東京地検特捜部に所属していた検察官による取り調べに問題があったとして、東京地裁は、担当した検察官を特別公務員暴行陵虐罪に問う刑事裁判を開く決定をしました。
刑事裁判が開かれることになったのは、東京地検特捜部に所属していた堀木博司被告(57)です。
堀木被告は、太陽光発電関連会社「テクノシステム」の社長だった生田尚之被告(52)が、金融機関から約22億円をだまし取ったとして詐欺などの罪に問われた事件で、生田被告の取り調べを担当していました。
生田被告側は、取り調べで侮辱的、威圧的な発言があったとして、堀木被告を特別公務員暴行陵虐の疑いで刑事告訴していました。
東京高検はこの告訴について「嫌疑不十分」として不起訴処分にしましたが、生田被告側は今年4月、不起訴処分を不服として、裁判所に刑事裁判を開くよう求める付審判請求を行っていました。
東京地裁は、この請求を認める決定をしました。
今後、裁判所が検察官役を務める弁護士を指定し、東京地裁で公判が開かれることになります。
取り調べで何が問題視されたのか
生田被告側は、2021年5月に始まった取り調べの中で、黙秘をめぐる発言や、人格を否定するような発言があったと主張しています。
報道によりますと、堀木被告は、生田被告が逮捕容疑を否認し、黙秘する意向を示した際、検察庁を敵視することを反社会的勢力になぞらえるような発言をしたとされています。
また、黙秘を続ける生田被告に対し、黙秘権の行使を非難するような発言もあったとされています。
最高検は2022年、堀木被告の取り調べについて、侮辱的な発言や威圧的な言動などがあったとして「不適正」と認定しています。
一方で、生田被告の詐欺事件をめぐる刑事裁判では、東京地裁が今年3月、生田被告に懲役11年を言い渡しました。
その判決では、堀木被告の取り調べについて「不必要に相当性を欠く取り調べがあった」と指摘しつつ、多数の客観証拠があり、生田被告が取り調べによる自白で起訴されたわけではないとも判断しました。
生田被告は、この判決を不服として東京高裁に控訴しています。
付審判とは何か
今回の決定で注目されるのが、「付審判」という手続きです。
付審判とは、公務員による職権乱用や暴行陵虐など一部の事件について、検察が不起訴にした場合でも、被害を訴える側が裁判所に審理を求めることができる制度です。
裁判所が請求を認めると、通常の検察官ではなく、裁判所が指定する弁護士が検察官役となり、刑事裁判が行われます。
つまり今回の決定は、東京高検が不起訴とした事件について、裁判所が「刑事裁判で審理すべき」と判断したことを意味します。
検察官による取り調べをめぐり、同じ検察組織の判断だけで終わらせず、公開の法廷で検証されることになります。
特別公務員暴行陵虐罪とは何か
堀木被告が問われることになった特別公務員暴行陵虐罪は、警察官や検察官など、刑事手続きに関わる特別公務員が、職務上の立場を利用して被疑者などに暴行や陵辱・加虐行為をした場合に問題となる罪です。
ここでいう問題は、単に取り調べの口調が厳しかったかどうかだけではありません。
黙秘権を行使する被疑者に対し、必要な範囲を超えて威圧的・侮辱的な言動があったのか。
取り調べが適正な範囲を逸脱していたのか。
公務員の職務として許される限度を超えていたのか。
今後の刑事裁判では、こうした点が争点になるとみられます。
黙秘権と取り調べの適正性
刑事事件では、被疑者や被告人には黙秘権があります。
黙秘権は、話したくないことを話さない権利であり、捜査機関が不利益な供述を強制しないための重要な権利です。
取り調べでは、捜査機関が事実関係を確認すること自体は必要です。
しかし、黙秘権を行使したことを理由に人格を攻撃したり、過度に威圧したりすれば、取り調べの適正性が問われます。
今回の事件は、単なる個別の検事の発言問題にとどまりません。
録音・録画された取り調べをどのように検証するのか。
不適正な取り調べがあった場合、刑事責任まで問えるのか。
検察内部のチェックだけで十分なのか。
司法制度全体に関わる問題でもあります。
別事件でも検察官の刑事裁判へ
検察官の取り調べをめぐっては、大阪地検特捜部が捜査した業務上横領事件でも、違法な取り調べがあったとして、検察官が特別公務員暴行陵虐罪に問われています。
この事件では、付審判による初公判が7月10日に開かれる予定です。
検察官の取り調べをめぐる刑事裁判が相次ぐことになれば、取り調べの可視化、黙秘権の尊重、検察組織の内部統制のあり方が改めて問われることになります。
今回のポイント
今回、東京地裁は、検察が不起訴にした元特捜部検事の取り調べ問題について、刑事裁判を開く決定をしました。
争点は、取り調べ中の発言や態度が、特別公務員暴行陵虐罪にあたるほどの違法性を持つのかという点です。
また、最高検がすでに「不適正」と認定した取り調べについて、刑事裁判でどこまで責任が問われるのかも注目されます。
生田被告本人の詐欺事件とは別に、取り調べの適正性が独立して審理されることになります。
今後は、指定弁護士による起訴手続き、公判での証拠調べ、取り調べ映像の扱い、堀木被告側の主張が焦点になります。
本記事は、裁判所の決定、関係者への取材、報道内容をもとに構成しています。刑事裁判で有罪が確定するまでは、被告人には推定無罪の原則が適用されます。

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