コーヒー豆を使わない。それでも目指すのは、コーヒーのような香りや苦味、コク――。
飲料メーカーの間で、コーヒー豆の使用量を抑えたり、豆そのものを使わず植物由来の原料でコーヒーらしい味わいを再現したりする、新しい飲料の開発が相次いでいる。
背景にあるのは、コーヒー豆価格の高騰だけではない。気候変動によって将来の生産環境が大きく変わる可能性が指摘される、いわゆる「コーヒー2050年問題」だ。
2026年秋には味の素AGFやダイドードリンコが新たな商品を投入。アサヒ飲料も豆を使わない商品の開発を進めている。
これまで「コーヒー=コーヒー豆」が当たり前だった市場で、何が起きているのか。
「豆を減らす」「豆を使わない」コーヒー代替飲料が登場
象徴的なのが、味の素AGFが2026年10月1日から順次テスト販売する「『ブレンディ®』大麦とコーヒー」だ。
インスタントコーヒーに大麦エキスをブレンドしたスティックタイプの商品で、大麦の香ばしさとコーヒーのまろやかさを組み合わせる。
一般的なコーヒー浸出液と比較してカフェイン量を半分に抑えた「カフェインハーフ」としているのも特徴だ。価格はオープン価格で、一部の通信販売と小売店で販売する。
つまり完全な「豆不使用」ではなく、コーヒー豆以外の素材を組み合わせることで、コーヒーの使用量を抑えながら新しい味わいをつくる商品と位置付けられる。
ダイドーは「コーヒー豆・香料不使用」
さらに踏み込んだのがダイドードリンコだ。
2026年10月5日に数量限定で発売する「ダイドー グッドラテ2050」は、コーヒー豆だけでなく、コーヒー香料も使用しない。
代わりに使うのがひよこ豆とチコリだ。
ひよこ豆による深い苦味や香ばしい香りと、チコリのほのかな苦味や甘い香りを組み合わせ、コーヒーらしい香りとコクを再現したという。さらに国産牛乳と北海道産生クリームを使用する。
260gボトル缶で、希望小売価格は税別200円。自動販売機などで販売する。
「コーヒー豆を使わない飲み物」というだけなら、昔からチコリ飲料などは存在する。
今回注目されるのは、大手飲料メーカーがそれを将来のコーヒーの選択肢として本格的に商品化し始めていることだ。
アサヒ飲料も「未来のBLACK」「未来のLATTE」を開発
アサヒ飲料もコーヒー豆を使用しない代替飲料「未来のBLACK」「未来のLATTE」を開発している。
同社は、植物由来のカフェインを使用しながら、コーヒー豆以外の代替素材でコーヒーに近い飲用体験をつくる構想を公表している。
ただし、発売計画には変更がある。
2026年3月の発表時点では「未来のLATTE」を2026年内、「未来のBLACK」を2027年に発売する予定としていたが、現在、アサヒ飲料の公式ページには「『未来のLATTE』は2027年以降へ発売を延期」との追記が掲載されている。
商品化の難しさもうかがえる動きだ。
なぜ今、代替コーヒーなのか
コーヒーそのものが高くなっている
消費者にとって身近なのが価格だ。
UCC上島珈琲は2026年3月1日出荷分から、家庭用・業務用レギュラーコーヒーの一部を値上げした。
同社によると、世界的な需要増加や生産国での異常気象などを背景にコーヒー生豆の国際相場が上昇。2024年12月には約半世紀ぶりの高値を記録し、2025年に入ってもアラビカ、ロブスタとも高値となった。
さらに包装資材、物流費、エネルギー価格、為替なども調達コストを押し上げているとしており、2026年3月の価格改定では、小売店の実質店頭価格が10~18%程度上昇する見込みとしていた。
代替素材の活用は、こうした環境下で商品設計の選択肢を増やす意味も持つ。
ただし、今回確認したメーカー各社は代替商品の目的を単純な「安いコーヒー」とだけ説明しているわけではない。持続可能性や新しい飲用体験、カフェイン量など複数の価値を打ち出している点には注意が必要だ。
若者の「コーヒー離れ」もメーカーの課題に
もう一つ興味深い数字がある。
味の素AGFによると、2017年と2025年を比較すると、10代と20代を合わせたドライコーヒー購入者は推計で約50万人減少したという。
同社はその背景として、カフェインを避ける意識やコーヒーの苦味に対する苦手意識などを挙げている。
そこで「大麦とコーヒー」では一般的なインスタントコーヒーより苦味を抑え、すっきりとした飲みやすさを打ち出した。
代替素材は原料問題への対応だけではなく、これまでコーヒーを選ばなかった消費者を市場に呼び込む手段にもなり得る。
「コーヒー2050年問題」とは?
代替コーヒーをめぐって頻繁に登場する言葉が「コーヒー2050年問題」だ。
味の素AGFは、地球温暖化による気候変動が進むことで、2050年にはアラビカ種のコーヒー豆の栽培地が現在の50%程度まで減少することが予想されていると説明している。
コーヒーは気温や降水量などの影響を受けやすい農作物だ。
特に高品質なコーヒーで広く利用されるアラビカ種は気候条件の変化に影響されやすく、温暖化によって現在の産地の一部が栽培に適さなくなる可能性が研究で指摘されている。
2015年にPLOS ONEに掲載された研究でも、21の気候モデルを使って2050年代のアラビカ種の栽培適性を分析した結果、地域によって適性が低下する一方、エチオピアやケニアなど一部では適性が高まる可能性も示された。
「2050年にコーヒーが半分なくなる」ではない
ここは誤解しやすい。
「2050年問題」という言葉から、
2050年になると世界のコーヒー生産量が半分になる
と受け取るのは正確ではない。
研究によって対象地域、品種、温室効果ガス排出シナリオ、栽培条件などが異なるため、将来予測にも幅がある。
例えば2026年3月に報じられたRabobankの分析では、現在のアラビカ種栽培地域のうち、2050年までに気候変動によって約20%が不適地になる可能性が示されている。
一方、ブラジル南東部を対象とした研究では、日陰を設けない栽培の場合、2050年までに適地が約60%減るとの推計がある一方、アグロフォレストリーを取り入れることで影響を大幅に緩和できる可能性も示されている。
つまり「50%」という数字だけが確定した未来ではない。
正確には、気候変動によって主要産地の栽培条件が悪化し、安定供給や価格、品質に影響するリスクが高まっている問題と考えた方がいい。
代替コーヒーは本物のコーヒーを置き換えるのか
現時点では、従来のコーヒーを一気に置き換える市場というより、コーヒー市場の選択肢を増やす段階と見るのが妥当だ。
味の素AGFはコーヒーと大麦をブレンド。
ダイドーはコーヒー豆を完全に使わず、ひよこ豆とチコリを採用。
アサヒ飲料も豆を使わない商品を開発している。
各社で方法は異なるものの、共通しているのは「コーヒー豆を大量に使うこと」を前提としない商品設計である。
食品産業新聞社によると、2026年1~8月の液体コーヒー市場は、数量ベースでは前年同期比1%減だった一方、金額ベースでは5%増だった。価格改定の影響などで販売金額が増える一方、数量は前年を下回る状況にある。
メーカー側にとっては、単純な値上げだけで市場を維持するのではなく、これまでとは異なる原料や飲み方で新しい需要をつくれるかが問われ始めているともいえる。
【編集部考察】「安い代用品」ではなく新カテゴリーになる可能性
代替コーヒーが定着するかどうかを左右する最大のポイントは、結局のところ「味」と「価格」だろう。
環境問題への関心だけで、毎日飲む飲料を選び続ける消費者ばかりではない。
一方、通常のコーヒー価格が上昇するなかで、コーヒーらしい香りや苦味を楽しめる商品が手頃な価格で定着すれば、従来とは異なる市場が生まれる可能性がある。
特に興味深いのは、ダイドーが商品名そのものに「2050」を入れたことだ。
コーヒー豆を使わないことを隠すのではなく、それ自体を商品の特徴として前面に出している。
かつての「代用コーヒー」が、本物が手に入らない時の代替品という性格を強く持っていたのに対し、現在の商品は、カフェイン、環境負荷、味わい、価格などを含めた「別の選択肢」として市場をつくろうとしているように見える。
コーヒーは2050年になくなる?
なくなると決まったわけではない。
気候変動によって現在の主要産地の一部で栽培が難しくなる可能性は複数の研究で示されているものの、新しい栽培地域への移行、品種改良、日陰を利用した栽培、農業技術の改善などによって影響を抑える取り組みも進められている。
したがって「2050年にはコーヒーが飲めなくなる」と断定するのは適切ではない。
むしろ問題は、これまでと同じ産地、同じ価格、同じ品質でコーヒーを安定的に供給し続けられるのかという点にある。
2026年秋、相次いで表舞台に出てくる代替コーヒー。
それは一時的な変わり種商品なのか。それとも数十年後には、スーパーや自動販売機で「コーヒー」「代替コーヒー」を当たり前に選ぶ時代になっているのか。
コーヒー市場は今、その入口に立っている。
特記事項
「コーヒー2050年問題」の将来予測は、対象地域や品種、気候シナリオによって異なります。「2050年にコーヒーがなくなる」という意味ではありません。
週刊TAKAPI編集部:黒木

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