「夫を返してほしい」新名神6人死亡事故 “13秒のながらスマホ”に遺族が初めて語った怒り

三重県亀山市の新名神高速道路で起きた6人死亡事故と遺族の訴えを伝えるシリアスな報道イメージ

三重県亀山市の新名神高速道路で2026年3月、大型トラックが渋滞中の車列に追突し、6人が死亡した事故。

事故から4か月となった7月20日、犠牲者の一人、高峰啓三さん=当時56歳=の妻と息子たちが、初めて取材に応じました。

家族が語ったのは、遺品さえほとんど残らなかった深い喪失と、運転中に約13秒間スマートフォンへ視線を向けていたとされる被告への強い憤りでした。

「夫を返してほしい。本当に」

家族にとって、3月20日から止まった時間は、今も動き出していません。

渋滞中の車列に大型トラック 3台が炎上

事故は2026年3月20日、三重県亀山市の新名神高速道路下り線で起きました。

大型トラックが渋滞で停止していた乗用車などに追突し、複数の車が巻き込まれました。3台が炎上し、合わせて6人が死亡しました。

大型トラックを運転していた水谷水都代被告(54)は、過失運転致死の罪で起訴されています。

水谷被告は初公判で起訴内容を認めました。

検察側は、衝突直前の約13秒間、水谷被告がスマートフォンに表示された料理動画を見て、画面を保存する操作などをしていたと指摘しています。

「何も形見になるものがない」

犠牲となった高峰さんは、家族のもとへ帰省する途中でした。

事故から4か月となる月命日に、妻と長男、二男、四男が初めて取材に応じました。

高峰さんの妻は、車両が炎上したため、夫の形見になるものがほとんど残らなかったと語りました。

「何も形見になるようなものもなくて。髪の毛もないって」

突然、夫を失った現実は、今も受け止めきれないままです。

「なんで、うちの主人がこんな亡くなり方をしなければいけなかったんだろう」

その言葉には、深い悲しみだけでなく、家族の日常を一方的に奪われた怒りがにじんでいます。

「13秒、前を向かずに運転できますか」

初公判で水谷被告の姿を見た妻は、この事故が危険運転致死傷罪ではなく、過失運転致死罪として審理されていることに強い疑問を示しました。

「危険運転じゃなくて、何が危険運転なんだろう。13秒、前を向かずに運転ってできますか。普通できないですよね」

高速道路を走る大型トラックの運転席で、約13秒間も前方から視線を外していたとされる行為。

妻は、事故直前に何を考え、なぜスマートフォンの操作を続けたのか、被告自身の言葉で正直に説明してほしいと訴えています。

なぜ「危険運転」ではなく「過失運転」なのか

遺族が抱く「これが危険運転ではないのか」という疑問は、重大事故の裁判で繰り返し問われてきた問題です。

危険運転致死傷罪は、結果が重大だったという理由だけで適用されるものではありません。アルコールや薬物の影響、制御が困難な高速度、進行を制御する意思を欠いた運転など、法律で定められた危険な運転類型に該当する必要があります。

一方、過失運転致死傷罪は、前方不注視や操作ミスなど、本来果たすべき注意義務を怠り、人を死傷させた場合に問われます。

ながらスマホによる事故も、行為の危険性や被害結果が重大だからという理由だけで、直ちに危険運転致死傷罪になるわけではありません。

検察は、事故当時の速度、スマートフォンの操作内容、前方を見ていなかった時間、ブレーキ操作の有無などを証拠で確認し、法律上のどの構成要件に当たるかを判断します。

遺族の感覚と、現在の法律が定める罪の成立要件との間に隔たりがあることも、今回の裁判が突きつけている重要な問題です。

過失運転致死の量刑はどの程度か

過失運転致死傷罪の法定刑は、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。

ただし、死亡事故だから一律に同じ刑になるわけではありません。被害者の人数、前方不注視の時間、運転車両の大きさ、速度、過失の程度、事故後の救護や対応、前科、謝罪、賠償状況などが総合的に考慮されます。

過去のながらスマホによる死亡事故では、当時の刑罰表記で禁錮1年2月や禁錮2年8月などの実刑が言い渡された例があります。一方、被害者が1人の事案でも、過失の内容や示談状況などによって執行猶予が付いたケースもあります。

そのため、「ながらスマホによる死亡事故は何年」と一律に示せる明確な量刑相場はありません。

今回の事故では6人が死亡しており、被害結果は極めて重大です。さらに、高速道路で大型トラックを運転中、約13秒間にわたって前方への注意を失っていたとする検察側の主張が認定されれば、量刑上、厳しく評価される可能性があります。

一方、過失運転致死罪で審理される以上、科すことのできる刑は法定刑の上限を超えません。

今後は、検察側がどの程度の刑を求めるのか、被告側が反省や謝罪、賠償について何を示すのか、それらを裁判所がどう評価するかが焦点となります。

「父から与えられてばかりだった」

長男は、高峰さんについて「行動力があって、いろいろな人のために動く父だった」と振り返りました。

父から多くのものを与えられた一方で、自分はまだ何も返せていない。その後悔が今も残っているといいます。

二男は、普段は優しく、必要なときにはきちんと叱る父親だったと話し、自分も父のような人になりたいと語りました。

20歳の四男は、父の写真が入ったペンダントを身につけています。

いつも近くにいた父を、今も身近に感じていたい。その思いからです。

「本当に、自分の家族を大事にしていた父親を返してほしい」

家族の言葉は、事故で失われたものが一人の命だけではなく、その人を中心に続いていた日常そのものだったことを物語っています。

バレーボールチームの監督も務めた父

高峰さんは、バレーボールチームの監督を務めるなど、周囲の人のために動く人物だったといいます。

家族にとっては、頼りになる夫であり、尊敬する父親でした。

事故後、家族は「3月20日から時間が止まったようだ」と感じながら日々を過ごしています。

事故の日まで当たり前に続くと思っていた生活は、一瞬で断ち切られました。

その喪失を埋める形見さえ、車両火災によってほとんど残りませんでした。

被告は起訴内容を認める 反省の具体的な言葉はこれから

水谷被告は初公判で、起訴された事実関係を認めています。

ただ、なぜ大型トラックを運転しながらスマートフォンへ視線を向け続けたのか、約13秒間の行動を今どう振り返っているのか、6人が死亡した結果をどのように受け止めているのかは、現時点で十分に明らかになっていません。

起訴内容を認めることと、事故に至った経緯や責任について具体的に語ることは同じではありません。

被告側が今後、事故への反省や遺族への謝罪、被害弁償についてどのような説明をするのかは、裁判所が量刑を判断するうえでも重要な要素となります。

遺族の強い怒りを伝える一方で、裁判では被告に説明と弁明の機会が保障されます。その言葉が事故の重大さに正面から向き合うものなのかも、慎重に見極める必要があります。

8月31日に被告人質問

次回の裁判では、8月31日に被告人質問が予定されています。

焦点となるのは、水谷被告がなぜ運転中にスマートフォンを操作したのか、約13秒間に何をしていたのか、操作を途中でやめることはできなかったのかという点です。

6人の命を奪った結果をどう受け止めているのか、遺族に対してどのような思いを持っているのかも問われることになります。

被告人質問は、遺族の疑問に直接答えるためだけの場ではありません。

それでも、被告本人が事故の経緯や責任をどこまで具体的に語り、反省をどのような言葉と態度で示すのかは、事件の全体像と量刑を考えるうえで重要です。

遺族が求めているのは、形式的な謝罪だけではありません。

なぜ前を見なかったのか。なぜスマートフォンを置けなかったのか。そして、取り返しのつかない結果を今どう受け止めているのか。

次回の法廷では、その説明と姿勢が厳しく問われます。

編集部まとめ

高速道路を走る大型トラックが、約13秒間も前方への注意を失えば、どれほど重大な結果を招くのか。この事故は、その危険を最悪の形で示しました。

一方、刑事裁判では、遺族の悲しみや怒りの大きさだけで適用する罪や刑の重さを決めることはできません。危険運転致死傷罪と過失運転致死罪のどちらに当たるかは、法律が定めた要件と証拠に基づいて判断されます。

過去のながらスマホによる死亡事故では、1年台から2年台の実刑が言い渡された例があります。しかし、今回の事故では6人が死亡しており、被害の大きさは類似事案と単純に比較できません。

裁判では、約13秒間のスマートフォン操作がどのように評価されるのか、被告が事故への反省と遺族への謝罪をどこまで具体的に示すのか、そして検察側がどの程度の刑を求めるのかが焦点となります。

高峰さんの家族が語った「返してほしい」という願いがかなうことはありません。

それでも、被告本人の説明と司法の判断を通じて、失われた6人の命に対する責任がどこまで具体的に示されるのか。

8月31日の被告人質問は、その答えを探る重要な局面となります。

週刊TAKAPI編集部/成田

特記事項:裁判で示された検察側の主張、遺族への取材内容、関係法令、過去の裁判例、各社報道をもとに構成しています。被告の責任や量刑は、今後の審理と判決によって判断されます。

Q新名神高速道路の事故はいつ、どこで起きましたか?
A2026年3月20日、三重県亀山市の新名神高速道路下り線で発生しました。大型トラックが渋滞で停止していた車列に追突し、3台が炎上して6人が死亡しました。
Q水谷水都代被告は何の罪で起訴されていますか?
A過失運転致死罪で起訴されています。水谷被告は初公判で起訴内容を認めていますが、事故への反省や遺族への謝罪について、具体的にどのような説明をするかは今後の審理が焦点です。
Q約13秒間、何をしていたと指摘されていますか?
A検察側は、水谷被告が大型トラックを運転中、スマートフォンで料理動画を見て、画面を保存する操作などをしていたと指摘しています。
Qなぜ危険運転致死傷罪ではないのですか?
A危険運転致死傷罪は、結果の重大さだけで成立するものではありません。飲酒や薬物の影響、制御困難な高速度など、法律で定められた危険な運転類型に該当する必要があります。前方不注視などの注意義務違反による事故は、過失運転致死傷罪として扱われることがあります。
Q過失運転致死罪では何年程度の刑になりますか?
A法定刑は7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。過去のながらスマホ死亡事故では、1年台から2年台の実刑例がありますが、被害者数、過失の程度、車両の大きさ、謝罪、賠償などによって判断は変わります。今回の事故は6人が死亡しており、過去例と単純に比較することはできません。

事故と裁判の焦点

三重県亀山市の新名神高速道路で発生した大型トラック追突事故では、渋滞中の車列にトラックが突っ込み、6人が死亡しました。検察側は、運転していた水谷水都代被告が衝突直前の約13秒間、スマートフォンで料理動画を見て画面を保存していたと指摘しています。犠牲者の高峰啓三さんの妻と息子たちは、事故から4か月の月命日に初めて取材に応じ、「夫を返してほしい」と訴えました。今後の裁判では、被告がながらスマホに至った経緯、事故への反省、遺族への謝罪をどこまで具体的に語るのかに加え、約13秒間の前方不注視や6人が死亡した結果が量刑上どのように評価されるかが焦点となります。

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