【愛知・東三河】ドクターヘリ2機とも対応できなかった3件、うち2件が同じ日に発生 田原では静岡県機が救急搬送

静岡県西部ドクターヘリの実機写真と、愛知県の2機が対応できなかった田原市・新城市の救急搬送問題を伝える週刊TAKAPIの報道画像

愛知県がドクターヘリを2機体制に増強してから27日後の2024年2月28日、田原市で71歳の女性が建物の2階から転落した。消防はドクターヘリの出動を求めたが、県内の2機はいずれも対応できなかった。

1機は別の救急事案に対応中で、もう1機は機体に不具合が生じていた。最終的に出動したのは静岡県西部のドクターヘリで、女性は豊橋市民病院へ搬送された。

同じ日、新城市でも県内2機が対応できない事案が起きていた。

愛知県が公表した運航検証資料によると、2機体制の開始後1年間に、最初に愛知医科大学病院へ要請し、藤田医科大学病院も対応できなかった事案は3件。このうち2件が東三河で発生し、日付も一致していた。

2機体制への移行によって出動実績は増え、出動要請に応じられない事案も減少した。それでも、機体を増やせば全ての要請に対応できるわけではない。

週刊TAKAPIは、愛知県が公表した運航検証資料と医療審議会の会議録を照合し、東三河で起きた2件の経緯と、県内の救急医療体制が抱える課題を検証した。

田原の転落事故 県内2機は出動できず、静岡県機が対応

愛知県の「第3回ドクターヘリ2機運航に係る検証会資料」には、2024年2月28日に田原市消防本部が行った出動要請の詳細が記録されている。

対象となった71歳の女性は、建物の2階から転落。会話は可能だったものの、鼻からの出血があり、右膝と大腿部の痛みを訴えていた。

通常、東三河の現場救急を担当するのは、長久手市の愛知医科大学病院を基地とするドクターヘリだ。しかし、このときは別の事案に対応しており、出動できなかった。

もう1機の藤田医科大学病院のドクターヘリも、機体不具合によって対応できない状態だった。

このため、静岡県西部ドクターヘリが応援に入り、女性を豊橋市民病院へ搬送した。

県の記録には、女性の搬送後の容体や治療経過、出動要請から医師が接触するまでの時間は記載されていない。静岡県機の出動によって治療開始がどの程度早まったのかも、公表資料だけでは判断できない。

ただ、県内2機がともに対応できない状況で、県境を越えた応援が実際に行われたことは確認できる。

同じ日に新城でも要請 88歳女性を陸路で搬送

田原市の事案と同じ2月28日、新城市消防本部からもドクターヘリの出動要請があった。

県の資料によると、工場で発生した爆発により、88歳の女性が右顔面にやけどを負った。要請時、女性には意識がなく、呼吸は確認されていた。消防の救急隊が現場に到着する前の要請だったという。

このときも愛知医科大学病院のヘリは別件対応中で、藤田医科大学病院のヘリは機体不具合により出動できなかった。

静岡県西部ドクターヘリへの応援要請を協議している間にヘリの要請はキャンセルとなり、女性は陸路で搬送された。

同日の田原市と新城市の事案で、県内2機が対応できなかった理由は共通している。ただし、両消防本部からの要請が同時刻だったかどうかは、資料から確認できない。

さらに同年3月7日には、豊田市でも県内2機がともに別件対応中で出動できない事案があった。こちらは81歳の男性が階段から転落し、首の痛みを訴えた事案で、県の記録では軽症と判断され、ヘリの要請をキャンセルして救急隊が対応した。

つまり、県の検証資料に個別記録が残る3件のうち、2件は東三河で発生していたことになる。

2機体制で県全体の出動集計は577件 東三河でも29件増加

愛知県では2002年1月から愛知医科大学病院を基地病院としてドクターヘリを運航してきた。2024年2月1日には藤田医科大学病院で2機目の運航が始まり、県内全域を2機で分担する体制となった。

県の検証資料によれば、2024年2月から2025年1月までの1年間の出動集計は、愛知医科大学病院が373件、藤田医科大学病院が204件の計577件。前年同期間の410件から約1.4倍に増加した。

ただし、577件にはキャンセル126件が含まれる。県の資料でいう出動件数は、全てが患者への診療や実際の離陸に至った回数を意味するものではない。

東三河についても増加が確認できる。県の現場救急の地域別集計では、愛知医科大学病院が104件、藤田医科大学病院が15件を占め、合計119件だった。

前年同期間は90件で、29件の増加となる。

藤田医科大学病院は通常、名古屋、海部、知多地域を担当するが、東三河でも15件の出動実績があった。もう1機による補完が、数字の上でも確認されたことになる。

一方、出動件数が増えたことだけで、救命率が改善したとは判断できない。実際の効果を評価するには、患者への接触時間や重症度、搬送先での治療経過なども検討する必要がある。

「不応需126件から5件」 県の説明に医師が疑問

2機体制の効果をめぐっては、数字の取り扱いも議論になっていた。

2025年10月8日に開かれた愛知県医療審議会の5事業等推進部会で、県側は、1機体制だった前年の不応需126件に対して、2機体制では5件に減少したと説明した。

しかし、愛知医科大学の笠井委員が比較方法について確認すると、両者の集計条件がそろっていないことが明らかになった。

県側は、天候不良や運航時間外なども含めた対応困難な事案として比較すれば、前年の126件に対し、2機体制では103件になると説明した。

一方、機体不具合と別件対応に絞った場合には、前年の36件から3件へ減少していた。

いずれの比較でも、2機体制によって対応できない事案が減ったという評価は変わらない。県側も、運航体制を増強した効果があったとの認識を示している。

問題は、その成果をどの数字で説明するかだ。

126件と5件を単純に並べれば、ほとんどの要請に対応できるようになった印象を与える。しかし、天候などによる制約は残っており、全体の対応困難事案が5件になったわけではない。

2機体制の成果を伝える際にも、比較条件をそろえた数字を示す必要がある。

県境を越えた応援は1件 東三河で問われる搬送の選択肢

2024年2月から2025年1月までの1年間、愛知県のドクターヘリが岐阜県へ応援した事案は計14件あった。愛知医科大学病院と藤田医科大学病院が、それぞれ7件を担当している。

これに対し、愛知県が県外から応援を受けたのは1件。田原市で静岡県西部ドクターヘリが出動した事案だった。

県境を越えた連携は、東三河の救急医療にとって重要な選択肢となる。

山間部が広がる奥三河や、渥美半島を抱える田原市では、救急患者の発生場所によって医療機関への距離や道路事情が異なる。県内のドクターヘリが出動できない場合、隣県の機体を利用できるかどうかも、救急医療を考えるうえで重要になる。

ただし、県外機にも別件対応、天候、運航時間などの制約がある。応援を要請すれば必ず出動できるというものではない。

また、ドクターヘリの役割は患者の搬送だけではない。医師や看護師を現場近くまで送り、病院到着前から必要な治療を始められることに意味がある。

田原市の事案は、その仕組みが県境を越えて機能した例といえる。一方、新城市では地上搬送への切り替えが行われた。異なる対応となった理由や判断に要した時間については、消防側の詳細な記録も確認する必要がある。

本格運用を了承した愛知県 継続検証を求める意見も

愛知県の2機体制は、約1年間の試行運航と3回の検証会を経て、2025年10月の医療審議会で本格運用が了承された。

県側は、これまでの検証で運航に特段の問題は認められなかったと説明している。

しかし、委員からは、今後も運航状況を継続的に検証するよう求める意見が出された。

笠井委員は、公費を使う事業であることを踏まえ、県として何らかの形でフォローアップする必要性を指摘した。別の委員からも定期的な検証を求める声が上がっている。

県側は、従来と同じ形式の検証会を新たに設けることは考えていないとしたうえで、医療審議会の部会や県救急医療協議会などで意見を聞いていく方針を示した。

2026年3月の県議会でも、平常時は担当区域を分け、出動要請が重なった場合には2機が相互に補完する体制が説明されている。

2機体制の導入によって、県内の救急医療が強化されたことは運航実績から読み取れる。ただし、田原市と新城市の記録は、機体数だけでは解決できない課題が残ることも示している。

今後は、運航できなかった要請の理由に加え、県外応援への切り替えに必要な時間や、地上搬送との連携状況を検証していくことが求められる。

編集部まとめ

愛知県のドクターヘリ2機体制は、出動実績を増やし、機体不具合や別件対応による不応需を減少させた。救急医療の機能強化という目的に、一定の成果があったことは確認できる。

その一方、2機体制の開始から27日後、田原市と新城市では県内2機がともに対応できない事案が記録された。

田原市では静岡県西部ドクターヘリが出動し、新城市では陸路による搬送に切り替えられている。

県の検証資料に記載された両機対応不可の3件のうち、2件が東三河で、しかも同じ日に発生していた事実は、地域の救急医療体制を考えるうえで見逃せない。

必要なのは、ヘリコプターの配備数を評価することだけではない。県内機が出動できないとき、誰が応援を判断し、どの医療機関が患者を受け入れ、どれほどの時間で治療を開始できるのか。

東三河の救急医療を支える仕組みは、そこまで含めて検証される必要がある。

特記事項

本記事は、愛知県が公表した「第3回ドクターヘリ2機運航に係る検証会資料(抜粋)」、2025年10月8日開催の愛知県医療審議会5事業等推進部会会議録、愛知県のドクターヘリ運航事業資料、2026年3月13日の愛知県議会福祉医療委員会の審査記録を照合して構成した。

田原市と新城市の事案は2024年2月28日に発生したもので、2026年に新たに発生した事故ではない。両機が対応できなかった3件は、県の検証資料に記載された2024年2月から2025年1月までの集計による。

患者のその後の容体、出動要請時刻、医師の接触時間などは公表資料で確認できていない。また、消防本部や医療機関への個別取材による追加回答を得たものではない。

Q愛知県のドクターヘリは何機ありますか?
A2026年10月時点で2機です。愛知医科大学病院と藤田医科大学病院を基地病院として運航しています。
Q田原市ではなぜ静岡県のドクターヘリが出動したのですか?
A2024年2月28日、県内の1機が別件に対応中で、もう1機は機体不具合により出動できなかったためです。静岡県西部ドクターヘリが応援し、71歳の女性を豊橋市民病院へ搬送しました。
Q同じ日に新城市でも出動できない事案があったのですか?
Aはい。工場での爆発により88歳の女性が負傷した事案で、県内2機が対応できませんでした。静岡県機への応援要請を協議中にヘリの要請がキャンセルとなり、陸路搬送されました。
Qドクターヘリの2機体制によって不応需は減りましたか?
A減少しています。県が整理した数字では、機体不具合や別件対応を理由とする不応需は、1機体制の36件から2機体制では3件となりました。ただし、天候不良などを含めた対応困難事案は残っています。
Q今後も愛知県の運航体制は検証されますか?
A県は従来と同じ形式の検証会を新設する予定はないと説明する一方、医療審議会の部会や県救急医療協議会などを通じて意見を聞く方針を示しています。

週刊TAKAPI 編集部/成田

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