宗教上の信条から輸血を受け入れないことを理由に、県立病院で診療を断られたのは違法だとして、「エホバの証人」の信者5人が沖縄県を相手取り、計約1674万円の損害賠償などを求めて那覇地裁に提訴していたことが、2026年8月27日までに明らかになった。
提訴は5月18日付。
原告側が診療を断られたと主張しているのは、沖縄県立中部病院と県立八重山病院。5人のうち4人は現在も沖縄県内に住み、1人は診療を断られたとする当時、県内に居住していたという。
現段階で「病院が違法に診療を拒否した」と裁判所が認定したわけではなく、原告側の主張と病院側の医療方針をめぐって今後審理が進む。
「輸血同意書に署名しなかったため診療を断られた」と主張
訴状によると、原告5人は2023年以降、中部病院または八重山病院で手術や検査などを希望した際、輸血に関する同意書への署名を求められた。
しかし、宗教上の信条から輸血を受け入れないとして署名しなかったところ、診療を断られたと原告側は主張している。
原告の中には、その後、遠方の医療機関を受診することになり、交通費などの負担が生じたケースもあるという。
これらは訴状に記載された原告側の主張であり、事実関係や病院側の対応の違法性について、現時点で裁判所の判断は示されていない。
原告側「宗教を理由とする差別的取り扱い」
原告側は、公立病院が輸血への同意を診療上の条件とすることについて、宗教上の信条を理由とする差別的な取り扱いに当たり、法の下の平等や信教の自由などに反すると主張している。
沖縄県に対し、5人合わせて約1674万円の損害賠償を求めるほか、病院側が設けている輸血方針の無効確認なども求めている。
裁判では、患者が宗教上の理由から輸血を拒否する自己決定と、医療機関が救命を優先して治療方針を設定する権限・責任をどのように整理するのかが焦点の一つとなるとみられる。
八重山病院は「相対的無輸血」を基本方針
県立八重山病院は、輸血を拒否する患者への対応について「相対的無輸血」を基本方針としている。
これは可能な限り輸血を行わずに治療を進める一方、患者の生命維持のため輸血が必要となった場合には輸血を行う考え方。
一方、宗教上の理由などから、生命維持に必要となった場合でも輸血を受けない「絶対的無輸血」を希望する患者については、他の医療機関への転院を勧める場合があるとしている。
県立中部病院も、輸血を拒否する患者への対応方針を公式に示している。
今回の訴訟について、中部病院と八重山病院は、訴状の内容を精査している段階として、現時点で具体的なコメントを控えている。
公立病院の救命義務と患者の自己決定が争点に
輸血拒否をめぐっては、患者本人の信条や治療に対する自己決定をどこまで尊重するのかという問題と、医師や病院側が生命を守るためにどの範囲まで医療行為を行うべきかという問題が交差する。
今回の訴訟では、単に「輸血を拒否した患者を診療したかどうか」だけでなく、公立病院がどのような条件で診療を行い、どの段階で他院への転院を求めることが許容されるのかも重要になる。
特に、原告側は宗教を理由とする差別的取り扱いだと主張している一方、病院側には患者の生命・安全確保や医療従事者の責任という観点がある。
今後、沖縄県側がどのような答弁を行い、病院の輸血方針と個別の診療経過をどのように説明するかが注目される。
編集部まとめ
沖縄県立中部病院と県立八重山病院で、輸血への同意を拒否したことを理由に診療を断られたとして、「エホバの証人」の信者5人が沖縄県を提訴した。
原告側は約1674万円の損害賠償や輸血方針の無効確認などを求めているが、診療拒否の有無や違法性について裁判所の判断はまだ出ていない。
今回の訴訟では、宗教上の信条に基づく患者の自己決定と、公立病院が救命を優先して採用する「相対的無輸血」の医療方針をどこまで両立できるのかが大きな論点となる。
今後は、原告側の主張だけでなく、沖縄県側の答弁、各患者への具体的な説明内容、転院提案の有無や経緯などを切り分けて見る必要がある。
週刊TAKAPI編集部/成田
特記事項
提訴は2026年5月18日付で、訴訟の具体的内容が8月27日に新たに明らかになった案件として扱っています。
計約1674万円は原告5人が沖縄県に請求している金額であり、沖縄県の賠償責任や支払義務が確定したものではありません。
「診療を断られた」「宗教を理由とする差別的な取り扱いだった」とする点は原告側の主張です。現時点で裁判所が認定した事実ではありません。
八重山病院などが示している「相対的無輸血」は、可能な限り輸血を行わず治療する一方、生命維持に必要と判断された場合には輸血を行う方針です。「絶対的無輸血」とは区別して記載しています。
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