愛知県蒲郡市の企業・事業者を対象とした調査で、事業承継の意向について「未定・わからない」が55.9%、「事業承継がしたいが後継者がいない」が12.3%に上ることが分かった。
両者を合わせると68.2%となり、市内事業者の事業承継をめぐる不透明な状況が浮かび上がる。
一方、週刊TAKAPIが蒲郡市産業政策課に独自取材したところ、市は事業承継の成立件数や、後継者不在を理由とした廃業件数、黒字廃業の実態について、網羅的な把握ができていないことが明らかになった。
市は関係機関と連携した相談体制を整備しているものの、実際にどれだけの事業者が承継に成功し、廃業を回避できたのかという成果の把握には課題が残る。
※68.2%は上記2項目の合計であり、すべての事業者について後継者が存在しないことを意味するものではない。
蒲郡市の事業承継問題|68.2%が承継方針未定・後継者不在
蒲郡市産業政策課によると、市内事業者の事業承継に関する最新の調査資料は「令和6年度蒲郡市内企業等に対するアンケート調査報告書」。
同調査では、事業承継の意向について次の結果が示されている。
事業承継に関するアンケート結果
「未定・わからない」:55.9%
「事業承継がしたいが後継者がいない」:12.3%
合計:68.2%
市は取材に対し、これらの結果から「6割以上後継者が未定の状態」と説明した。
ただし、「未定・わからない」には、事業承継の方針を決めていない事業者なども含まれる可能性がある。
そのため、68.2%という数字を、そのまま後継者不在率と捉えることは適切ではない。
それでも、事業承継を希望しながら後継者がいないと回答した事業者が12.3%存在することは、地域経済にとって見過ごせない問題といえる。
なお、今回の回答ではアンケートの対象事業者数や有効回答数などは示されておらず、割合を市内全事業者の実数に換算することはできない。
事業承継の相談件数は3年間で増加|2026年度は現時点で4件
蒲郡市では、愛知県事業承継・引継ぎ支援センターを相談機関として、毎月第2火曜日に「事業承継個別相談会」を開催している。
週刊TAKAPIは、2023年度から2026年度までの相談実績について市に確認した。
市が回答した件数は次のとおり。
蒲郡市の事業承継個別相談会の実績
- 2023年:13件
- 2024年:14件
- 2025年:15件
- 2026年度:4件(取材回答時点)
2023年の13件から2025年の15件へと、相談件数は増加している。
ただし、2026年度の4件は年度途中の数字であり、過去の年間実績と単純に比較することはできない。
また、これらは市が回答した個別相談会の件数であり、市内事業者が金融機関や商工団体などに直接相談した件数をすべて含むものではない。
後継者問題を抱える事業者の割合に対して、行政が把握している相談件数がどの程度の規模なのか。
この点を検証するには、アンケートの対象数や、関係機関全体での相談実績などを確認する必要がある。
※市への質問は年度別実績を求めたものだが、回答では2023~2025年が「年」、2026年が「年度」と表記されている。2023~2025年の集計期間については追加確認が必要である。
事業承継は何件成立した?蒲郡市「網羅的な実績を把握していない」
今回の取材で明らかになったのが、事業承継の成果を示す実績の把握状況だ。
週刊TAKAPIは、市や関係機関の支援によって実際に事業承継が成立した件数について質問した。
親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)などの内訳についても確認を求めた。
これに対し、蒲郡市産業政策課は次のように回答した。
「市や関係機関の支援によって事業承継が成立した件数については、市として網羅的な実績を把握していません」
つまり、市が把握している相談件数だけでは、実際に何件の事業承継が成立したのかを確認できない状況にある。
もっとも、市が網羅的に把握していないことは、事業承継の成立実績が存在しないことを意味しない。
金融機関や支援機関などを通じて承継が成立している可能性もあるが、今回の回答では、その全体像を確認できなかった。
相談件数だけでは支援の成果を判断できない
事業承継の支援では、相談を受け付けることに加え、後継者の選定や経営権の移転など、実際の承継につながったかどうかも重要になる。
相談件数が増えていても、それだけで支援が成功しているとは判断できない。
一方、事業承継は長期間を要する場合もあるため、単年度の成立件数だけで支援の効果を評価することにも限界がある。
相談後の進捗や、関係機関への引き継ぎ状況なども含めた継続的な把握が求められる。
後継者不在による廃業件数も把握せず|黒字廃業の実態は不明
後継者が見つからないことで、事業を続けられなくなる企業はどれほど存在するのか。
週刊TAKAPIは、蒲郡市内で後継者不在を理由に廃業した事業者の件数や具体的な事例について質問した。
市の回答は、「市では把握しておりません」というものだった。
さらに、経営状態に大きな問題がないにもかかわらず、後継者不在によって廃業を選択する、いわゆる「黒字廃業」についても確認した。
この質問に対しても、市は把握していないと回答した。
廃業の理由が分からなければ対策の検証も難しい
事業者の廃業には、売上不振、経営者の高齢化、人手不足、後継者不在など、さまざまな理由が考えられる。
そのため、廃業件数の総数だけでなく、どのような理由で事業を終了したのかを把握することが重要になる。
後継者がいれば継続できた可能性のある事業と、経営環境の悪化によって廃業を選んだ事業では、必要な支援も異なる。
今回の取材では、蒲郡市が後継者不在による廃業件数や黒字廃業の実態を把握していないことが確認された。
これは、実際に廃業がどれだけ発生しているのか、また事業承継支援によってどの程度防ぐことができるのかを検証するうえでの課題といえる。
「がまごおり事業承継ネットワーク かけはし」とは?市の支援体制を取材
蒲郡市では、事業承継に関する支援体制として、「がまごおり事業承継ネットワーク かけはし」を運営している。
市によると、このネットワークは事業承継に関する相談対応や情報発信、関係機関同士の連携強化を目的としたもの。
具体的には、セミナーや支援機関向け講習会、相談窓口の周知などに取り組んでいる。
また、関係機関が連携して事業者を支援できる体制づくりも進めているという。
ネットワークの相談件数・成立件数は?
週刊TAKAPIは、ネットワーク設立以降の相談件数、支援件数、事業承継の成立件数についても質問した。
しかし、市の回答では、ネットワーク単独の具体的な実績数値は示されなかった。
そのため、今回の取材だけでは、ネットワークを通じて何件の相談があり、どれだけの事業承継につながったのかを確認できない。
蒲郡市が認識する課題は「早期相談」
市は、ネットワークの課題について、経営者が早い段階から相談することが重要だと説明した。
一方で、事業承継の問題が顕在化するまで、相談につながらないケースも想定されるという。
今後は事業者への啓発活動を強化し、早期相談を促すとともに、具体的な支援につなげることが課題だとしている。
蒲郡市で後継者不足が深刻な業種は?観光・宿泊・製造業などの実態
蒲郡市には、観光業や宿泊業、飲食業、製造業、小売業など、多様な産業が存在する。
では、どの業種で後継者不足が深刻になっているのか。
週刊TAKAPIが質問したところ、市は業種別の後継者不在率や事業承継の課題について、網羅的に比較した統計を把握していないと回答した。
そのため、特定の業種で問題が顕在化していると断定することは難しいとしている。
市は今後、ヒアリング調査や関係機関との情報共有を通じて、業種ごとの実態を把握していく必要があるとの認識を示した。
観光・宿泊業や製造業など、地域の産業を支える事業者の承継状況を把握することは、今後の産業政策を検討するうえでも重要な課題となりそうだ。
親族以外への事業承継も選択肢に|M&A相談は増加傾向
後継者不足への対応策として注目されるのが、親族以外の第三者に事業を引き継ぐ方法だ。
事業承継には、親族内承継のほか、従業員への承継や、第三者へのM&Aなどがある。
週刊TAKAPIは、蒲郡市内で第三者承継やM&Aに関する相談が増えているのかを質問した。
これに対し、市は「個別相談会の相談内容として、M&Aの相談件数は増加傾向にあります」と回答した。
ただし、M&Aに関する年度別の具体的な相談件数は示されていない。
また、相談が増えていることと、実際にM&Aが成立していることは別の問題である。
今回の取材では、M&Aを通じて事業承継が成立した件数についても確認できなかった。
事業承継の成功事例も市は把握せず
週刊TAKAPIは、行政や関係機関の支援によって事業承継が実現し、廃業を回避できた事例についても質問した。
公表可能な事業者名や具体的な取り組みがあれば紹介してほしいと求めたが、市の回答は「市では把握しておりません」だった。
この回答から、少なくとも今回の取材では、市が紹介できる具体的な成功事例を確認できなかった。
事業承継の成功事例は、同じ課題を抱える経営者にとって参考となる情報だ。
どのような準備を進め、どの支援機関を利用し、どのような課題を解決したのか。
こうした事例を把握・共有することも、早期相談を促す方法の一つと考えられる。
蒲郡市の今後の事業承継支援|5~10年先を見据えた課題
週刊TAKAPIは、今後5年から10年を見据えた事業承継の課題と、新たな支援策についても確認した。
市が重要と位置付けたのは、次の3点だ。
① 事業承継に関する早期相談・準備の促進
② 後継者不在事業者の実態把握
③ 関係機関との連携強化
今後も「がまごおり事業承継ネットワーク かけはし」を中心に、関係機関と連携しながら、事業者への情報発信や相談支援に取り組む予定だという。
ただし、今回の回答では、新たな補助制度の創設や具体的な数値目標、実施時期などは示されなかった。
【週刊TAKAPIの検証】後継者問題の実態と支援成果をどう把握するのか
今回の独自取材から浮かび上がったのは、事業承継に関する相談体制が整備される一方で、地域全体の実態や支援成果を把握する仕組みに課題があるという点だ。
市が示した調査結果では、事業承継の意向が「未定・わからない」とする事業者が55.9%、承継を希望しながら後継者がいない事業者が12.3%に上った。
しかし、実際に何件の事業承継が成立したのか、後継者不在を理由に何件が廃業したのか、市は網羅的に把握していない。
市内のどの業種で問題が深刻なのかについても、比較できる統計はないという。
もちろん、事業承継は民間事業者の経営判断に関わる問題であり、すべての実態を行政だけで把握することは容易ではない。
また、金融機関や商工団体など、行政以外の機関が支援しているケースも考えられる。
それでも、事業承継を地域経済の重要課題として位置付けるのであれば、相談件数だけでなく、承継の成立状況や廃業の実態をどのように把握していくのかが問われる。
特に、後継者が見つからないまま廃業に至る事業者の実態を把握できなければ、支援が必要な事業者に十分に届いているかを検証することも難しい。
市自身も今後の課題として「後継者不在事業者の実態把握」を挙げている。
相談窓口を設けることから、支援の成果を把握し、必要な事業者へ早期に支援を届けることへ。
蒲郡市の事業承継政策は、今後その実効性が問われることになる。
相談の申し込み方法や最新の日程については、蒲郡市産業政策課などの公式案内を確認してほしい。
親族内での承継だけでなく、従業員への承継や第三者への引き継ぎなど、選択肢を整理することが重要だ。
M&Aは企業の合併・買収を意味し、第三者に事業を引き継ぐ手段の一つとなる。
事業承継にはM&A以外にも、親族内承継や従業員承継などの方法がある。
経営者の意思確認、後継者の育成、株式や資産の整理など、複数の手続きが必要になる場合もある。
そのため、引退直前ではなく、早い段階から準備を進めることが望ましい。
※本記事は、蒲郡市産業政策課から週刊TAKAPIに寄せられた回答をもとに構成しています。アンケートの数値や相談件数は市の回答に基づくものです。行政が「把握していない」と回答した事項については、実績が存在しないことを意味するものではありません。
週刊TAKAPI 編集部/黒木
独立メディアだからこそできる、忖度しない報道を。

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