「行列に並ぶ時間」に、お金を払う時代が来ている。
テーマパークでは、追加料金を支払って人気アトラクションの待ち時間を短縮するサービスがすでに定着している。その仕組みが今、愛知県ではテーマパークの外にも広がっている。
名古屋名物・みそかつの「矢場とん」では、行列をスキップして優先的に入店するサービス「SuiSui」の導入実績がある。さらに2026年9月現在、名古屋駅エスカ店や栄LACHIC店、名古屋城 金シャチ横丁店などでは、1人600円の「優先案内予約」が確認できる。
名古屋グランパスでは、スタジアムグルメを通常より早く受け取れる「ファストパス」を1商品につきプラス200円で導入。レゴランド・ジャパンでは、アトラクションの待ち列を短縮できる「スキップ・パス」が販売されている。
売られているのは、料理やアトラクションだけではない。
「待たなくていい時間」そのものが、商品になり始めている。
名古屋の飲食店にも「行列を飛ばす」サービス 矢場とんが導入
飲食店での「時間課金」を考える上で、名古屋で象徴的なのが「矢場とん」だ。
飲食店向けファストパスを運営するSuiSuiは2025年9月、矢場とんへの導入事例を公表した。
同社によると、まず名古屋駅エスカ店で実証実験を行い、その後、名古屋駅名鉄店、栄LACHIC店、栄セントライズ店、金シャチ横丁店、イオンドーム前店など複数店舗に展開した。
SuiSuiは、利用料金を支払うことで通常の行列に並ばず、優先的に入店できる仕組み。曜日や時間帯、混雑状況によって利用料を変える「ダイナミックプライシング」にも対応する。
ここで客が買っているのは、みそかつではない。
「行列に並ばなくてもいい」という時間だ。
なお、SuiSuiは導入効果として「月間70万円以上の追加売上」「最大1時間以上の可処分時間創出」などを公表している。ただし、これらはサービス提供会社であるSuiSui側が公表した数値であり、第三者機関による検証値ではない点には注意が必要だ。
2026年9月現在は「1人600円」の優先案内を確認
では、現在はどうなっているのか。
週刊TAKAPI編集部が2026年9月23日時点の予約情報を確認したところ、複数の矢場とん店舗で「優先案内予約」1人600円が設定されている。
矢場とん 名古屋駅エスカ店では、2026年8月1日更新の予約情報で、1人600円の優先案内予約を確認できる。
ただし重要なのは、「600円を払えば予約時刻に必ず着席できる」という意味ではないことだ。
案内には「優先案内予約」と明記され、最大10分程度待つ場合があるとしている。
つまり正確には「席を600円で予約する」のではなく、通常の行列とは別に優先的な案内を受けるための料金と考えた方がいい。
栄LACHIC、金シャチ横丁でも600円
矢場とん 栄LACHIC店でも、2026年8月3日更新の予約情報で1人600円の優先案内予約が設定されている。
こちらも満席の場合は待つ場合があると明記されており、完全な「待ち時間ゼロ」を保証するものではない。
さらに名古屋城近くの矢場とん 名古屋城 金シャチ横丁店でも、2026年9月4日更新の情報で1人600円。
こちらは「お席の確保はされない優先案内のご予約」と明記され、最大10分程度待つ場合があるとしている。
このほか、名古屋駅三井ビル北館店でも同額の優先案内予約を確認できた。
4人で利用すれば、食事代とは別に2,400円。
この金額を「高い」と感じるか、それとも「行列の時間を短縮できるなら払う」と考えるか。
ここに「時間課金」というサービスの特徴が表れている。
新幹線まであと1時間――600円で時間を買うという選択
飲食店とファストパスは、実は相性がいい。
特に名古屋駅周辺では、新幹線や特急の発車時刻が決まっている観光客も多い。
「名古屋に来たから、みそかつを食べたい」
そう思って店に行っても、長い行列を見て諦める人はいるだろう。
SuiSui側も、矢場とんへの導入背景として、新幹線の発車時刻が迫る観光客や、小さな子ども連れ、高齢者などが行列に並べず、来店を断念する課題があったとしている。
ここでは600円の価値を、単純に「食事代に600円上乗せ」と考えるだけでは見えにくい。
例えば30分の行列を大幅に短縮できれば、その30分で土産を買ったり、別の場所を観光したりできる。
つまり利用者が買っているのは、店内の席ではなく、その後に使える時間とも言える。
名古屋グランパスは「+200円」で料理を早く受け取る
時間課金は飲食店への入店だけではない。
名古屋グランパスは2026年9月6日のホームゲームで、スタジアムグルメの対象店舗に「ファストパス」を設定した。
価格は1商品につきプラス200円。
公式サイトによると、ファストパスレーンの利用者には通常レーンより早く商品を提供する。
対象店舗には「諭吉のからあげ」「ふじのみ家」「KEBAB TIME」「K’s Pit」などが含まれ、利用時間はキックオフ4時間前からキックオフまでだった。
飲食店の「優先入店」とは少し違う。
こちらで販売されているのは、
「料理を早く受け取る権利」だ。
サッカーはキックオフ時間が決まっている。
長い行列に並んでいる間に試合が始まることを避けたい人にとって、200円という追加料金には別の価値が生まれる。
レゴランドは3回4500円~ 1日利用なら1万800円~
テーマパークでは、さらに明確に「時間」が商品化されている。
名古屋市港区のレゴランド・ジャパン・リゾートでは、2026年9月現在、2種類の「スキップ・パス」を公式に販売している。
「スキップ・パス スリーパック」は対象ライド3回分で、WEB事前購入4,500円~、当日購入5,000円~。
「スキップ・パス アンリミテッド」は対象ライドを1日利用でき、WEB事前購入1万800円~、当日購入1万2,000円~。数量限定となっている。
公式サイトでも「待ち列をスキップして、アトラクションにスピーディに乗れる」と説明している。
こちらはまさに「時間短縮」を前面に出した商品だ。
