送られた水量は約29万立方メートルとなりました。
通常時には行わない水系を越えた水融通まで必要になったことからも、今回の渇水が極めて厳しい局面に達していたことが分かります。
西三河から東三河へ 幸田蒲郡線も緊急使用
水道用水では、西三河から東三河へ水を送る対応も取られました。
県は3月28日から、幸田浄水場と蒲郡方面を結ぶ幸田蒲郡線を緊急使用。通常とは異なる方向で水を送り、東三河側の水道水源を補いました。
この方法による導水量は約13万立方メートル。
一連の緊急取水や他水系からの導水などによって、最終的に約278万立方メートルの緊急水源を確保したとされています。
キャベツ定植を延期 工場では生産調整や操業短縮
農業への影響も深刻でした。
農家や土地改良区では、バルブの細かな調整、井戸水の活用、水田への雨水確保、漏水防止などを実施。水を大量に必要とする作物では、天候を見ながら作業時期を変更する対応も取られました。
具体的には、キャベツの定植を延期し、降雨を確認してから作業を進めた事例も確認されています。
工業用水を利用する企業では、水の循環利用や地下水利用を強化したほか、状況によっては生産調整や操業時間の短縮まで実施しました。
ただし、今回確認できる公表資料では、農業や工業全体の最終的な被害額までは示されていません。
豊橋など東三河5市で減圧給水
生活用水でも影響が広がりました。
豊橋市、豊川市、蒲郡市、新城市、田原市では、配水量を抑えるための減圧給水などを実施しました。
さらに、午後11時から翌午前5時まで水道の使用をできるだけ控える**「夜間水道ノータッチ運動」**も展開されました。
公共施設では噴水の停止や入浴施設の利用制限などを実施。ガソリンスタンドでは洗車自粛も広がり、一部では洗車利用客が通常の3分の1程度まで減少した事例も報告されています。
学校給食でも、食器や容器の洗浄に使う水を減らすため、運用を変更する対応が取られました。
「施設がなければ11月に水源枯渇」の試算も
今回の渇水では、大島ダムや地区内調整池など、豊川総合用水事業によって整備された施設の効果についても検証されています。
宇連ダムが実際に枯渇したのは2026年3月でしたが、これらの施設による水源増強がなかった場合、2025年11月中旬には水源が枯渇していた可能性があるとの試算も示されました。
一方で、施設を整備していても243日間に及ぶ節水が必要となり、佐久間ダムからの導水まで実施した事実は、東三河の水資源確保が今後も重要な課題であることを示しています。
次の渇水へ 緊急対応のマニュアル化が課題
今回実施されたダム底水の利用、豊川本川からの緊急取水、他水系からの導水などは、通常時とは異なる対応でした。
関係機関では今回の経験を整理し、将来同規模の渇水が発生した場合でも早期に対応できるよう、緊急取水や導水方法のマニュアル化、関係機関の連携強化につなげる方針です。
気候や降雨の状況によって再び長期渇水が発生する可能性はあり、243日間の経験を次の水危機にどう生かすかが問われます。
編集部まとめ
豊川用水では2025年8月29日から2026年4月28日まで243日間の節水対策が続き、節水による水使用量の削減は約1800万立方メートルに上りました。
宇連ダム枯渇後は底水の利用、豊川本川からの緊急取水、西三河からの送水、佐久間ダムからの緊急導水まで実施。農業では定植延期、工業では生産調整や操業時間短縮が行われ、豊橋を含む東三河全体が水不足への対応を迫られました。
今回の243日間は、豊川用水が家庭の水道だけではなく、東三河の農業と産業を支える基幹インフラであることを改めて浮き彫りにしています。
特記事項
本記事は、愛知県および水資源関係機関が公表した2025年度の豊川用水渇水対策に関する資料を基に、一連の対応を整理しています。農業・工業分野全体の最終的な被害額は、公表資料で確認できる範囲では明らかになっていません。
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