石原慎太郎氏も問題提起――教育委員会任せの改革に限界
東京都知事を務めた石原慎太郎氏も、教育委員会任せでは教育改革が進まないとの認識を示していた。
2011年12月の記者会見では、大阪市で進められていた教育改革の議論に触れ、東京都として独自の改革を検討する考えを表明した。
「教育委員会任せではね、なかなか教育が変わっていかない」
石原氏は、文部科学省の政策判断に依存するだけでなく、地方自治体が主体的に教育改革を進める必要性を訴えた。
一方、教育委員会の独立性には、教育内容が特定の政治家や政党の意向によって左右されることを防ぐ役割もある。
首長の関与を強めることが、必ずしも教育の質や子どもの権利保護の向上につながるとは限らない。
民主的統制と政治的中立性の両立は、教育行政の重要な課題である。
2015年、教育委員会制度は改革された
こうした議論を経て、2014年に地方教育行政法が改正され、2015年4月から新制度が施行された。
改正によって、従来の教育委員長と教育長が一本化され、新教育長が教育委員会を代表し、具体的な事務執行の責任者となった。
首長が議会の同意を得て教育長を任命する仕組みも導入された。
さらに、首長と教育委員会が教育政策について協議する総合教育会議が新設された。
これによって、教育行政の責任体制と首長との連携は制度上強化された。
しかし、教育委員会は廃止されなかった。
教育の政治的中立性、継続性、安定性を確保するため、合議制の執行機関として存続したのである。
制度改革によって教育長の責任は明確化されたものの、教育委員会による意思決定と事務局による実務執行の関係は残された。
改革から4年後、吉村洋文知事が再び問題提起
2019年6月、大阪府の吉村洋文知事は、吹田市のいじめ事案をめぐる記者会見で、教育委員会制度について言及した。
吉村氏は、2015年の制度改革によって総合教育会議が設置されたことを評価した。
一方、教育委員会が事務局の提案を追認する組織になっている自治体があるのではないかとの懸念を示した。
さらに、教育委員会事務局に教員経験者が多く配置される仕組みについても、教育行政が内部の論理で運営される可能性を問題視した。
吉村氏は、教育行政の人事権などを、選挙で選ばれた首長に移す改革案にも言及した。
ただし、教育内容については政治的中立性を守る必要があるとも説明していた。
2015年の制度改革後も、教育委員会の実効性をめぐる議論は続いていたのである。
現代の教育現場――いじめ、SNS、不登校、教員不足
教育委員会制度をめぐる議論が続く一方、学校現場の課題は複雑化している。
SNSの普及によって、いじめは学校内の人間関係にとどまらなくなった。
メッセージアプリやSNSのグループ、匿名アカウントなどを通じて、学校外の時間にも被害が続く可能性がある。
画像や動画が拡散されれば、被害は広範囲に及ぶ。
学校で発生した行為であっても、暴行、傷害、脅迫など、犯罪に該当し得るものについては、警察との連携が必要になる場合がある。
一方、教員不足や業務負担の増大も学校現場の課題となっている。
教員は授業や学級運営に加え、保護者対応、いじめへの対応、児童生徒の心理的支援、記録作成、関係機関との連携など、多様な業務を担っている。
教員の業務負担が大きいことは、いじめへの対応を怠ってよい理由にはならない。
しかし、教員個人の努力だけに依存する仕組みでは、組織として継続的な対応を行うことが難しくなる可能性がある。
学校の人員配置、専門職の確保、教育委員会事務局による支援、福祉・医療機関との連携を含めた検証が必要である。
重大事態は「疑い」の段階から対応する
いじめ防止対策推進法第28条は、いじめによって児童生徒の生命、心身、財産に重大な被害が生じた疑いがある場合や、相当期間の欠席を余儀なくされている疑いがある場合について、重大事態として調査を行うことを定めている。
重要なのは、「疑い」の段階が対象になっていることである。
学校側がいじめの存在や因果関係を完全に認定するまで、重大事態への対応を開始しなくてよいという制度ではない。
重大事態調査は、事実関係を明らかにし、必要な対応や再発防止につなげるために行われる。
したがって、重大事態への対応を検証する際には、最終的な認定結果だけを見るのでは不十分だ。
最初の相談はいつだったのか。
学校が欠席や体調不良などの変化を把握したのはいつか。
教育委員会への報告はいつ行われたのか。
重大事態として調査を開始するまで、どのような判断があったのか。
こうした時系列を確認する必要がある。
第三者調査の独立性は確保されているか
いじめ重大事態では、調査組織の独立性も重要な論点となる。
学校や教育委員会の対応自体が調査対象になる場合、その学校や教育委員会と関係の深い人物だけで調査を行えば、公正性に疑問が生じる可能性がある。
調査委員の選任方法、利害関係の有無、調査対象の範囲、証拠の収集方法などを明らかにする必要がある。
また、調査報告書が作成されても、被害者側が納得できる説明を受けられなければ、問題の解決にはつながらない。
調査報告書の作成自体が目的ではない。
調査で明らかになった事実を踏まえ、被害児童生徒の安全確保と再発防止にどのような措置を講じるかが重要なのである。
首長による再調査――教育委員会の判断を誰が検証するのか
いじめ防止対策推進法第30条は、公立学校の重大事態について、教育委員会を通じて自治体の首長に報告する仕組みを定めている。
さらに、首長は必要があると認めた場合、重大事態調査の結果について再調査を行うことができる。
再調査を実施した場合には、その結果を議会に報告しなければならない。
つまり、現行制度でも、教育委員会の判断が最終的に検証不能になるわけではない。
首長による再調査という仕組みが存在している。
ただし、首長に再調査の権限があることと、すべての重大事態で再調査が義務づけられていることは異なる。
再調査の必要性をどのように判断するか。
被害者側から再調査を求められた場合、どのような基準で検討するか。
首長部局が教育委員会の調査結果を十分に検証できる専門性を持っているか。
これらも重要な検証課題となる。
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