子どもはなぜSNSで狙われるのか 年齢確認だけでは防げない未成年犯罪の入口

総務省は、SNSを利用する青少年を保護するため、事業者に年齢確認の厳格化を求める方針を示している。

一方で、日本では海外の一部で進む「一定年齢未満のSNS利用を一律に禁止する規制」は見送る方向だ。

では、日本の対応は遅れているのか。

それとも、年齢で一律に禁止しない判断には理由があるのか。

SNSは未成年が犯罪に巻き込まれる入口になる一方で、友人との連絡、情報収集、悩みの相談、居場所づくりの手段にもなっている。

だからこそ、いま必要なのは「SNSを使わせるか、禁止するか」という単純な議論ではない。

未成年がSNSでなぜ危険に近づいてしまうのか。

そして、年齢確認の強化だけで本当に子どもを守れるのか。

その構造を考える必要がある。

海外では未成年のSNS利用制限が進む

オーストラリア政府は2025年12月10日、16歳以下の子どもによるSNS利用を全面的に禁止する法律を施行した。

SNS事業者には、16歳以下にアカウントを開設させない義務が課され、違反した場合は最大4,950万豪ドル、日本円で約51億円の制裁金が科される。

背景には、子どもたちがSNS上で直面している深刻なリスクがある。

オーストラリアのネット安全監督機関による調査では、10歳から15歳の子どもの96%が少なくとも1つのSNSを利用しているとされる。

その中で、

■ 71%が危害に関連するコンテンツに遭遇
■ 52%がネットいじめを経験
■ 24%がオンラインで性的嫌がらせを受けた経験
■ 14%がオンライン上のグルーミング行為を経験

とされている。

政府はこれを、単なる家庭内のスマホ管理の問題ではなく、公衆衛生上のリスクとして捉えた。

デンマークやEUでも規制論が拡大

オーストラリアだけではない。

デンマークでは、15歳未満のSNS利用を禁止する方針が示されている。

首相は、SNSが子どものメンタルヘルスに悪影響を与えているとして、早期の法整備を目指す考えを示した。

EUでも、未成年者がオンラインで直面する心身の健康リスクへの懸念から、SNSや対話型AIなどを利用できる最低年齢を16歳とするよう求める決議が承認されている。

法的拘束力はないものの、EU全体で子どものSNS利用やプラットフォーム設計を見直す流れが強まっている。

世界的には、未成年のSNS利用は「自由に任せる」段階から「一定の制限をかける」段階へ移りつつある。

なぜSNSは子どもに強く影響するのか

SNSが問題視される理由の一つは、その中毒性の高い設計にある。

無限スクロール。

自動再生。

通知。

おすすめ表示。

次々と流れてくる短い動画や投稿。

これらは、利用者ができるだけ長く画面を見続けるように設計されている。

大人でも、気づけば数十分、数時間が過ぎていたということは珍しくない。

子どもや思春期の若者の場合、その影響はさらに大きくなる。

一般的に、脳は20代半ばごろまで発達が続くとされる。

衝動を抑える力や、自分でやめどきを決める力が十分に育っていない段階では、SNSの刺激に引き込まれやすい。

「もう少しだけ見る」

「次の投稿だけ見る」

「通知が来たから確認する」

この繰り返しが、生活リズムや睡眠、学習、精神状態に影響を与える。

比較が自己否定を生む

SNSには、他人の生活の良い部分だけが切り取られて並ぶ。

楽しそうな友人。

成功している同世代。

加工された容姿。

充実して見える日常。

それを見続けることで、子どもは自分と他人を比べやすくなる。

「自分だけ劣っている」

「自分は友達が少ない」

「自分はかわいくない」

「自分は価値がない」

こうした認知の歪みが生まれやすくなる。

特に思春期は、他人からどう見られるかに敏感な時期である。

SNS上の反応、いいねの数、コメント、既読、返信速度。

それらが自己評価に直結してしまう子どももいる。

未成年がSNS犯罪に巻き込まれる構造

未成年がSNSから犯罪に巻き込まれる時、多くの場合、突然事件に発展するわけではない。

入口は、もっと小さい。

■ DMで話しかけられる
■ 悩み相談に乗られる
■ 「君だけは特別」と言われる
■ 家庭や学校への不満を聞いてもらう
■ 写真や個人情報を求められる
■ 会うように誘導される

加害者は最初から怖い顔で近づくとは限らない。

むしろ、優しさや共感を装う。

「親より分かってくれる」

「先生より話を聞いてくれる」

「友達より味方でいてくれる」

そう思わせることで、子どもを孤立させ、支配しやすくする。

これがSNS犯罪の怖さである。

年齢確認が自己申告では限界がある

多くのSNSには利用可能年齢が定められている。

しかし現実には、年齢を偽れば登録できるサービスも多い。

子どもにとっては、

「友達も使っているから」

「流行っているから」

「少し年齢を上にすれば登録できるから」

という感覚で、簡単に年齢を偽ってしまう。

日本でも、小学生のSNS利用は珍しくない。

本来は対象年齢に達していない子どもが、当たり前のようにSNSを使っている。

ここに、現在の制度の大きな穴がある。

年齢確認の厳格化は、少なくともこの穴をふさぐためには必要だ。

では一律禁止すれば解決するのか

ただし、年齢による一律禁止にも限界がある。

オーストラリアのように16歳未満のSNS利用を禁止しても、子どもたちは抜け道を探す。

■ 年上の友人にアカウントを作ってもらう
■ 親に隠れて別端末を使う
■ VPNを使う
■ 禁止対象外のアプリに移る
■ 匿名性の高いサービスへ流れる

規制を強めるほど、利用実態が大人から見えにくくなる可能性もある。

そして、最も危険なのは、子どもがトラブルに巻き込まれた時に相談できなくなることだ。

「本当は使ってはいけないSNSを使っていた」

そう思うと、子どもは親や学校に言い出せなくなる。

その沈黙が、被害をさらに深刻化させる。

日本の課題はいじめとSNSがつながっていること

日本でも、子どものメンタルヘルスの悪化は深刻だ。

文部科学省によると、2024年度のいじめ認知件数は769,022件と過去最多を記録している。

学校でのいじめは、今や教室内だけで完結しない。

LINEグループ。

Instagramのストーリー。

Xの匿名投稿。

TikTokのコメント欄。

オンラインゲーム内のチャット。

大人の目が届きにくい場所で、いじめや嫌がらせが続くこともある。

学校が「帰宅後のSNS上のやり取り」まで把握することは難しい。

家庭でも、子どものスマホの中で何が起きているかを完全に見ることはできない。

つまり、現代のいじめや未成年被害は、学校、家庭、SNSが複雑につながっている。

禁止より必要なのは「相談できる設計」

未成年を守るために必要なのは、SNSを完全に取り上げることだけではない。

もちろん、年齢確認の厳格化は必要だ。

事業者には、未成年保護設定、DM制限、通報対応、悪質アカウントの排除、性的搾取やグルーミングへの対策が求められる。

しかし、それだけでは足りない。

子どもが危険を感じた時に、怒られずに相談できる環境が必要だ。

「なんで知らない人と話したの」

「なんでそんな写真を送ったの」

「だからSNSは禁止って言ったでしょ」

こう言われると思えば、子どもは黙る。

本当に必要なのは、監視ではなく、戻ってこられる場所である。

保護者と学校が見るべきサイン

SNSトラブルは外から見えにくい。

だからこそ、大人は小さな変化に気づく必要がある。

■ 急にスマホを隠すようになった
■ 夜中まで誰かとやり取りしている
■ 知らない相手との関係を話したがらない
■ 急に高額な物を持つようになった
■ 学校や家にいたがらなくなった
■ 「ネットの友達だけが分かってくれる」と言う
■ 気分の浮き沈みが激しくなった
■ SNSの反応に過剰に落ち込むようになった

こうした変化がある時、いきなりスマホを取り上げるだけでは逆効果になることもある。

必要なのは、問い詰めることではなく、話せる空気を作ることだ。

日本はどうすべきか

日本が目指すべきなのは、海外の制度をそのまま真似することではない。

年齢確認を厳格化する。

未成年に対するDM機能を制限する。

深夜利用や長時間利用への注意機能を強化する。

学校でSNSリテラシー教育を徹底する。

保護者が相談できる窓口を増やす。

被害に遭った子どもが責められずに助けを求められる仕組みを作る。

こうした複数の対策を組み合わせる必要がある。

SNSは、禁止すれば消えるものではない。

むしろ、子どもたちは別の場所へ移る。

だからこそ、現実の利用実態を前提にした対策が必要だ。

まとめ

SNSは未成年にとって、便利で楽しい場所であると同時に、犯罪やいじめ、依存、孤立につながる危険な場所にもなり得る。

海外では16歳未満や15歳未満の利用制限が進んでいる。

一方、日本は年齢による一律禁止ではなく、年齢確認の厳格化を軸にする方針だ。

この判断が正しいかどうかは、今後の制度設計にかかっている。

年齢確認だけで終われば不十分。

一律禁止だけでも不十分。

本当に必要なのは、事業者、家庭、学校、行政がそれぞれの責任を果たし、子どもが危険に気づいた時に助けを求められる社会を作ることだ。

SNSから未成年を守る最後の防波堤は、アプリの年齢制限だけではない。

「困ったら怒られずに相談できる」

その安心感こそが、子どもを犯罪から遠ざける。

Q&A

Q. 日本は未成年のSNS利用を禁止するのですか?

A. 現時点では、日本は年齢による一律のSNS利用禁止ではなく、年齢確認の厳格化を進める方針です。

Q. なぜ日本はSNSを一律禁止しないのですか?

A. SNSには犯罪やいじめのリスクがある一方で、友人との連絡、情報収集、悩み相談、居場所づくりなどの役割もあるためです。すべてのSNSを同じように禁止することには慎重な意見があります。

Q. 海外では未成年のSNS利用を制限しているのですか?

A. はい。オーストラリアでは16歳以下のSNS利用を禁止する法律が施行され、デンマークやEUでも未成年のSNS利用制限に向けた議論が進んでいます。

Q. 未成年はなぜSNS犯罪に巻き込まれやすいのですか?

A. DMで見知らぬ大人とつながりやすく、承認欲求や孤独感を利用されやすいためです。加害者が優しさや共感を装い、相談相手のふりをして近づくケースもあります。

Q. SNSの年齢確認にはどんな課題がありますか?

A. 多くのサービスでは年齢確認が自己申告に近く、子どもが年齢を偽って登録できることが課題です。一方で、厳格化しすぎると個人情報管理や抜け道対策も問題になります。

Q. SNSを禁止すれば子どもは守れるのですか?

A. 禁止だけでは不十分です。子どもが隠れて利用したり、別のアプリへ移ったりする可能性があります。トラブル時に相談できなくなるリスクもあります。

Q. SNSが子どものメンタルヘルスに与える影響は?

A. SNSでは他人の良い部分だけが見えやすく、比較による自己否定感や孤独感につながることがあります。また、長時間利用による睡眠不足や不安の増加も懸念されています。

Q. 保護者が注意すべきサインは?

A. 急にスマホを隠す、夜中まで誰かとやり取りする、知らない相手との関係を話したがらない、SNSの反応で極端に落ち込むなどの変化には注意が必要です。

Q. 子どもがSNSトラブルに巻き込まれた時、親はどう対応すべきですか?

A. まず責めずに話を聞くことが重要です。「なぜ使ったのか」と問い詰めるより、「話してくれてありがとう」と受け止めることで、被害の深刻化を防ぎやすくなります。

Q. 未成年をSNS犯罪から守るために必要な対策は?

A. 年齢確認の厳格化、DM制限、通報機能の強化、SNSリテラシー教育、家庭や学校で相談できる環境づくりが必要です。規制と支援の両方が求められます。

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