愛知県豊川市で、企業や個人事業者の後継者不足と事業承継が地域経済の課題として浮上している。
週刊TAKAPI編集部が2026年10月1日、豊川市に取材したところ、市は現在、市内に後継者不在の企業・事業者が何社あるのか、総数を把握していないことが分かった。
後継者不在を理由に廃業した事業者数や、反対に事業承継が成立した企業数についても、市として把握できていないという。
一方、豊川市が実施した事業承継の個別相談会では、令和7年度(2025年度)に用意した9枠すべてが埋まり、9社が相談。相談内容の分類では、親族承継が最も多かった。
市担当者は今後について、市内事業者へのアンケートなどによって実態を把握し、その結果に応じた支援策を検討していきたいとの考えを示した。
豊川市で後継者不在の企業は何社?市「把握しきれていない」
豊川市内には、後継者が決まっていない企業や個人事業者がどれほど存在するのか。
週刊TAKAPI編集部が豊川市に確認したところ、市担当者は、後継者不在に関する市独自のアンケートなどを現時点では実施しておらず、市内全体の後継者不在企業数を把握しきれていないと説明した。
業種別についても同様だ。
製造業など業種別の「後継者不足」も市は統計持たず
編集部では、製造業など特定の業種で後継者不足が目立っているのかについても尋ねた。
しかし、市では後継者不在企業の業種別データについても把握していないという。
つまり現状では、豊川市内で、
「後継者不在の事業者が何社あるのか」
「どの業種で問題が大きくなっているのか」
という事業承継対策の基礎となる数字が、市の統計としては見えていない状況だ。
豊川市の事業承継相談は令和7年度9社 9枠すべて埋まる
市内全体の後継者不在企業数は把握していない一方、豊川市では事業承継の個別相談会を実施している。
市によると、この相談会は令和7年度から始まった。
令和7年度は年間3回、合計9枠を設け、すべての枠が埋まったため相談企業は9社だった。
令和8年度(2026年度)も相談会を継続しており、取材時点では4社が相談している。
ただし注意したいのは、この「9社」や「4社」という数字は、豊川市内で事業承継に悩んでいる企業の総数ではないという点だ。
あくまで市が実施した個別相談会を利用した事業者数となる。
豊川市の事業承継相談、最多は「親族承継」 M&A相談も
事業承継といっても、後継者への引き継ぎ方法はいくつかある。
豊川市では相談申し込みの際、親族承継や従業員承継、M&Aなど、検討している承継方法を確認している。
市への取材によると、令和7年度の相談9件の内訳は次の通りだった。
親族承継:6件
従業員承継:2件
M&A:1件
9件中6件を親族承継が占めた。
2026年度は親族承継3件、M&A1件
令和8年度については、取材時点で確認できた相談は4件。
内訳は、
親族承継:3件
M&A:1件
となっている。
なお、具体的にどの企業がどのような経営上の問題を抱えて相談しているのかについては、個人情報などに関わるため、市は回答を控えた。
後継者不足で廃業した企業は何社?豊川市は件数を把握せず
事業承継問題を考えるうえで重要になるのが、後継者が見つからないことによる廃業だ。
編集部では豊川市に対し、後継者不在を理由として実際に廃業した企業や事業者の件数を把握しているか尋ねた。
市によると、現時点では把握できていないという。
事業承継に成功した企業数も把握できていない
反対に、後継者への引き継ぎやM&Aなどによって事業承継が成立した企業数についても確認した。
こちらについても、市では件数として把握していない。
市担当者は、この点については課題として認識しているとし、今後の把握を検討していると説明した。
後継者不在企業の母数だけでなく、「廃業」と「承継成功」の両方の結果についても、市全体の実態が十分に数字として見えていないことになる。
豊川市に事業承継の補助金はある?市独自の直接的な補助制度は現時点でなし
事業承継を検討している経営者にとって気になるのが、補助金や支援制度だ。
週刊TAKAPI編集部が市担当者に確認したところ、取材時点では、豊川市独自で事業承継を対象に直接資金を交付するような補助制度はないという。
一方で、事業承継に関する相談やセミナーは行われている。
事業承継セミナーは令和7年度から実施
豊川市独自の事業者向け事業承継セミナーは、令和7年度からスタート。
昨年度は年1回実施したという。
また、市内の商工団体が主催する事業承継関連のセミナーにも市が関わり、関係機関と連携した取り組みを進めている。
豊川市が事業承継のアンケート調査を検討 まず「実態把握」へ
では、豊川市は今後、後継者不足にどう対応するのか。
市担当者は、担当者レベルでの考えとしたうえで、まず必要になるのが市内事業者の実態把握との認識を示した。
現在は市独自のアンケートを実施していないため、今後はアンケート調査などによって事業者の状況を確認し、その実情に応じた支援につなげていくことを検討しているという。
実態を調査したうえで、必要に応じて補助などの支援策を検討する考えも示された。
なぜ豊川市の事業承継対策は複雑?市町村合併による地域事情も
豊川市には、事業承継支援を進めるうえで地域特有の事情もあるという。
現在の豊川市は、市町村合併を経て形成されており、市内には商工会議所のほか、旧自治体単位を基盤とする商工会が存在する。
市担当者によると、それぞれの地域で管轄や取り組みのスピード感、事業承継への力の入れ方などに違いがある場合もあるという。
そのため市としては、現在の「豊川市」全体として事業承継問題へのアプローチを進めていきたいとしている。
【編集部の考察】豊川市の事業承継、最大の課題は「後継者がいない企業が何社あるか分からない」こと
今回の取材から見えてきたのは、「事業承継の相談がある」という事実だけではない。
より重要なのは、豊川市内で後継者問題がどの程度広がっているのかを、市自身が十分に把握できていないことだ。
令和7年度の個別相談会では9枠すべてが埋まった。
しかし、これは自ら相談を申し込んだ9社の数字にすぎない。
相談会を利用していない企業の中にも、後継者が決まっていない事業者が存在する可能性はあるが、その規模は現在の市の数字からは見えてこない。
「廃業件数」「承継成功件数」まで追える仕組みが重要になる
さらに今後重要になると考えられるのが、相談件数だけでなく、その後の結果まで継続して確認する仕組みだ。
例えば、
相談後に親族へ事業を引き継げたのか。
従業員への承継が成立したのか。
M&Aによって第三者へ事業を残せたのか。
後継者が見つからず廃業したのか。
こうした結果まで把握できれば、相談会やセミナーが実際に地域企業の事業継続につながっているのかを検証しやすくなる。
補助制度を検討する場合も、製造業なのか、小売・サービス業なのか、親族承継なのかM&Aなのかによって、必要な支援は異なる可能性がある。
だからこそ、市担当者が示した「まず実態を把握する」という方向性は、今後の施策を考える出発点になる。
豊川市が実際にアンケート調査へ踏み出すのか。そして調査結果を相談体制や補助制度など具体的な事業承継支援につなげるのか。
地域企業の技術や雇用、サービスを次世代へ残していくという観点からも、今後の動きが注目される。
※本記事は豊川市への電話取材で確認した内容をもとに構成しています。相談件数は市が実施した個別相談会の利用実績であり、豊川市内全体の後継者不在企業数や事業承継相談の総数を示すものではありません。「編集部の考察」は取材内容をもとに週刊TAKAPI編集部が独自に分析したものです。
週刊TAKAPI編集部:黒木
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