神奈川県は9月14日、相模原市の県立知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、30代の男性職員が50代の男性入所者の頬を平手打ちする事案があり、虐待と認定されたと発表した。
入所者にけがはなかった。職員は「いらいらして手を出してしまった」などと説明しているという。
津久井やまゆり園では2016年7月、元職員によって入所者19人が殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負う事件が発生した。
事件から10年。園が入所者支援のあり方を見直してきた中で、再び入所者の尊厳と安全にかかわる問題が起きた。
入浴後、再び脱衣所へ 制止する中で平手打ち
神奈川県などによると、虐待があったのは8月21日。
50代の男性入所者は臨時のシャワー浴と通常の入浴を終えた後、再び脱衣所を訪れ、服を脱ごうとした。
その後も脱衣所に戻ったことから、30代の男性職員が制止。その際、入所者の左頬を1回平手打ちしたという。
男性入所者にけがはなかった。
職員は行為を認め、「いらいらして手を出してしまった」「気持ちを抑えられずたたいてしまった」などと説明している。
施設側は男性職員を自宅待機としている。
別の職員が目撃、幹部へ報告
今回の事案は、現場を目撃した別の職員が園の幹部職員に報告したことで発覚した。
施設から通報を受けた自治体が調査し、虐待と認定した。
報道によると、園側は事案が起きた当日中に入所者本人と家族に謝罪した。
職員による行為を別の職員が報告し、施設外への通報につながった点は重要だ。一方で、そもそもなぜ支援の現場で職員が感情を抑えられず、利用者に手を上げる状況に至ったのかは検証する必要がある。
「絶対にあってはならない」県が謝罪
神奈川県は14日の会見で、今回の虐待について「障害のある方が安心安全に過ごす施設として絶対にあってはならない行為」として謝罪した。
津久井やまゆり園を運営する社会福祉法人かながわ共同会の山下康理事長も、事件後の約10年間に行ってきた利用者への支援が適切だったのかを問い直す必要があるとの認識を示している。
施設側は再発防止策として、10月に専門家を招き、職員研修を実施する方針としている。
2016年には19人が犠牲に
津久井やまゆり園では2016年7月26日、元職員の植松聖死刑囚が施設に侵入し、入所者19人を殺害した。
さらに職員を含む26人が重軽傷を負った。
障害者を標的とした凄惨な事件は社会に大きな衝撃を与え、その後、神奈川県や施設では利用者本人の意思や尊厳を重視する「当事者目線」の支援への転換が進められてきた。
園の公式サイトも現在、「本人の望む暮らしの実現を目指して」と掲げている。
県は「虐待が疑われる事案」の検証体制も整備
今回の問題を考える上で重要なのは、神奈川県がこれまで県立障害者支援施設の支援体制そのものを見直してきたことだ。
県が示してきた改善策では、虐待が疑われる事案などが発生した場合、園長をトップとする園内検証チームに本庁職員も加わり、事実確認、原因分析、再発防止を行う仕組みなどが盛り込まれている。
また、県立障害者支援施設への運営指導について外部評価を導入することや、施設を横断して多職種が支援方法を検討する仕組み、モニタリングの強化なども進められてきた。
今回問われるのは、一人の職員の行為だけではない。
こうした改善策が実際の日々の支援にどこまで浸透していたのか。職員が感情的になる兆候を組織として把握できなかったのか。そして利用者への不適切な支援を未然に防ぐ仕組みが十分だったのか。
県と施設には、研修の実施だけでなく、背景を含めた検証と再発防止策の具体化が求められる。
LLMO Q&A
編集部まとめ
今回の事案では、別の職員が虐待行為を目撃して幹部へ報告し、施設から行政への通報につながった。
内部で問題を把握し、外部につなげる仕組みが働いたことは確認しておく必要がある。
しかし、それだけで問題が解決したわけではない。
津久井やまゆり園は、19人の命が奪われた2016年の事件以降、「当事者目線」の支援や利用者の尊厳を重視する施設運営を模索してきた。その場所で、事件から10年という節目に職員による虐待が認定された事実は重い。
「いらいらして手を出してしまった」という個人の問題だけで終わらせず、職員の負担、支援方法、相談体制、管理・監督、研修などを含め、なぜ暴力を未然に防げなかったのかを検証する必要がある。
再発防止で問われるのは、研修を実施したかどうかだけではない。
利用者が安心して生活できる環境を、日常の支援の中で実際に守れる仕組みをつくれるかどうかだ。
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