豊橋市が2023年度に計画した民間保育所の保育士処遇改善を目的とする人件費補助金について、計画額3億6,600万円に対し、実績額が8,994万5,000円にとどまっていたことが、市の包括外部監査報告書で明らかになっている。差額は2億7,605万5,000円で、計画額の約75%に相当する。
その後の予算資料を確認すると、2024年度には3億円、2025年度には9,900万円の関連する人件費補助金の減額補正が、それぞれ市議会で可決されていた。市は国の公定価格改定による委託費や給付費の増加などを理由に挙げており、減額が直ちに保育士の待遇悪化を意味するものではない。一方、計画と実績に大きな差が生じた際の市民向け説明については、包括外部監査が改善を求めており、2026年3月末時点でも「改善検討中」とされていた。
計画3億6,600万円、実績は約4分の1
問題の出発点は、豊橋市の2024年度包括外部監査報告書にある。監査対象となったのは、民間保育所の保育士の処遇改善を促進するための「保育所人件費補助金」だ。
報告書によると、2023年度の計画額は3億6,600万円だったが、実績額は8,994万5,000円となった。実績は計画の約24.6%で、差額は2億7,605万5,000円に上る。
市は同年度の市民向け予算資料「豊橋市予算の見どころ」で、保育士確保策の拡充に4億1,351万円を計上していた。ただし、これは復職支援や研修など複数の施策を含む事業費であり、監査対象となった個別補助金3億6,600万円とは区分が異なる。
市は当初、人件費補助金の運用見直しなどを通じ、保育所職員の処遇改善をさらに進める方針を示していた。
市は公定価格改定による委託費増加を説明
監査人が実績減少の理由を確認したところ、市は児童数の減少や国の公定価格の増額改定などを挙げた。
監査報告書によると、公定価格の改定に伴い、補助額の算定で総所要額から差し引く委託費が増加したことなどから、市独自の人件費補助金として交付する必要額が少なくなったという。市は予算に余剰が生じたため、減額補正も実施したと説明している。
公定価格は、保育施設の運営に必要な費用を算定する際に国が定める基準となる。国の制度に基づく委託費が増えれば、市独自の補助金から支出する金額が減少する場合がある。
したがって、今回の約2.76億円の差額を、保育士に支払われなかった賃金や使途不明金と判断する根拠はない。ただ、児童数の減少と公定価格改定が、それぞれ補助額にどの程度影響したのか、要因別の具体的な金額までは監査報告書から確認できない。
2024年度は3億円、2025年度は9,900万円を減額補正
翌年度以降の予算資料にも、人件費補助金の減額が記録されている。
2024年度の3月補正予算説明書では、法人保育所・認定こども園運営費補助金のうち、人件費補助金を3億円減額する内容が示された。この補正予算は2025年3月12日の豊橋市議会で可決された。
さらに、2025年度の3月補正予算では、同じく法人保育所・認定こども園運営費補助金の人件費補助金について、9,900万円の減額が計上された。こちらも2026年3月9日の市議会で可決されている。
市は2026年2月の予算大綱説明で、国の公定価格改定などに伴って施設型給付費を増額する一方、それに連動する人件費補助金を減額すると説明している。
ただし、2024年度の3億円と2025年度の9,900万円は、各年度の補正予算における減額であり、2023年度の計画と実績の差額とは性質が異なる。また、後年度の補正予算に記載された人件費補助金と、監査対象となった個別補助金が完全に同一の算定範囲であるかは、確認が必要だ。
広い区分の人件費補助は2025年度に増加
一方、豊橋市の主要施策成果報告書には、法人保育所・認定こども園運営費補助金の人件費実績も記載されている。
2024年度は特別支援保育を含む人件費補助として、62園に16億5,191万3,793円を計上。2025年度は同じく62園に19億9,257万6,448円となり、前年度から3億4,066万2,655円増加した。
この数字は特別支援保育を含む広い費目の集計であり、2023年度の監査対象である個別補助金8,994万5,000円と直接比較することはできない。
また、広い区分の人件費補助が増えていることだけで、保育士一人ひとりの賃金が増加したと判断することもできない。施設の運営費に関する財政措置と、実際に働く職員の給与水準は、分けて確認する必要がある。
関連する人件費補助金の減額補正が行われる一方、より広い区分の支出実績は増えている。こうした違いを理解するためにも、市独自の補助と国の制度に基づく給付が、どのように組み合わされているのかを明確にする必要がある。
監査が求めた説明、2026年3月末も改善検討中
2024年度の包括外部監査で、監査人が示したのは補助金の不正支出に関する「指摘事項」ではなく、市民向けの説明方法についての「意見」だった。
監査人は、市が「予算の見どころ」を通じて事業計画を公表している以上、計画と実績に著しい差が生じた場合には、その理由についても説明することが望ましいとした。
豊橋市が公表した2026年3月末時点の措置状況では、この監査意見に対する保育課の対応は「改善検討中」とされている。該当する措置状況一覧には、具体的な対応内容の記載はない。
ただし、この区分は市民向け説明に関する監査意見への対応状況を示したものだ。保育士への補助や処遇改善施策が実施されていないことを意味するものではない。
2026年11月1日現在、説明方法の見直しが完了したかどうかについては、新たな市の回答を得ていない。
市議会は3年連続で保育士の処遇改善を国に要望
保育士の処遇改善は、豊橋市議会でも継続的な政策課題となっている。
市議会は2023年12月15日、2024年12月20日、2025年12月19日の各定例会で、保育の充実や保育士の処遇改善、公定価格の改善に必要な措置を国に求める意見書を原案可決している。
2025年の意見書では、低年齢児の入園率の上昇や年度途中の待機児童発生への懸念に触れ、保育士の労働環境改善、人材確保、配置基準や賃金の引き上げに必要な財源を確保するよう求めた。
ただし、これらの意見書は保育行政全般に関する国への要望であり、今回の2億7,605万5,000円の差額を直接審議したものではない。
市議会が保育士の処遇改善を繰り返し求める一方、市自身の補助制度についても、予算の計画と執行結果を分かりやすく説明する責任がある。
予算の減額は何を意味するのか
豊橋市の保育士人件費補助を巡っては、2023年度に当初計画と実績の間で大きな差が生じ、その後の2024年度、2025年度にも関連する人件費補助金の減額補正が行われた。
一方で、2025年度の広い区分の人件費補助実績は前年度より増加している。こうした数字は必ずしも矛盾するものではなく、国の公定価格改定や市独自の補助制度の算定方法によって、財政負担の内訳が変化している可能性がある。
重要なのは、当初予算をいくら確保したかだけではない。実際に必要だった補助額はいくらで、その金額をどのような根拠で算定し、保育現場への支援につなげたのかという点だ。
監査人が市民への説明充実を求めた後も、関連する人件費補助金の減額補正は行われている。だからこそ、市が予算と実績の差をどのように説明し、その説明方法を改善しているのかが問われる。
公定価格改定による給付費の増額と市独自の補助金の減額が、保育施設の経営や保育士の処遇にどのような影響を与えたのか。財政上の数字と現場の実態を結び付けた説明が求められている。
編集部まとめ
豊橋市の2023年度保育所人件費補助金では、計画額3億6,600万円に対し、実績額が8,994万5,000円となり、2億7,605万5,000円の差が生じた。
市は児童数の減少や公定価格改定などに伴う委託費の増加を理由として説明している。その後の関連人件費補助金でも、2024年度に3億円、2025年度に9,900万円の減額補正が市議会で可決された。
一方、2025年度の広い区分の人件費補助実績は前年度より増加しており、個別制度の減額だけで保育現場への支援全体が縮小したと判断することはできない。
包括外部監査が求めた市民向け説明の充実については、2026年3月末時点で改善検討中とされている。市の財政措置が実際にどのように変化し、保育士の処遇改善につながっているのか。制度ごとの数字と説明の透明性が問われている。
特記事項
本記事は、豊橋市の2024年度包括外部監査報告書、2026年3月末時点の監査措置状況、2023年度予算資料、2024・2025年度補正予算説明書、各年度の主要施策成果報告書、豊橋市議会の議決結果および意見書を基に構成した。
監査結果は「意見」であり、補助金の不正支出、使途不明金、保育士への賃金未払いを認定したものではない。2023年度の計画・実績差と2024・2025年度の減額補正は性質の異なる数値であり、合算していない。監査対象と同一算定範囲の後年度実績、監査意見への最新の措置内容については、新たな行政回答を得ていない。
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週刊TAKAPI編集部/鈴木・成田
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