宮城県大崎市の洋菓子店「パティスリープロムナード」がThreadsに投稿した、ケーキの価格を巡る率直な言葉が大きな反響を呼んでいる。
「本気で頑張ってつくってます 高すぎるとか言わないで」
店はこの言葉とともに、色鮮やかなケーキやタルトが並ぶショーケースの写真を公開した。2026年8月22日午前1時3分の確認時点で、投稿は67万回以上表示され、6300件を超える「いいね」を記録している。
単なる“映えるケーキ”の投稿ではない。700円台から900円台を中心とする現在のケーキ価格と、「高い」と感じる消費者心理。その間にある洋菓子店の厳しいコスト事情が可視化されたことで、全国規模の話題へ広がった。

※ patisseriepromenade より抜粋
700~900円台が中心 シャインマスカットのタルトは1200円
パティスリープロムナードは、大崎市古川七日町の「食の蔵 醸室」に店を構える古民家パティスリー。2022年にオープンし、大崎市や宮城県産の食材も取り入れながら洋菓子を販売している。
今回公開されたショーケースを見ると、ケーキは700円台後半から900円台の商品が多く、シャインマスカットを使ったタルトは1200円。一般的なコンビニスイーツなどと比べれば、決して安い価格帯ではない。
一方で、形は単純な三角形のカットケーキばかりではない。立体的な造形やフルーツを生かした商品など、一つ一つに手数をかけた構成が目立つ。
Threads上でも、価格を「妥当」と受け止める声のほか、材料費や人件費を考えれば理解できるという趣旨の反応が相次いだ。一方で、「高いと感じる」という率直な意見もあり、現在の消費者心理をそのまま映した議論となっている。
開店当初の公開価格は300~700円前後 ただし単純比較はできない
価格の変化を考えるうえで興味深いのが、オープン直後の2022年に紹介されていた商品構成だ。
当時の公開情報では、シューアラクレーム350円、複数のケーキが500~580円前後、和栗のモンブランが700円などとなっていた。現在確認できるショーケースでは700~900円台の商品が中心となっている。
ただし、これは同一商品の価格推移ではなく、季節や使用食材、商品構成も異なるため、「数年間で何%値上げした」と単純に結論付けることはできない。
それでも、洋菓子店を取り巻くコスト環境が2022年当時から大きく変化していることは確かだ。
バター、クリーム、カカオ……ケーキは原材料高の影響を受けやすい
ケーキは、小麦粉や砂糖だけで作る商品ではない。
バター、生クリーム、卵、チョコレート、ナッツ、フルーツなど複数の材料を組み合わせ、さらに包装資材、冷蔵設備の電気代、店舗運営費、人件費まで必要になる。
2026年に公表された原材料価格の調査では、バターは前年同時期比で約20%、牛乳は約5%上昇。カカオ豆やココアバターも高値圏が続いており、ナッツ類やバニラビーンズ、化粧箱などにも値上がりがみられる。
特にチョコレート系の洋菓子は影響が大きい。
カカオ価格そのものがピークから下落しても、高値で仕入れた原料在庫や円相場などの影響が残るため、原料相場が下がったからといって店頭価格をすぐ元に戻せるとは限らない。
「材料が高い」は、単なる店側の印象論ではない。
洋菓子店の倒産65件 2年連続で過去最多
今回の投稿を「一軒のケーキ屋の価格問題」で終わらせられない数字もある。
2025年度に発生した洋菓子店の倒産は65件。前年度の51件から14件増え、約3割増加した。2年連続で過去最多を更新している。
さらに、洋菓子店の営業利益率は平均0.7%まで低下。最終赤字となった店舗は3割を超え、減益を含む「業績悪化」は6割近くに達した。
原材料費を販売価格に転嫁できなければ利益が減る。
しかし価格を引き上げれば、「ケーキに800円、900円は高い」と感じる客が離れる可能性がある。
まさに店側は、その二つの間に立たされている。
2026年に入っても状況は厳しい。ケーキや和菓子などを含む菓子小売業では、1~7月だけで倒産が45件に達し、同期間として過去30年間で最多となっている。
なぜ67万表示まで広がったのか
今回の投稿が拡散した理由は、「高い」「安い」の価格論争だけでは説明しにくい。
大きいのは、完成品だけを見ている消費者に対し、作り手が価格の裏側にある“労力”を短い言葉で提示したことだ。
スーパーでも飲食店でも値上げが続き、消費者の節約意識は強くなっている。
その一方、店側も原材料や人件費の上昇を受けている。
つまり、
「消費者にとっては高い」
と
「店にとってはこれ以上安くできない」
が同時に成立する。
今回の投稿は、この矛盾を一枚のショーケース写真と短い言葉で可視化した。それが67万表示という規模まで広がった大きな理由とみられる。
SNSそのものが「価格を説明する場所」に
パティスリープロムナードは、以前からSNS上で注目されてきた。
2026年2月の「猫の日」に合わせて猫をモチーフにしたケーキをショーケースいっぱいに並べた投稿では、76万回以上表示されるなど大きな反響を集めている。
今回は商品そのもののかわいさではなく、「価格」が話題になった。
これは個人店のSNS活用という点でも興味深い。
値札だけを見れば「900円」という数字で終わる。しかし、商品の造形や使用する材料、作り手の言葉まで同時に伝えれば、「なぜこの価格なのか」を説明できる。
価格転嫁が難しい時代に、SNSが販売促進だけではなく、商品の価値を消費者に説明する場所になり始めている。
編集部まとめ
「本気で頑張ってつくってます 高すぎるとか言わないで」。
67万表示を超えた理由は、この言葉が単なる店側の愚痴ではなく、現在の洋菓子業界が抱える問題と重なったからだ。
700~900円台のケーキを「高い」と感じること自体は不自然ではない。家計にも物価高が直撃している。
しかし店側も、バター、生クリーム、カカオ、果物、包装資材、人件費、光熱費といった複数のコスト上昇を抱える。
さらに、洋菓子店の倒産が2年連続で過去最多となった数字を見れば、値上げを避け続ければ解決する問題でもない。
今回の投稿が投げかけたのは、「ケーキ1個にいくら払えるか」だけではない。
その価格でなければ、街のケーキ屋が残れない可能性がある――。ショーケースの値札の向こう側まで考えさせる投稿だった。
週刊TAKAPI編集部/黒木
特記事項
本記事は2026年8月22日午前1時3分までに確認したThreads投稿、店舗に関する公開情報、洋菓子業界および原材料価格に関する公表資料をもとに構成した。
Threadsの表示回数、いいね数は確認後も変動する。
店舗の原価率、利益率、個別商品の値上げ幅については公表されておらず、本記事では推定していない。2022年と現在の価格についても商品構成が異なるため、同一商品の値上げ率を示すものではない。
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