愛知県の元男性職員が実際に行った休日勤務など179時間分について、当時の上司らが平日の勤務や平日の時間外勤務として記録を付け替えていたことが分かった。
愛知県は勤務実態と異なる記録処理について「不適切な勤務管理」だったと認め、上司ら2人を指導した。一方、正しく休日勤務として処理した場合に生じる手当との差額約25万円については、県は「2年間の時効が経過している」として支払っていない。
問題が起きたのは2019年4月から10月。県自身が不適切な処理だったと認めながら、結果として元職員には差額が支給されないという構図になっている。
週刊TAKAPIは、今回明らかになった事実から、県の勤務管理と説明責任を検証する。
2019年4~10月、179時間分の勤務記録を付け替え
愛知県によると、勤務記録が変更されたのは、元男性職員が勤務していた2019年4月から10月までの計179時間分。
当時、この職員については時間外勤務や休日勤務が原則として認められていなかったという。
しかし、元職員から休日勤務の申し出があり、上司はいったんこれを認めた。
その後、上司側から、
「休日に働く理由がないため、平日に働いた処理でいいですか」
との趣旨の確認があり、元職員との合意のもとで、休日に実際に働いた時間を平日勤務や平日の時間外勤務として記録する処理が行われたという。
ここで重要なのは、休日勤務そのものが架空だったのではないことだ。
実際に休日に勤務していたにもかかわらず、勤務記録上では別の日・別の勤務区分として処理されていた。
元職員との「合意」があっても県は不適切と判断
県側は、勤務記録の変更について元職員本人との合意があったと説明している。
しかし、その後元職員から指摘を受けて県が確認した結果、こうした処理は不適切な勤務管理だったと判断した。
県は関係した上司ら2人を指導したとしている。
つまり、本人が当時了承していたことだけを理由に、県が適切な処理だったとしているわけではない。
愛知県の職員勤務に関する条例では、休日は原則として勤務を要しない一方、任命権者が職員に休日勤務を命じる制度そのものは設けられている。勤務時間や休日については条例・規則に基づいて管理される仕組みだ。
今回問われるのは、実際に行われた勤務を、なぜ実態とは異なる区分へ変更する必要があったのかという点になる。
差額は約25万円 しかし県は「2年間の時効」で支払わず
問題は勤務記録だけでは終わらない。
休日勤務として正しく処理した場合と、実際に行われた平日勤務・平日時間外勤務としての処理との間には、約25万円の手当差額が生じたという。
しかし、この約25万円について愛知県は、
「2年間の時効が過ぎている」
として支給していない。
ここには、行政として説明すべき大きな論点が残る。
勤務記録を不適切に処理したのは県側であり、その不適切さも県自身が認めた。
それにもかかわらず、時間が経過した結果、金銭的な不利益だけが元職員側に残る形になっているからだ。
県が主張する時効の法的な適用関係について、今回確認できた公開情報だけから週刊TAKAPIが適否を断定することはできない。
ただ、法的に請求権が時効にかかるという説明と、県自身の不適切な勤務管理について行政としてどう責任を取るのかは別の論点だ。
「休日に働く理由がない」なら、なぜ勤務を認めたのか
今回の経緯には、もう一つ整理が必要な点がある。
県側の説明では、
- 元職員が休日勤務を申し出る
- 上司が休日勤務を認める
- その後「休日に働く理由がない」として平日扱いへの変更を持ちかける
- 実際の休日勤務を平日勤務などとして記録する
という流れになっている。
だとすれば、
休日勤務を認めた時点では、どのような必要性を確認していたのか。
その後、なぜ「休日に働く理由がない」と判断が変わったのか。
休日勤務が不要だったのなら、実際に勤務した事実を別の日の勤務として処理するのではなく、管理者として勤務命令や業務量そのものを見直すべきではなかったのか。
今回確認できた情報では、この判断過程までは明らかになっていない。
問題点① 勤務記録が実態を示していなかった
行政組織にとって勤務記録は、単に給与を計算するための数字ではない。
職員がいつ、どれだけ働いたのかを把握し、長時間勤務や健康管理、組織の人員配置などを検証する基礎資料になる。
今回の179時間が別の勤務区分として記録されたことで、少なくとも記録上は実際の休日勤務の状況が正確に反映されていなかったことになる。
これは給与の差額だけではなく、勤務管理そのものの正確性に関わる問題だ。
問題点② 「指導」で十分だったのか
愛知県が公表している対応は、関係した上司ら2人への「指導」とされている。
一方、今回明らかになった付け替えは179時間に及ぶ。
単純な入力ミスではなく、上司が元職員に平日の勤務として処理することを持ちかけ、実際に勤務区分を変更していたと県自身が説明している。
そのため、
なぜ「指導」という対応になったのか。
どのような責任を認定したのか。
懲戒処分に該当しないと判断したのであれば、その基準は何だったのか。
こうした点についても、より詳しい説明が求められる。
問題点③ 県側の処理で生じた差額を、県側が時効で支払わない構図
今回、最も市民に分かりにくいのはこの部分だろう。
県は、
勤務管理は不適切だった
と認めている。
同時に、
その処理によって発生した約25万円の差額は時効なので支払わない
としている。
仮に法的に時効が完成しているとしても、
「不適切な処理を行った行政側」と
「その処理によって手当の差額が生じた元職員」
という関係をどう整理するのかは残る。
少なくとも県には、いつ問題を把握し、いつ不適切と認定し、なぜその時点では既に時効となっていたのかという時系列を明確に説明する必要がある。
なぜ2019年の問題が2026年になって表面化したのか
付け替えが行われたのは2019年。
今回問題が明らかになったのは2026年9月で、勤務から相当の年月が経過している。
現時点で確認できる情報では、
- 元職員が最初に県へ問題を指摘した時期
- 県が調査を始めた時期
- 179時間を不適切と認定した時期
- 上司らを指導した時期
- 約25万円が時効になった時期
という重要な時系列が十分明らかになっていない。
時効を理由に差額を支払わないのであれば、この時間経過が誰の側で生じたのかは極めて重要だ。
ここは県への追加確認が必要になる。
他の職員にも同様の付け替えはなかったのか
今回明らかになったのは元男性職員1人の勤務記録についてだ。
しかし、勤務記録の変更が上司側の判断で行われていた以上、
同じ所属でほかの職員にも同様の処理がなかったのか
という疑問も生じる。
県が当該職員だけを調査したのか、所属内の勤務記録をさかのぼって確認したのか、全庁的な調査を行ったのかについても、現時点の公表情報では確認できない。
再発防止を考えるなら、個別案件の訂正だけでなく、同様の勤務管理がほかになかったかを確認する必要がある。
Q&A|愛知県の「179時間付け替え」で分かっていること
編集部まとめ
今回の問題は、単純な勤務表の記載ミスではない。
179時間もの実際の休日勤務などが別の勤務区分として処理され、県自身がそれを「不適切な勤務管理」と認めている。
それでも元職員への約25万円の差額は、時効を理由に支払われていない。
県が時効を主張するのであれば、まず明らかにすべきなのは、不適切な処理がいつ発覚し、県はいつ是正に動き、なぜ救済できないほど時間が経過したのかだ。
さらに、179時間の記録変更がどのような管理体制のもとで可能だったのか、同様の勤務処理がほかにも存在しなかったのかについても検証が必要だ。
週刊TAKAPIでは、愛知県に対し勤務記録の付け替えに至った経緯、時効の根拠、上司らへの対応、他職員への調査の有無について引き続き確認する。
週刊TAKAPI 編集部/松本
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