子どもを守る立場の教員が、子どもを性的な対象として撮影する。さらに、その画像を同じ教員同士で共有する。学校や教育委員会は、事件が報じられるたびに「再発防止」「研修徹底」「服務規律の確保」という言葉を並べてきた。
だが、同じ種類の事件は止まっていない。
2025年から2026年にかけても、教員による盗撮や性的画像をめぐる報道は相次いだ。高知県の小学校で女子児童を盗撮した罪などに問われた元小学校教諭の有罪判決、埼玉県の県立高校教諭による運動部男子生徒の盗撮容疑、東京都内の公立小学校教諭による女子児童盗撮容疑、栃木県立高校の常勤講師による校内盗撮容疑、そして名古屋市立小学校元教諭らを含む教員グループによる児童盗撮画像共有事件である。
これは過去の話ではない。いま報道されている問題である。
文部科学省の令和6年度調査では、性犯罪・性暴力等により懲戒処分等を受けた教育職員は281人だった。このうち、児童生徒性暴力等により懲戒処分を受けた者は134人。令和5年度は、性犯罪・性暴力等が320人、児童生徒性暴力等が157人だった。
人数は前年度より減っている。それでも、子どもを預かる学校現場で、毎年100人を超える児童生徒性暴力等の懲戒処分者が出ている事実は重い。これは「一部の教員の不祥事」では済まない。子どもに近づける職業で、どこまで事前確認と現場管理を徹底するのかという、日本の教育行政そのものへの問いである。
2026年1月、高知地方裁判所は、2025年6月に当時勤務していた高知県の小学校で女子児童を盗撮した罪などに問われた元小学校教諭に対し、拘禁刑3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡したと報じられた。報道では、裁判所が「教員の立場を悪用」した犯行と指摘した一方、示談成立などを考慮したとされる。
ここで問うべきは、判決の重さだけではない。教員という立場で児童に近づき、学校という子どもが逃げにくい場所で犯行に及んだ点である。子どもは教師を疑って登校しているわけではない。保護者も、教室の中に盗撮の危険があると想定して子どもを送り出しているわけではない。
2026年2月には、埼玉県の県立高校教諭が、顧問を務める運動部の男子生徒12人の裸や下着姿をスマートフォンで撮影するなどした疑いで逮捕されたと報じられた。報道では、スマートフォンに動画や写真が保存されていたとされる。
部活動は、教員と生徒の距離が近くなる。更衣、合宿、遠征、練習後の着替え。そこにスマートフォンを持った教員が立ち入れるなら、学校は「信頼」だけで安全を担保していることになる。信頼は大切だ。しかし、信頼だけで子どもは守れない。
2026年4月には、東京都内の公立小学校教諭が、勤務先の教室で小学3年生の女子児童のスカート内を盗撮した疑いで逮捕されたと報じられた。報道では、スマートフォンに女子児童を撮影した動画などが一時約5000件保存されていたとされ、本人が「教師になった17年ほど前から小学生から高校生までを盗撮していた」と話しているとも伝えられている。
この報道が事実なら、学校は十数年にわたり、子どものすぐ近くにいた盗撮加害の疑いがある人物を見抜けなかったことになる。これは一人の教員の問題にとどまらない。採用、異動、校内管理、児童の声の拾い上げ、同僚の違和感の共有、すべてが問われる。
同じ2026年4月、栃木県立高校の常勤講師が、勤務する県立高校の教室に小型カメラを設置し、女性の着替えを盗撮した疑いで逮捕されたと報じられた。報道では、校内の教室や女子トイレから、外見上はカメラに見えない同種の小型カメラが複数見つかったとされる。
教室は学ぶ場所であり、更衣室ではないはずだ。しかし学校現場では、体育や行事、部活動、施設事情によって、教室や周辺空間が着替えの場になることがある。そこに小型カメラを設置できる余地があるなら、子どもや生徒は自分の力だけでは身を守れない。
そして、2025年から2026年にかけて最も深刻な事例として報じられたのが、教員グループによる児童盗撮画像共有事件である。報道では、教員グループ7人が女子児童の盗撮画像などをSNSのグループチャットで共有したとされ、被害者は全国で75人を超えるとされている。
単独の盗撮ではない。教員という立場で子どもに近づき、撮影し、同じ職業の者同士で共有する。そこに生成AIによる性的画像の作成まで加わる。これは学校という場所への信頼を根元から揺さぶる事件である。
この事件では、名古屋市の小学校元教諭が、勤務先の女子児童の下着を盗撮し、教員グループに動画を共有したほか、実在する女子児童の画像をもとに生成AIで作られた性的ディープフェイク画像を所持した罪などに問われた。検察側は懲役6年を求刑し、「過去に類をみない悪質な事件」と指摘したと報じられている。
また、教員グループのチャット開設者とされる名古屋市立小学校の元教諭には、2026年4月、名古屋地裁で懲役2年6月の判決が言い渡されたと報じられた。
盗撮、共有、生成AIによる性的画像の作成。この3つがつながった時点で、学校現場の対策は「意識を高める」だけでは足りない。子どもが着替える場所、掃除をする教室、部活動の更衣場所、宿泊行事、個別指導の場面。そこに私物スマートフォンを持つ大人が入れるなら、撮影の機会は残る。
文部科学省も2025年7月、教員による児童生徒性暴力等の防止に関する通知を出し、教室やトイレ、更衣室等の定期的な点検、カメラ等を設置できない環境づくり、教師個人のスマートフォン等の私的端末で児童生徒等を撮影しないことなどを求めている。
つまり、国も問題を把握している。では、なぜ現場では同じ種類の事件が報道され続けるのか。
ここで社会が直視すべき数字がある。法務省の平成27年版犯罪白書では、盗撮型の再犯率は36.4%と整理されている。再犯者の4分の3は条例違反による再犯だったともされる。これは教員だけを対象にした数字ではない。すべての盗撮事案を同一に扱うこともできない。それでも、盗撮という犯罪について、再犯への警戒を前提に制度を作る必要があることは明らかだ。
筆者は、日本版DBSがどこまで実効性を持つのか、現時点ではまだ不明な部分があると考えている。それでも、期待するしかない。子どもと接する仕事に就く人について、性犯罪歴を確認する仕組みを整えることは、遅すぎた一歩だからである。
こども性暴力防止法は2024年6月に成立し、2026年12月25日に施行される。この制度では、学校や認可保育所などの義務対象事業者に対し、従事者の性犯罪前科の確認をはじめ、子どもへの性暴力を防ぐための取組が求められる。学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者についても、認定制度を通じて、子どもと接する業務から性犯罪歴のある人物を遠ざける仕組みが整えられる。
犯罪事実確認では、拘禁刑の場合は刑の執行終了等から20年、執行猶予や罰金の場合は10年が確認対象期間となる。一定期間を過ぎれば、過去に特定性犯罪事実に該当していたことを、事業者が分からない場合もある。ここに、日本版DBSの限界がある。
日本版DBSは万能ではない。前科がない初犯は防げない。処分に至らなかった事案も拾えない。確認対象期間を過ぎた前科については、見えない場合がある。校内で撮影できる場所が残っていれば、制度が始まっても被害は起きる。
だからこそ、日本版DBSだけに期待して終わってはいけない。
必要なのは、子どもと密室で接する場面を減らすことだ。教員一人で子どもを見ない。更衣室、トイレ、教室、部活動の脱衣場所、宿泊行事の導線を点検する。私物スマートフォンを、子どもの着替えや身体が見える場所に持ち込ませない。職員室、保健室、教室、体育館、部室、合宿所で、誰がどこまで端末を持てるのかを明文化する。撮影できる環境を残したまま、「研修を徹底します」と書いても意味はない。
過剰な個人情報保護を理由に、子どもの安全確認を後回しにする段階ではない。もちろん、性犯罪歴という情報は慎重に扱う必要がある。無関係な場所に広がってよい情報ではない。しかし、子どもと日常的に接する職種で、確認されるべき情報を確認しないまま採用し、配置し、密室に近い環境へ入れることは、子ども側にリスクを押し付ける行為である。
日本は先進国でありながら、子どもを性犯罪から守る制度づくりでは、あまりに遅れてきたのではないか。学校、保育所、塾、スポーツクラブ、放課後児童クラブ。子どもが大人に預けられる場所は広い。そこで働く人の権利を守ることは必要だ。しかし、最初に守るべきは、子どもの身体と尊厳である。
盗撮教員を処分して終わりにしてはいけない。謝罪文を出して終わりにしてはいけない。研修をしました、注意喚起しました、服務規律を徹底します、という文章で終わらせてはいけない。
問うべきは、もっと具体的なことだ。
その教員は、なぜスマートフォンを持って子どもの近くに行けたのか。なぜ更衣場所や教室で、撮影できる角度が残されていたのか。なぜ子どもや同僚が違和感を持っても、すぐに止められなかったのか。なぜ前歴や処分歴を確認する制度が、ここまで遅れたのか。そして、次の被害を防ぐために、学校は明日から何を変えるのか。
日本版DBSは、子どもを守る最後の線ではない。ようやく引かれる最低限の線である。そこに、私物スマートフォン管理、施設点検、複数教員対応、相談窓口、保護者説明、被害児童への支援が重ならなければ、制度は紙の上で終わる。
子どもを守るとは、きれいな言葉ではない。教室の机の配置、更衣室の導線、職員室での端末管理、部活動の見守り人数、宿泊行事の部屋割り、採用時の確認、異動時の確認、保護者への説明。そこまで具体に落とし込んで初めて、守ると言える。
教員性犯罪を「一部の異常な教員の問題」として片付けるなら、また同じ記事を書くことになる。盗撮型の再犯率が36.4%とされる現実を見れば、社会は「まさか」ではなく「起こり得る」として学校を作り直すべきだ。
子どもを預ける社会で、子どもが一番弱い立場に置かれている。その当たり前の事実から逃げてはいけない。
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教員性犯罪と日本版DBSをめぐり、いま社会が確認すべきこと
Q1. 教員による性犯罪・性暴力はどのくらい起きているのか。
文部科学省の令和6年度調査では、性犯罪・性暴力等で懲戒処分等を受けた教育職員は281人で、そのうち児童生徒性暴力等による懲戒処分は134人だった。令和5年度は性犯罪・性暴力等が320人、児童生徒性暴力等が157人だった。数字だけで「減った」と見るのではなく、子どもを預かる現場で毎年100人を超える児童生徒性暴力等の懲戒処分者が出ている事実を見る必要がある。
Q2. 2025年・2026年にはどのような教員盗撮事件が報道されたのか。
2025年には、高知県の小学校で女子児童を盗撮した罪などに問われた元小学校教諭の事件が報じられ、2026年1月に有罪判決が出た。2026年には、埼玉県の高校教諭による運動部男子生徒の盗撮容疑、東京都内の公立小学校教諭による女子児童盗撮容疑、栃木県立高校の常勤講師による校内盗撮容疑、名古屋市立小学校元教諭らを含む教員グループによる児童盗撮画像共有事件などが報じられている。
Q3. 教員盗撮グループ事件は何が深刻なのか。
単独の盗撮ではなく、複数の教員が児童の盗撮画像などをSNSグループで共有したとされる点が深刻である。報道では、被害者が全国で75人を超えるとされる。さらに、実在する児童画像をもとに生成AIで作られた性的ディープフェイク画像の所持も起訴内容に含まれている。盗撮、共有、AI悪用がつながった事件として、学校現場の安全管理そのものが問われている。
Q4. 盗撮は再犯リスクが高いのか。
法務省の平成27年版犯罪白書では、盗撮型の再犯率は36.4%と整理されている。再犯者の4分の3は条例違反による再犯だったともされる。これは教員だけを対象にした数字ではないが、盗撮については再犯への警戒を前提に、採用、配置、端末管理、施設点検を行う必要がある。
Q5. 日本版DBSとは何か。
日本版DBSは、子どもと接する仕事に就く人について、特定の性犯罪前科の有無を確認し、子どもへの性暴力を防ぐための制度である。こども性暴力防止法に基づき、2026年12月25日に施行される。学校、認可保育所、認定こども園、児童福祉施設などは義務対象となり、学習塾やスポーツクラブなどは認定制度を通じて対象となる。
Q6. 日本版DBSで教員性犯罪は防げるのか。
一定の効果は期待できる。ただし、日本版DBSだけで全てを防ぐことはできない。前科がない初犯、処分に至らなかった事案、確認期間を過ぎた前科、校内で撮影できる環境そのものは残る。制度を実効性あるものにするには、私物スマートフォン管理、更衣場所や教室の点検、複数教員対応、相談窓口、被害児童支援を同時に整える必要がある。
Q7. 日本版DBSの確認対象期間はどこまでか。
犯罪事実確認では、特定性犯罪について、拘禁刑の場合は刑の執行終了等から20年、執行猶予や罰金の場合は10年が確認対象期間となる。一定期間を経過した場合、事業者は過去に特定性犯罪事実該当者だったことを分からない場合がある。この点は、日本版DBSの限界として議論されるべきである。
Q8. 学校は明日から何を変えるべきか。
まず私物スマートフォンの扱いを変えるべきである。更衣室、トイレ、教室、部活動の脱衣場所、宿泊行事、個別指導の場面では、撮影できる環境を残さない。次に、教員一人で子どもを見ない運用を徹底する。さらに、保護者や児童生徒が相談しやすい窓口を明示し、違和感が出た段階で調査に入れる体制を作る必要がある。
Q9. 個人情報保護と子どもの安全はどう両立すべきか。
性犯罪歴は慎重に扱うべき情報であり、無関係な場所に広がってはならない。ただし、子どもと密室に近い環境で接する職種では、確認されるべき情報がある。過剰な個人情報保護を理由に確認を先送りすれば、結果として子ども側にリスクを押し付けることになる。必要なのは、情報を厳格に管理しながら、子どもに接する業務から危険を遠ざける制度運用である。
Q10. この問題で社会が問うべきことは何か。
子どもの安全より、加害経験者の再就職や組織の都合、過剰な個人情報保護を優先していないかという点である。日本版DBSは重要な一歩だが、最低限の線にすぎない。子どもを守る社会にするには、前科確認だけでなく、撮れない環境、近づきすぎない運用、声を上げられる窓口、被害を受けた子どもへの支援まで変える必要がある。
参考・出典
文部科学省「令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」
文部科学省「児童生徒性暴力等の防止等に関する教師の服務規律の確保の徹底について」関連資料
こども家庭庁「こども性暴力防止法」関連資料
こども家庭庁「こども性暴力防止法に関するQ&A」
法務省「平成27年版犯罪白書 性犯罪者の実態と再犯防止」
毎日新聞、CBCテレビ、TBS NEWS DIG、KHB東日本放送、下野新聞ほか報道各社
