豊橋市の小中学校では、いじめは年間何件認知され、そのうち生命・心身への重大な被害や長期欠席につながる「いじめ重大事態」は何件あったのか。
2026年8月31日の豊橋市議会9月定例会で、日本共産党豊橋市議団の鈴木みさ子市議が「『いじめ重大事態』への対応について」を一般質問で取り上げた。
質問は抽象的な教育論ではない。
鈴木市議が市側に求めたのは、
「豊橋市における令和4年度~令和7年度のいじめの認知件数と、いじめ重大事態の認定状況」だった。
対象は2022年度から2025年度までの4年間だ。
週刊TAKAPIは、市議会資料だけでなく、豊橋市教育委員会が公表している「いじめの現状と課題」、豊橋市こども計画、いじめ防止基本方針などを横断した。
すると、いじめ認知件数の推移と同時に、市が公表する資料によって同じ年度の「認知件数」が一致していないという、別の検証課題も浮かび上がった。
※本稿は2026年9月3日時点で公開されている豊橋市・豊橋市教育委員会・豊橋市議会資料を基にした独自分析です。8月31日の一般質問で2022~2025年度の件数が問われましたが、正式会議録と今回の議員別録画は現時点で確認できていません。2025年度の最終値と重大事態認定件数については、公式記録公開後に更新します。
まず確認できた「いじめ認知件数」
豊橋市教育委員会が2025年7月の総合教育会議に提出した「いじめの現状と課題について」では、各学校が毎月、学年別の認知件数、発見のきっかけ、いじめの態様を教育委員会へ報告する仕組みが示されている。
この月例報告を小中学校で合計すると、次のようになる。
| 年度 | 小学校 | 中学校 | 小中合計 |
|---|---|---|---|
| 2022年度(令和4) | 5,426件 | 725件 | 6,151件 |
| 2023年度(令和5) | 5,440件 | 638件 | 6,078件 |
| 2024年度(令和6) | 4,322件 | 731件 | 5,053件 |
| 2025年度(令和7) | 公式答弁確認待ち | 確認待ち | 確認待ち |
小学校では2024年度に4,322件となり、前年度5,440件から約20%減少した。一方、中学校は638件から731件へ14.6%増加している。
つまり、少なくとも市教委の月例報告ベースでは、
2022年度 6,151件
↓
2023年度 6,078件
↓
2024年度 5,053件
という推移になる。
ただし、ここで一つ大きな問題が出てくる。
同じ豊橋市の資料なのに「認知件数」が一致しない
豊橋市の「こども計画2025-2029」に掲載された認知件数を見ると、数字が違う。
同計画では、
| 年度 | 小学校 | 中学校 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 2022年度 | 4,526件 | 725件 | 5,251件 |
| 2023年度 | 5,562件 | 638件 | 6,200件 |
とされている。
先ほどの教育委員会の月例報告と並べてみる。
| 年度 | 教委「月例報告」 | 「こども計画」 | 差 |
|---|---|---|---|
| 2022年度 | 6,151件 | 5,251件 | 900件 |
| 2023年度 | 6,078件 | 6,200件 | 122件 |
中学校の数字は両資料で一致している。
違うのは小学校だ。
2022年度については、
5,426件と4,526件
2023年度は、
5,440件と5,562件
同じ豊橋市の公表資料で、同じ年度の「いじめ認知件数」として異なる数字が掲載されている。
現時点の公開資料だけでは、これが集計方法の違いなのか、集計時点の違いなのか、後日の修正が反映された結果なのか、あるいは記載上の誤りなのかは断定できない。
したがって週刊TAKAPIとしては、どちらか一方を「正しい数字」と決めつけるのではなく、市教委に集計基準と差が生じた理由を確認すべき事項と位置付ける。
これは今回の一般質問とは別に、教育行政の情報公開という観点から重要な検証点だ。
「いじめ認知件数が多い=学校が荒れている」ではない
ここは数字を扱う上で注意が必要だ。
いじめの「認知件数」は、警察の犯罪認知件数のように、単純に深刻ないじめの発生数を意味するものではない。
豊橋市教委自身、教員による見守り、生活アンケート、本人からの訴え、保護者や友人からの情報などを通して幅広く認知している。
市教委は2025年の資料で、
「小中学校において、積極的ないじめ認知ができた」
ことを成果として挙げ、それが早期対応・指導・支援につながっていると説明
実際、児童生徒1000人当たりの認知件数は全国平均を大幅に上回る
2023年度では
| 豊橋市 | 全国 | |
|---|---|---|
| 小学校 | 276.3件 | 96.5件 |
| 中学校 | 62.0件 | 38.1件 |
となっている。
しかし、これをそのまま「豊橋はいじめが全国の約3倍」と表現するのは適切ではない。
認知件数は学校や教育委員会がどれだけ広くいじめを拾い上げているかにも左右されるためだ。
むしろ見るべきなのは
認知した後に適切に対応したか。
解消まで追跡したか。
重大事態を見落としていないか。
という部分になる。
市教委自身「解決に至らない事案がある」
そして市教委の資料には、重要な記述がある。
豊橋市は積極的な認知を成果とする一方、課題として、
「認知し、対応したものの、解決に至らない事案がある」ことを挙げている。
また、学校によるいじめ認知と、被害児童生徒、加害児童生徒、その保護者との間で認識にずれが生じる場合があることも明記した。
これは件数以上に重要だ。
仮に年間5000件以上を認知できていたとしても、その後の対応が不十分なら、制度が十分に機能しているとは言い切れない。
反対に、認知件数を減らすことだけを目標にすれば、本来拾うべき小さなSOSまで「いじめではない」と処理される危険もある。
教育行政で問うべき数字は、「何件あったか」だけではない。
何件を認知し、どう対応し、何件が解消し、何件が重大事態へ移行したのか。
そこまで追う必要がある。
そもそも「いじめ重大事態」とは何か
いじめ防止対策推進法では、通常のいじめ認知とは別に「重大事態」を定めている。
豊橋市の基本方針では、大きく2種類ある。
第1号「生命・心身・財産重大事態」
いじめによって、
- 生命
- 心身
- 財産
に重大な被害が生じた疑いがある場合。
市の基本方針では例として、自殺を企図した場合、精神性の疾患を発症した場合、重大な傷害、金品への重大な被害、いじめによる転学などを挙げている。
第2号「不登校重大事態」
いじめによって、相当な期間にわたり学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある場合だ。
目安は年間30日
ただし30日に達するまで待つ制度ではない。
豊橋市の基本方針にも、一定期間連続して欠席するなどの場合は、30日という目安にかかわらず、迅速に調査へ着手する必要があると明記されている。
保護者が「重大事態」と申し立てた場合はどうなる?
さらに重要なのがここだ。
豊橋市いじめ防止基本方針は、児童生徒や保護者から、
「いじめを受けて重大事態に至った」
との申し立てがあった場合について、市や学校側が当初、
「いじめの結果ではない」
あるいは、
「重大事態とは言えない」
と考えていたとしても、
重大事態が発生したものとして扱う必要がある
と明記している。
つまり、学校側だけの判断で入り口を閉じる制度ではない。
重大事態が発生した場合、学校は直ちに教育委員会へ報告し、教育委員会は市長へ報告。
その後、学校または教育委員会が調査主体となり、事実関係の調査を行う。
教育委員会が主体となる場合は、「豊橋市いじめ問題調査委員会」を招集する仕組みだ。
では豊橋市で「重大事態」は何件認定されたのか
これこそ、8月31日の市議会で鈴木みさ子市議が質問した核心だ。
通告書は、
2022年度から2025年度までのいじめ認知件数
と同時に、
「いじめ重大事態の認定状況」
を市に求めている。
しかし9月3日早朝時点では、今回の一般質問の正式会議録はまだ公開されておらず、豊橋市議会の鈴木市議の録画一覧にも9月定例会分は掲載されていない。
したがって週刊TAKAPIでは、現段階で、
「重大事態は○件だった」
とは断定しない。
特に、市ホームページに掲載されている「重大事態調査」のページや、第三者委員会の開催回数を、そのまま重大事態の認定件数と数えることもできない。
認定件数と、公表された調査報告書の件数と、第三者委員会が扱っている事案数は別の数字だからだ。
ここは正式答弁を確認してから追記する。
2026年度、第三者の「いじめ問題調査委員会」が4回開催
一方、現在進行中の動きは確認できる。
豊橋市は、いじめ重大事態の事実関係を明らかにするための附属機関として「豊橋市いじめ問題調査委員会」を設置している。
市の公表ページでは、2026年度に、
4月7日
4月24日
6月19日
7月24日
の計4回、同委員会が開催されている。
ただし、これも重大事態が4件あるという意味ではない。
一つの事案について複数回審議することもあり得るため、開催回数と事件数を混同してはいけない。
公開されている情報から確認できるのは、2026年度に重大事態の調査を担う第三者委員会が継続して開催されているという事実までだ。
3月議会には「重大事態の初動対応」を問う陳情も
今回、いじめ重大事態が突然議会テーマになったわけでもない。
2026年3月定例会では、
「いじめ重大事態(いじめ防止対策推進法第28条)に係る報告・記録・初動対応の運用点検に関する陳情」
が議会に提出され、受理されている。
陳情が提出されたこと自体は、市教委の対応に問題があったことを意味しない。
しかし、
3月には重大事態の報告・記録・初動対応を点検するよう求める陳情。
8月には市議会一般質問で4年間の認知件数と重大事態認定状況。
という流れを見ると、2026年の豊橋市議会でいじめ重大事態の制度運用そのものが検証対象になっていることは確かだ。
小学校の認知は減少、中学校では再び増加
2024年度の月例報告を見ると、学校種によって動きが異なる。
小学校は、
5,440件 → 4,322件
で、1,118件減少。
一方、中学校は、
638件 → 731件
で、93件増加した。
特に中学校では、
1年生 392件
2年生 236件
3年生 103件
となっており、市教委は複数の小学校から生徒が集まり、新たな人間関係をつくることに伴うトラブルなどを背景として挙げている。
また、中学校では本人からの訴えによる発見が46.6%と最も多い。
これは、子どもが直接SOSを出すことのできる環境づくりが重要であることも示している。
SNSいじめ「認知しきれていない事案も」
もう一つ、市教委自身が課題を認めているのがSNSだ。
小学校ではSNSによるいじめ認知が年々増加しているとし、低年齢化を指摘。
中学校ではSNS関連の認知は全体の10%未満だが、
「認知しきれていない事案もある」
としている。
学校の外。
個人のスマートフォン。
SNSのDM。
グループチャット。
消える投稿。
従来の教室内での見守りだけでは把握しにくいいじめが増える中、認知件数に表れていない被害をどう把握するかも教育行政の課題になる。
【独自分析】問うべきは「多いか少ないか」ではない
公開資料を横断すると、豊橋市のいじめ行政を見る上で、少なくとも5つの検証点がある。
第一に、認知件数の集計方法。
市の複数資料で数字が一致していない理由を明確にする必要がある。
第二に、重大事態の認定件数。
通常のいじめ認知から、何件が法第28条の重大事態として扱われたのか。
第三に、認定までの初動。
子どもや保護者から申し立てがあった際、市基本方針に沿って迅速に重大事態として扱われているのか。
第四に、認知後の解決。
市教委自身が「解決に至らない事案がある」としている。その件数や要因はどう分析されているのか。
第五に、情報公開。
子どものプライバシーを徹底的に守りながらも、市民が制度運用を検証できるだけの統計や調査状況をどこまで公開するのか。
この5点だ。
「認知ゼロ」が良い学校とは限らない
いじめ問題では、数字の読み方を間違えてはいけない。
認知件数が多い学校が悪いとは限らない。
むしろ小さなトラブルの段階からいじめとして認知し、支援につなげている可能性もある。
逆に認知件数が少なければ、それだけ安全だとも限らない。
子どもがSOSを出せていない。
学校が拾えていない。
SNS上の問題を把握できていない。
そうした可能性もある。
豊橋市自身が「積極的ないじめ認知」を成果として位置付けている以上、市政を評価する指標も単なる件数の増減では足りない。
重要なのは、
認知する。
記録する。
組織で対応する。
必要なら重大事態として扱う。
第三者調査につなげる。
被害児童生徒を継続して支援する。
再発防止まで検証する。
この一連の仕組みが実際に動いているかだ。
4年間の数字を市はどう説明したのか
鈴木みさ子市議が今回尋ねたのは、まさにそこへつながる基礎データだ。
2022年度
2023年度
2024年度
2025年度
4年間の認知件数
そして重大事態の認定状況
この答弁が公式録画・会議録で確認できれば、
年度別の重大事態件数
第1号・第2号の内訳
学校主体・教育委員会主体の調査件数
第三者委員会へ移行した件数
認定までに要した期間
まで掘り下げる余地がある。
特に、すでに公開資料で認知件数に異なる数字が存在する以上、議会で市側がどの数字を「令和4~7年度の認知件数」として答弁したのかにも注目する必要がある。
Q&A|豊橋市のいじめ重大事態
教育行政に必要なのは「数字を出して終わり」ではない
いじめの問題には、子ども一人ひとりの生活と人生がある。
だからこそ、単純なランキングや数字だけで学校を評価することは避けなければならない。
一方で、行政が制度を適切に運用しているかを検証するためには、数字が必要だ。
何件認知したのか。
何件が解決していないのか。
何件を重大事態として認定したのか。
どの時点で教育委員会、市長へ報告したのか。
第三者による調査を何件実施しているのか。
そして、再発防止策は実際に学校現場へ反映されたのか。
子どものプライバシーを守ることと、教育行政の透明性を高めることは両立させなければならない。
8月31日の一般質問で問われた「4年間の数字」は、その出発点になる。
週刊TAKAPIでは、豊橋市議会の公式録画・会議録が公開され次第、2025年度の認知件数と2022~2025年度の重大事態認定件数、市側が資料間の数字をどのように整理しているのかまで改めて検証する。
週刊TAKAPI 編集部/松本
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