駅に置き忘れられたリュックサックから、一般市民の運転免許証31枚が見つかった。そこから浮かび上がったのは、神奈川県警で約30年前から続いていた疑いのある個人情報の流用だった。
運転免許更新時に回収した古い免許証を交通課から警備課へ渡し、顔写真などを捜査資料に利用していたことが判明。警察庁は10月22日、個人情報保護法に抵触する可能性が高いと説明した。
神奈川県警では今年2月にも、不適正な交通取り締まりが発覚し、2716件が是正対象となった。警察官7人が書類送検され、計19人が処分されたばかりだ。
交通違反の取り締まりに続き、今度は市民から預かった個人情報である。異なる部署で不適切な業務が繰り返され、内部の管理体制が機能していたのか、厳しい検証が必要になっている。
巡査長が飲酒後に置き忘れ 31枚の免許証が示した異常な管理
問題が発覚したのは8月22日未明。
神奈川県警保土ケ谷署警備課に所属する20代の男性巡査長が、駅にリュックサックを置き忘れた。中から見つかったのは、有効期限が切れた運転免許証31枚だった。
巡査長は3月まで港北署警備課に勤務しており、免許証は同署の交通課から受け取ったものだった。
県警では、回収した古い免許証は本来、決められた手続きで廃棄することになっていた。
ところが港北署では、免許更新時に回収した免許証を、交通課から警備課へすべて引き渡していたという。
捜査対象者かどうかを確認して必要な情報を取得するのではなく、回収した免許証そのものを一括して別部署へ渡す運用だった。
巡査長による持ち出しも問題だが、そもそも廃棄すべき免許証が警備課に集められていた経緯を解明しなければならない。
30年前から少なくとも5署 一般市民の情報も警備部門へ
県警が警備部門の勤務経験が長い複数の職員に事情を聴いたところ、同様の取り扱いは平成1桁の時代から行われ、少なくとも5署で確認されたという。
警備部門では、過激派や右翼の活動家、単独でテロを実行するローンオフェンダーなどに関する情報を収集。免許証から顔写真などを抜き出し、警備部門のデータベースに追加していたとされる。
ただし、警備課に渡されていたのは、こうした捜査対象者の免許証だけではない。
事件や捜査と関係のない一般ドライバーのものも含まれていた。
すべての市民が監視対象として登録されたわけではない。しかし、対象者を選別する前に市民の免許証を一括して警備部門へ渡していたのであれば、必要性を誰が、どの段階で判断していたのか。
県警は全54署を調べているが、これまでに引き渡された免許証の総数や、実際に登録された人数は明らかにしていない。
30年近く続いた疑いのある運用について、把握していた管理職がいたのかも重要になる。
個人情報保護法に抵触する可能性 「昔からやっていた」では済まない
個人情報保護法69条は、行政機関による保有個人情報の目的外利用を原則として禁じている。
同条2項2号では、業務遂行に必要な限度で「相当の理由」がある場合に内部利用を認めているが、すべての免許証を一律に警備課へ渡す取り扱いについては、組織としてその判断が行われていなかったとみられる。
警察庁は、法律の適用後も従来の運用が漫然と続いていた可能性を指摘している。
今回問われるのは、巡査長個人の行為だけではない。
港北署の交通課と警備課では、誰の判断で免許証を引き渡していたのか。署長や警備幹部は、その実態を知っていたのか。県警本部は長年にわたり、各署の個人情報管理をどう確認していたのか。
歴代の管理職が不適切な運用を認識していたと確認されたわけではない。だからこそ、誰がいつまでこの運用を把握し、是正する機会があったのかを調べる必要がある。
2月には2716件是正、反則金約3457万円の還付見込み 県警は何を改めたのか
神奈川県警は2月20日、第二交通機動隊の警察官による不適正な交通取り締まりと虚偽書類の作成を公表した。
実際の状況と異なる内容を交通反則切符に記載した事案や、現場で実況見分をしていないにもかかわらず、実施したように装って調書を作成した事案があった。
県警は警察官7人を虚偽有印公文書作成・同行使容疑で書類送検。関連する計19人が処分された。
是正対象は2716件。反則金の還付見込みは約3457万円に上り、免許停止や取り消しなどの行政処分も見直しの対象になった。
この2716件は是正対象の総数であり、全件について虚偽公文書作成が立証されたという意味ではない。
それでも、警察の取り締まりを受けた多数の市民に、点数抹消や反則金の還付などが必要となった事実は変わらない。
この問題では、神奈川県弁護士会が3月26日、県警内部の調査だけでは構造的な原因の解明に限界があるとして、独立した第三者機関による検証を求めている。
その約7か月後、今度は失効免許証の流用疑惑が明らかになった。
交通取り締まりの不正と今回の情報流用は、直接結び付いた事件ではない。ただ、どちらも内部で長期間、不適切な取り扱いが見過ごされていたという共通の問題を抱えている。
交通部門で大規模な不正が発覚した際、他の部署の業務管理まで点検する仕組みはなかったのか。再発防止策が個別の部署だけで完結していなかったかも、確認すべき点だ。
全国調査へ データ削除だけでは解明できない
警察庁は9月上旬に調査・指導チームを設置し、10月9日から全国の都道府県警で調査を進めている。
同日には、更新時の旧免許証について、原則として穴を開けて本人に返却するよう全国に通達した。
不適切に収集された情報は、刑事訴訟法に基づく手続きなどで適正に取得したものを除き、削除する方針だ。
しかし、情報を削除すれば、それで終わりという問題ではない。
何人分の情報が登録されたのか。どの部署が閲覧し、何に利用したのか。別の資料へ転記された情報はないのか。
削除の前に利用実態を検証し、その結果を記録として残す必要がある。
失効免許証の流用をめぐっては、現時点で対象者への個別通知や管理職の処分方針などは明らかになっていない。
編集部まとめ
神奈川県警は今年2月、交通取り締まり不正を公表した際、県民の信頼を損ねたとして謝罪し、業務管理の強化と再発防止を約束した。
今回は、駅に置き忘れられた31枚の免許証をきっかけに、約30年にわたる情報流用の疑いが表面化した。
問題が長年見つからなかっただけでなく、発覚のきっかけが内部監査ではなく、巡査長の忘れ物だったことも見逃せない。
県警が公表すべきなのは、何枚の免許証が渡され、何人分の情報が使われたのかという数字だけではない。
交通課から警備課への引き渡しを誰が認め、管理職は何を把握し、県警本部の監督はなぜ機能しなかったのか。
今年2月の問題では7人が書類送検され、計19人が処分された。それでも今回、別の部署で長年の不適切な取り扱いが明らかになっている。
神奈川県警は、全54署の調査結果に加え、管理職と県警本部の責任、対象者への対応を具体的に示す必要がある。
内部調査だけで十分なのか。第三者による検証の必要性も含め、今回こそ組織全体の管理体制が問われる。
週刊TAKAPI 編集部/一条
神奈川県警の失効免許証流用問題
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