2024年6月、新潟県内の県立高校で柔道部に所属していた当時3年の男子生徒が自ら命を絶った問題で、第三者委員会は、柔道部監督だった男性教諭による「権威的かつ過度な指導」が主な要因となった、いわゆる「指導死」にあたると認定した。
問題を受け、新潟県教育委員会は県立高校の生徒や保護者らを対象に、部活動における指導の実態調査を進めている。
これは一人の指導者だけの問題なのか。それとも、学校という組織が「行き過ぎた指導」を止められなかった構造そのものに問題があったのか。
第三者委員会の報告書を読み解くと、後者についても重い指摘が並んでいる。
■県大会敗退後、大声で指導
第三者委員会の調査などによると、男子生徒は2024年6月2日に行われた県総合体育大会の試合で敗退した後、監督だった男性教諭から大声で指導を受けた。
その後も部活動の練習前や練習中などに複数回にわたり叱責を受けたとされ、生徒は6月5日に登校せず、その日の夜に死亡が確認された。
第三者委員会は2026年4月にまとめた報告書で、生徒の死亡について、
「教員の指導を主たる契機とする死亡事案(いわゆる『指導死』)」
との判断を示した。
報告書は、生徒個人の脆弱性に原因を求めるのではなく、閉鎖的な部活動環境を背景として、監督による権威的かつ過度な指導が外部ストレスとして作用し、短期間に心理的負荷が累積したと分析している。
県教育委員会によると、県内で第三者委員会が「指導死」を明確に認定したのは初めてという。
■問題は「監督一人」だけだったのか
第三者委員会が問題視したのは、監督の指導方法だけではない。
柔道部には監督とは別に3人の副顧問が配置されていたものの、部活動にはほとんど関与していなかったとされる。
つまり、複数の教員が配置されていても、監督の指導を別の教員が確認し、必要に応じて止める仕組みが実質的に機能していなかったことになる。
報告書はさらに、学校が特定の部活動運営について監督・牽制機能を実質的に作用させていなかったと指摘。
第三者委員会は、生徒が安全にSOSを出せる「構造的な改革」が必要だとしている。
ここに今回の問題の核心がある。
顧問が複数配置されていることと、複数の教員によるチェックが実際に機能していることは、同じではない。
書類上では「副顧問」が存在していても、日常的に練習を確認せず、生徒との接点もなければ、主顧問の指導が適切かどうかを検証することは難しい。
■県教委、県立高校の生徒・保護者を調査
県教委は5月18日、県内の県立高校などの校長を集めて臨時研修会を開催した。
県教委は再発防止策として、県立高校で部活動の指導実態を把握する調査を行う方針を表明。
対象には現在部活動に所属している生徒だけでなく、退部した生徒や保護者も含め、オンラインを利用した無記名方式で調査するとしている。
さらに各学校に対し、副顧問による生徒との定期的な面談など、部活動の指導体制そのものを見直すよう求めた。
■「アンケートを実施した」で終わってはいけない
今回の実態調査で重要になるのは、調査を行ったという事実そのものではない。
どの程度の生徒や保護者が回答したのか。
威圧的な叱責や人格を傷つける言動、体罰、退部しにくい環境などについて、どのような回答が寄せられたのか。
そして、不適切な指導が疑われる回答が確認された場合、県教委や各学校が実際にどこまで踏み込んで調査するのか。
そこまで確認して初めて、実態調査は再発防止策として意味を持つ。
第三者委員会が求めたのは、単なる指導者個人の資質改善ではない。
報告書は「指導者の資質向上のみならず、生徒が安全にSOSを出せる構造的な改革が急務」と明記している。
■「閉鎖的な部活動」をどう変えるのか
部活動では、一人の指導者が長期間にわたり競技指導や選手起用などについて強い影響力を持つ場合がある。
今回の第三者委員会が「閉鎖的」と指摘した環境を変えるためには、複数顧問制を形式的に置くだけでは十分とはいえない。
副顧問による定期面談、管理職による練習状況の確認、外部相談窓口、スクールカウンセラーとの連携など、主顧問以外の大人へ生徒が直接SOSを出せる経路が実際に機能するかが問われる。
県も6月県議会で、報告書の提言を踏まえ、部活動の管理体制の見直し、指導者の資質向上、相談体制の強化など「実効性ある再発防止策」を講じる方針を示している。
一人の高校生の命が失われてから、学校は何を変えたのか。
そして、県内の別の部活動に同じような環境は残っていないのか。
県教委が進める実態調査は、その問いに答えるための第一歩となる。
調査結果をどこまで公表し、そこで明らかになった問題を具体的な制度変更につなげられるのか。今後は「調査後」の対応が問われる。
何があった? Q&A
各種ご相談、情報提供、現地写真・動画、関係者からの証言などをお持ちの方は、メール(info@108takapi.jp)、各種SNSのDM、または公式LINEまでお寄せください。週刊TAKAPI編集部が内容を確認し、必要に応じて取材いたします。情報提供者の秘密は厳守します。
サイト訪問者数

コメント
0件まだコメントはありません。最初のコメントを投稿してみませんか。
この記事のコメント投稿は締め切られています。