1996年9月、米ラスベガスで銃撃され、25歳で死亡したラッパー、2PacことTupac Shakur(トゥパック・シャクール)。
事件からまもなく30年となる2026年、殺害への関与を巡って殺人罪に問われているDuane “Keffe D” Davis被告(63)の裁判が本格審理に入る。
ラスベガスでは8月10日から陪審員選定が始まり、16人の陪審員が選ばれた。現地時間8月17日には冒頭陳述が予定され、検察側と弁護側が約30年前の事件について、それぞれの主張を陪審員に示す。Davis被告は無罪を主張している。
今回の裁判で焦点となるのは、「誰が2Pacを撃ったのか」だけではない。
検察側は、Davis被告が銃撃計画を主導し、武器を提供するなどして殺害に関与したと主張している。一方、弁護側は約30年後の刑事裁判で、Davis被告自身が過去に語った内容をどこまで信用できるのかを争う構えだ。
1996年9月7日、ラスベガスで2Pacを襲った銃撃
事件が起きたのは1996年9月7日。
2PacはMike Tysonのボクシング試合を観戦した後、Death Row Recordsを率いていたMarion “Suge” Knightが運転するBMWで移動していた。
ラスベガス・ストリップ近くの交差点で停車していた際、白いCadillacから銃撃され、複数の銃弾を受けた。
2Pacは病院へ搬送されたが、6日後の9月13日に死亡した。25歳だった。
銃撃の数時間前には、MGM Grandで2PacらとDavis被告の甥Orlando “Baby Lane” Andersonとの間で暴行事件が起きていた。
検察側は、この暴行に対する報復として銃撃が実行され、Davis被告が計画を取り仕切ったと主張している。
なぜ約30年後に殺人裁判まで進んだのか
2Pac殺害事件は長期間、刑事責任を問う起訴には至らなかった。
大きな転機となったのが、Davis被告自身による後年の発言だった。
Davis被告はインタビューなどで事件について語り、2019年には回想録「Compton Street Legend」を出版。銃撃に使われたとされるCadillacに自身が乗っていたことや、武器を渡したことなどについて記していた。
捜査当局は2023年、Davis被告を逮捕。
約30年前の事件が、新しい科学鑑定によって突然解決へ向かったというより、事件関係者自身が後年、公の場で語った内容が重要な材料となって刑事裁判へ進んだ点が、この事件の大きな特徴だ。
Keffe D被告は「直接撃った人物」として起訴されていない
今回の裁判を理解するうえで欠かせない点がある。
Davis被告は、2Pacを直接銃撃した人物として起訴されているわけではない。
検察側はDavis被告について、報復を決める立場にあった「shot caller」と位置付け、銃撃計画を主導し、犯行に使用された武器を提供したなどと主張している。
ネバダ州では、実際に発砲していなくても、犯罪を計画・援助した人物について殺人の刑事責任を問うことが可能だ。
したがって検察側が陪審員に示す必要があるのは、「Davis被告が引き金を引いた」という事実ではなく、2Pac殺害計画に参加し、犯罪成立につながる役割を担ったという構図になる。
証人候補は約200人 実際の証言は35~45人程度か
今回、証人の顔ぶれも注目されている。
検察側が提出した証人リストは11ページに及び、約200人の候補者が記載されている。一方、実際に検察側が法廷で呼ぶ証人は35~45人程度になる見込みで、リスト掲載者全員が証言するわけではない。
証人リストには、事件当時2Pacと同じBMWに乗っていたSuge Knightのほか、現在のネバダ州知事Joe Lombardo、元ラスベガス市長Oscar Goodman、2Pacの家族、Davis被告の回想録を共同執筆したYusuf Jahらが含まれている。
ただし、現時点で証人を呼ぶ具体的な順番は公表されていない。
また、Knightは以前からDavis被告の裁判では証言しないとの意向を示しており、証人リストに名前があることと、実際に証言台へ立つことは分けて考える必要がある。
検察側が呼ぶ予定のDenvonta Lee 「実際の射手」を巡る証言も
証人の中でも注目される一人がDenvonta Leeだ。
LeeはSouth Side Compton Cripsと関係があった人物で、検察側が証人として呼ぶ予定とされている。
Leeは大陪審で、事件当夜について自ら現場にいたわけではないものの、Orlando Andersonには十分な射撃位置がなく、Deandrae “Freaky” Smithが銃を受け取って発砲したとの内容を証言している。
さらにLeeは、Davis被告が指示する立場にあり、銃をAndersonへ渡し、その後Smithへ渡ったと証言した。
これはあくまでLeeの証言内容であり、射手がSmithだったことが司法上確定したわけではない。
しかし約30年間、「Orlando Andersonが撃ったのではないか」と語られてきた事件で、実際の射手について異なる人物を示す証言が法廷でどのように扱われるのかは大きな注目点になる。
弁護側は「虚偽自白」の専門家も予定
証人構成を見ると、弁護側がどこを攻めようとしているのかも見えてくる。
弁護側は少数の証人を予定しており、その中には虚偽自白や強圧的な尋問手法を専門とする人物も含まれている。
つまりDavis被告側は、「過去に本人がそう語った」という事実だけでは殺人への関与を証明できないと主張し、その発言が生まれた背景や信用性そのものに疑問を提示するとみられる。
これは、今回の裁判の証拠構造と直接つながっている。
2008年の警察聴取と2019年の回想録を法廷で使用
裁判前には、Davis被告が過去に残した発言を証拠として使用できるのかについて争われた。
特に問題となったのが2008年の捜査当局とのインタビューだ。
弁護側は、当時の事情聴取ではDavis被告に一定の保護が約束されていたとして、今回の裁判で使用すべきではないと主張した。
しかしCarli Kierny裁判官は2026年7月、2008年のインタビューについて証拠として使用できると判断した。
さらに2019年の回想録「Compton Street Legend」も証拠として使用することが認められている。
検察側は過去の発言を事件への関与を裏付ける材料と位置付ける。
一方の弁護側は、回想録には誇張などが含まれ、出版された内容をそのまま殺人事件の事実として扱うべきではないとの立場を取っている。
「誰が撃ったのか」は裁判後も残る可能性
白いCadillacにはDavis被告のほか、Orlando Anderson、Deandrae “Freaky” Smith、Terry “Bubble Up” Brownが乗っていたとされる。
Davis被告以外の3人はすでに死亡している。
事件当時からAndersonが射手だった可能性が指摘されてきた一方、今回の裁判ではSmithを射手とする証言も存在する。
だが、今回の刑事裁判で最終的に判断されるのは、Davis被告が殺害について刑事責任を負うのかという点だ。
そのためDavis被告について有罪または無罪の評決が出たとしても、「実際に誰が2Pacへ向けて発砲したのか」が司法上完全に確定しない可能性は残っている。
17日の冒頭陳述で何を見るべきか
現地時間8月17日の冒頭陳述では、検察側が約30年前の事件をどのような一本のストーリーとして陪審員に提示するのかが最初の焦点になる。
MGM Grandでの暴行。
報復を決めたとされる経緯。
白いCadillac。
銃の受け渡し。
そしてDavis被告が後年、自ら語った内容。
検察側はこれらをつなぎ、Davis被告が殺害計画を主導したという主張を展開するとみられる。
対する弁護側は、約30年という時間の経過、証言の信用性、本人の発言と実際の犯罪を結び付ける証拠の強さなどに疑問を提示することになる。
裁判は少なくとも約4週間、報道によっては最大5週間程度が見込まれている。
編集部まとめ
2Pac殺害事件については、30年近くにわたり無数の説、証言、噂が語られてきた。
しかし、これから陪審員が判断するのはヒップホップ史の伝説ではない。
Davis被告が1996年9月7日の殺害計画を主導・援助したと、検察側が合理的な疑いを超えて立証できるのか。
その一点だ。
同時に、約200人の証人候補から実際に誰が法廷へ呼ばれるのか、Denvonta Leeの証言が射手を巡る従来の見方にどのような影響を与えるのか、Suge Knightが最終的に証言するのかなど、審理が始まって初めて分かる部分も多い。
そして、ファンにとってはもう一つの意味がある。
1996年9月、世界で最も強烈な言葉を放っていた一人のアーティストが25歳で殺された。その事件について、本人が答えを語ることはもうない。
法廷で問われるのはあくまで証拠と刑事責任だ。
それでも、2Pacが生きられなかった約30年という時間の重さまで、この裁判から切り離すことはできない。
現地時間8月17日。
長く音楽史の中で語られてきた2Pac殺害事件は、いよいよ陪審員が証拠を判断する法廷へ入る。
週刊TAKAPI編集部/成田(デスク)
特記事項
Duane “Keffe D” Davis被告は無罪を主張している。Davis被告はTupac Shakurを直接銃撃した人物として起訴されているものではなく、事件への関与、銃撃計画、武器の受け渡しなどに関する記述には検察側の主張や証人の証言内容が含まれる。刑事責任の有無は裁判で判断される。
今回の裁判で押さえておきたいポイント
2PacことTupac Shakurは、1996年9月7日に米ラスベガスで銃撃され、同13日に25歳で死亡した。
殺人罪に問われているDuane “Keffe D” Davis被告は、2Pacを直接撃った人物として起訴されているわけではない。検察側は、Davis被告が報復としての銃撃計画を主導し、武器を提供するなどして殺害に関与したと主張している。
2026年8月17日に予定される冒頭陳述では、検察側が約30年前の事件とDavis被告をどのように結び付けるのか、弁護側が本人の過去の発言や証言の信用性をどう争うのかが最初の焦点となる。
証人候補は約200人規模に上り、実際に検察側が呼ぶ証人は35~45人程度になる見込み。候補にはSuge KnightやDavis被告の回想録に関係する人物などが含まれているが、全員が出廷するとは限らない。
1996年9月7日
ラスベガスで2Pacが銃撃される。
1996年9月13日
2Pacが死亡。25歳。
2008年
Davis被告が捜査当局から事件について事情聴取を受ける。
2019年
Davis被告が回想録「Compton Street Legend」を出版。
2023年
Davis被告が2Pac殺害事件を巡り逮捕される。
2026年8月10日
陪審員選定が始まる。
2026年8月13日
16人の陪審員が選ばれる。
2026年8月17日
冒頭陳述が予定され、本格的な審理へ。
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