名古屋市のポーカー店で店長を務めていた井上遥樹さん(当時25)が2020年11月に自死した問題で、運営会社などの損害賠償責任を争う控訴審の判決が、10月28日に名古屋高裁で言い渡される。
名古屋地裁は今年3月、会社代表による暴行と長時間労働が井上さんの自死につながったと認定し、運営会社と代表らに計約1億160万円の賠償を命じた。会社側は判決を不服として控訴している。
判決を前に、井上さんの両親は取材に応じ、息子が残した暴行の映像や、謝罪を受けられないまま続いてきた裁判への思いを語った。
スマホに残された暴行映像 会社代表に罰金10万円
井上さんのスマートフォンには、勤務先のポーカー店「じゃんけんポーカー」の防犯カメラが記録した映像が残されていた。
2020年10月18日、当時の運営会社代表が井上さんを蹴り、顔をたたくなどの暴行を加える様子が映っていた。一審判決は、暴行が少なくとも7回に及び、その後も説教が続いていたと認定している。代表は2021年10月、暴行罪で罰金10万円の略式命令を受けた。
母親の里恵さんは、井上さんが映像をスマートフォンに残していたことについて、家族に何かを伝えようとしたのではないかと話した。
ただし、井上さんがどのような意図で映像を保存していたかは分かっていない。
73時間の残業、16日間連続勤務 一審は会社側の責任を認定
2026年3月18日の名古屋地裁判決は、井上さんが亡くなる前の2020年10月、約73時間の時間外労働と16日間の連続勤務をしていたと認定した。
裁判所は、長時間労働と上司による暴行が重なったことで強い心理的負担が生じ、井上さんが適応障害を発症して自死に至ったと判断した。
会社側は一審で、交際相手との関係悪化や金銭トラブルなど、私生活上の事情が原因だったと主張したが、裁判所は採用しなかった。
両親は約1億600万円の損害賠償を求めており、一審はその大部分を認めた形となった。
遺族「職場の安全を守らなかった責任を」 別訴訟でも労災認定
井上さんの母親は、最後に家族で集まった兄の結婚式の写真が遺影になったことを明かした。息子が仕事を続けることを止められなかった後悔を語り、職場の安全を守らなかった責任と、失われた命の重さを踏まえた判決を求めている。
父親も、会社側から謝罪や弔意が示されていれば裁判に至らなかったかもしれないと述べ、同じような被害が繰り返されない社会になってほしいと訴えた。
井上さんの自死をめぐっては、9月16日にも別の司法判断が示されている。母親が労働基準監督署による遺族補償給付の不支給処分の取り消しを求めた訴訟で、名古屋地裁は業務との因果関係を認め、不支給処分を取り消した。
ただし、これは行政処分をめぐる別の裁判であり、今回の控訴審で争われている会社側の民事上の賠償責任とは区別される。
編集部まとめ
25歳で亡くなった井上遥樹さんの自死をめぐり、一審は会社代表による暴行と長時間労働が原因だったと認め、約1億160万円の賠償を命じた。
会社側が控訴したことで、遺族は再び司法判断を待つことになった。暴行についてはすでに刑事処分が出されているが、それとは別に、企業が従業員の心身の安全を守る責任をどこまで負うのかが問われている。
28日の判決では、一審の賠償責任と金額について、名古屋高裁がどのような判断を示すかが焦点となる。
特記事項
本記事は、2026年3月18日の損害賠償訴訟の一審判決、9月16日の労災関連訴訟の判決、10月27日までに公表された遺族の証言を照合して構成した。
会社側の賠償責任については控訴審判決前の段階であり、一審の判断が確定したものではない。
週刊TAKAPI 編集部/成田
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