なぜ盗撮事件はなくならない?教員・警察官まで相次ぐ背景を心理学・論文から検証|週刊TAKAPI

教員、警察官、医療従事者まで 心理学・犯罪学の論文から「なぜ」を追う

教員が学校で。警察官が街中で。医療従事者が施設で

盗撮事件が発覚するたび、「捕まれば仕事も信用も失うのに、なぜやるのか」という疑問が残る。

まして、本来は子どもを守る教員や、犯罪を取り締まる警察官が加害側になる事件まで起きている。

単純に「性欲を抑えられなかった」で説明できるのだろうか。

週刊TAKAPIは、性犯罪や画像を用いた性的虐待についての心理学・犯罪学研究、文部科学省などの公的資料をたどった。

見えてきたのは、一つの原因ではなく、「認知」「動機」「自己統制」「力関係」「犯行機会」「テクノロジー」といった複数の要因を考える必要があるということだった。


💡ざっくり言うと

盗撮は「性欲が強いから」だけでは説明できない。
研究では、性的満足だけでなく、被害を軽く見る考え方、社会的な報酬、力関係など複数の要因が検討されている。

「犯罪だと知っている=絶対にやらない」でもない。
性犯罪研究では、行為を正当化するような認知や思考が、犯罪の開始・維持・正当化にどう関係するのかが長年研究されてきた。

子どもや高校生では、大人との「力の差」も重要。
教師・指導者と子どもの間にある信頼や権限の差が悪用された事例が研究で報告されている。

スマホや小型カメラは犯罪の原因そのものではない。
しかし、撮影・保存・複製を容易にするため、「犯行機会」という観点から考える必要がある。

一番大事なのは、被害者に責任はないということ。
服装や行動、性格を理由に「撮られる側にも原因があった」とすることはできない。


「性欲だけ」では説明できなかった

盗撮事件では「性的欲求を満たすためだった」という趣旨の供述が報じられることがある。

もちろん、性的動機が存在する事件はある。

だが研究を見ると、それだけではない。

近年研究が進んでいるのが、Image-Based Sexual Abuse(IBSA)だ。

本人の同意なく性的・親密な画像を撮影・作成・共有することなどを含む概念で、盗撮と完全に同義ではないものの、非同意撮影を考えるうえで近接した研究領域になる。

2024年に公表された26研究のスコーピングレビューでは、加害動機は多面的で、社会的な報酬、力関係、性的満足、報復などとの関連が整理された。

2023年の17研究を対象とした系統的レビューでも、心理的、対人的、社会的な複数の変数との関連が報告された。ただし量的研究で確認された効果量は多くが小さく、一部が中程度だった。

つまり科学的に慎重な言い方をするなら、

「こういう性格だから盗撮する」という単純な人物像は作れない。

ということになる。


心理学が注目する「認知の偏り」

性犯罪研究で長年研究されているテーマの一つに「cognitive distortions(認知の偏り・歪み)」がある。

Wardらのレビューでは、不適応な信念や歪んだ思考が性的加害を促進したり、正当化したりする過程について検討されている。

その後のO’CiardhaとWardによるレビューでも、歪んだ認知が性的加害の開始・維持にどのような役割を果たすのかについて、複数の理論と実証研究が検討された。

盗撮について考えるなら、

「撮るだけだ」

「触ってはいない」

「本人は気付かない」

「自分だけで見る」

「これくらいなら大丈夫」

といった形で、自分の行為や被害を小さく捉えることが考えられる。

実際、英国、オーストラリア、ニュージーランドの16~64歳6,109人を対象にしたIBSA研究では、被害を過小評価したり、加害者を免責するような態度も加害経験との関連要因として報告された。

ただし、ここも断定してはいけない。

すべての盗撮加害者が同じ認知を持つという意味ではなく、個別の事件について心理状態を外部から決めつけることもできない。


なぜ「捕まったら人生が変わる」と分かっていてもやるのか

ここが最も素朴な疑問だろう。

逮捕されるかもしれない。

仕事を失うかもしれない。

家族との関係も壊れるかもしれない。

実名が報道される可能性もある。

それでも犯罪は起きる。

ここでは「犯罪だと知っていること」と、実際の場面で行動を抑制できることを分けて考える必要がある。

性犯罪研究では認知だけでなく、感情、動機、社会的認知など複数の要素が研究されている。2026年に公表された系統的レビューでも、性的暴力等の加害研究では、加害を支持する認知やジェンダーに関する信念などが主要な研究対象になっている。

だから、

「悪いことだと教えれば、それですべて防げる」

というほど単純な問題ではない。


なぜ子どもや高校生が被害に遭うのか

ここは特に慎重に考えなければならない。

「子どもだから狙われる」と単純化するのではなく、重要なのは大人との力関係だ。

子どもと大人では、年齢だけでなく、経験や知識にも差がある。

さらに相手が教師や指導者なら、

教える。

評価する。

指導する。

部活動を担当する。

進路に関わる。

といった権限も持つ。

児童性的虐待について世界各地の研究を整理した2026年のレビューでも、教師・指導者と児童生徒の間にある信頼と力の不均衡が悪用されるケースが報告されている。また、そうした関係性が被害申告や加害者への対応を難しくする場合があることも指摘された。

子どもからすれば、

「先生に言っていいのかな」

「自分の勘違いだったらどうしよう」

「親に知られたくない」

「学校に行けなくなったらどうしよう」

と迷うことも考えられる。

だから問うべきなのは、

「なぜ逃げなかったの?」ではない。

「大人との力の差や信頼が悪用されなかったか」だ。


教員の場合――「先生だから大丈夫」という信頼

学校には教室だけでなく、体育、部活動、宿泊行事など、児童生徒のプライバシー保護が特に重要になる場面が存在する。

そして何より、

「先生だから大丈夫」

という信頼によって学校生活は成り立っている。

もちろん、教員だから盗撮をするという話ではない。職業そのものを犯罪原因として扱う根拠もない。

問題になるのは、一部の人物がその信頼や接触機会を悪用した場合だ。

文部科学省は2026年4月に改訂した基本指針で、盗撮防止のため、教室、トイレ、更衣室などを定期的に点検することや、カメラを設置できない環境づくり、私物端末による業務外目的の児童生徒撮影を行わないことなどを明記した。

ここに大きな意味がある。

「先生を信用する」だけで安全を守るのではなく、「盗撮そのものを実行しにくい環境」をつくる。

個人の倫理観だけに依存しない対策だ。


警察官でも起きる――「法律を知っている」は万能ではない

もう一つ考えさせられるのが、警察官による事件だ。

警察官は犯罪を取り締まる側にいる。

法律も知っている。

逮捕後の手続も知っている。

失うものの大きさも理解しているはずだ。

それでも、一部の警察官による盗撮事件は起きる。

ここから「警察官には特殊な心理がある」と結論づけることはできない。

むしろ、

肩書や法律知識だけでは犯罪を完全には防げない

という問題として考えるべきだろう。

教員でも、警察官でも、医療従事者でも同じだ。

職業だけから加害リスクを判断することはできない。


スマホが変えた「犯行機会」

そして現代特有の問題がある。

スマートフォンだ。

いまや多くの人が、高性能なカメラを日常的に持ち歩いている。

撮る。

保存する。

複製する。

送る。

共有する。

これらを一台で行える。

近年のIBSA研究では、こうした問題をテクノロジーを介した性的虐待・暴力という枠組みでも研究している。

もちろん、

スマホを持つ=犯罪につながる

という意味ではない。

考えるべきなのは「犯行機会」だ。

だから文科省の最新指針でも、端末管理だけでなく、カメラを設置しにくい環境をつくるという物理的な対策まで盛り込まれている。


被害は「撮られた瞬間」で終わらない

「盗撮なら身体には触れていない」

そう考える人もいるかもしれない。

しかし、デジタル時代の被害はそこで終わらない。

画像が残っているのか。

誰かに送られていないか。

ネットに投稿されていないか。

知らない人が保存していないか。

被害者には確認できない場合がある。

若者のIBSA被害について12の実証研究をまとめた2025年の系統的レビューでは、被害後の恐怖、不安、抑うつ、自殺念慮など深刻な心理的影響が報告されている。

盗撮とIBSA全体を同一視することはできないが、「画像を奪われる被害」を「触られていないから軽い」と扱うことが適切でないことは分かる。


【漫画】たかぴさんと見る「なぜ盗撮はなくならないの?」

ここで難しい心理学の話を、4コマで整理する。


「懲戒免職」で終わっていいのか

教員なら教育委員会。

警察官なら警察組織。

医療従事者や会社員なら勤務先。

事件が発覚すると、

「懲戒免職」

「停職」

「退職」

という処分が発表される。

責任を問う処分は必要だ。

しかし、ここでニュースが終わってしまうことには別の問題がある。

学校からいなくなった。

警察からいなくなった。

会社からいなくなった。

それは、その組織から人物がいなくなったことを意味するだけで、犯罪につながった要因まで自動的に消えるわけではない。

だからこそ、性犯罪対策では処罰だけではなく、認知や行動への介入も研究されてきた。


「教師なのになぜ」で終わらせない

教師なのになぜ。

警察官なのになぜ。

医療従事者なのになぜ。

事件が起きるたび、同じ驚きが繰り返される。

だが、本当に検証すべきなのは肩書ではない。

どのような動機があったのか。

被害を軽視する認知や自己正当化はなかったのか。

大人と子どもの力関係が悪用されなかったか。

犯行を実行しやすい環境がなかったか。

組織は「この人なら大丈夫」という信用だけに安全管理を委ねていなかったか。

そして、

事件が発覚したあと、次の被害を防ぐところまで考えられているのか。

研究が示しているのは、「盗撮するのはこういう人だ」という簡単な答えではない。

むしろ逆だ。

認知。

性的動機。

自己統制。

力関係。

信頼。

社会的要因。

犯行機会。

テクノロジー。

それらを分けて検証する必要がある。

だから対策も、「厳罰化すればいい」「カメラを禁止すればいい」と一つに絞ることはできない。

摘発する。

責任を問う。

被害者を支える。

子どもが相談できる環境をつくる。

盗撮しにくい施設をつくる。

そして、加害した人については再犯防止を考える。

「処分しました」で終わらせない。

盗撮事件が相次ぐいま、本当に考えなければならないのは、「なぜそんなことをしたのか」と驚くことだけではない。

次の一人を、どうすれば被害者にしないで済むのか。

そこまで考えて初めて、再発防止につながる。


研究から見えたこと Q&A

Q盗撮する最大の原因は性欲ですか?
Aそう単純には言えません。画像を用いた性的虐待の研究では、性的満足だけでなく、社会的報酬、力関係、報復など複数の動機が報告されています。ただし、IBSA研究の結果をすべての盗撮事件へそのまま当てはめることもできません。
Qなぜ子どもが被害に遭うのですか?
A子ども自身に原因があるわけではありません。研究では、教師・指導者などとの信頼関係や力の不均衡が悪用されるケースが報告されています。
Q教員や警察官でも起こすのはなぜですか?
A職業だけから個人の心理や犯罪リスクを判断することはできません。性犯罪研究では認知、動機など複数の要因が研究されており、法律を知っているだけですべての犯罪を防げるとは考えにくいのが実情です。
Q学校では何ができますか?
A文科省は2026年改訂の指針で、教室・トイレ・更衣室等の定期点検、カメラを設置しにくい環境づくり、端末・画像データの管理ルールなどを求めています。
Q被害に遭った側にも注意する責任がありますか?
A被害を受けたことについて、被害者に責任を負わせるべきではありません。盗撮するという行為を選択した責任は加害した側にあります。

主な参考論文・資料

Henry & Beard「Image-Based Sexual Abuse Perpetration: A Scoping Review」(2024)、Paradisoら「Image-Based Sexual Abuse Associated Factors: A Systematic Review」(2023)、O’Ciardha & Ward「Theories of cognitive distortions in sexual offending」、Powellらによる英国・豪州・NZの6,109人調査、Hellevikらによる若年層のIBSA被害に関する系統的レビューなどを参照した。

学校現場については、文部科学省が2026年4月24日に改訂した「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針」を参照した。

文部科学省「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等について」⁠


文・構成:週刊TAKAPI編集長 鈴木

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