事実ではない一つのメッセージが、当時中学1年生だった生徒の日常を奪った。
埼玉県上尾市の市立中学校で、別人をいじめの加害者と取り違えた情報がLINEで急速に拡散し、被害生徒が強い精神的苦痛から長期不登校となっていたことが分かった。拡散に関わった生徒は計24人。上尾市教育委員会は、誤情報の拡散と長期欠席には直接的な因果関係があるとして、「いじめ重大事態」に認定した。
市教委は調査報告書を公表し、学校のSNS指導や初期対応、家庭での情報モラル教育にも課題があったと指摘している。
別人を加害者と誤認
問題が起きたのは2025年5月。ある生徒が、小学校時代にいじめをしていた人物と被害生徒のAさんを「似ている」と誤認し、同級生に相談した。
相談を受けた別の生徒は、Aさんが過去にいじめをしていたという趣旨のメッセージをLINEで複数の生徒に送信。さらに拡散を呼びかけたことで、誤情報はグループチャットを通じて他学年にも広がった。
調査の結果、情報の発信や転送などに関わった生徒は24人に上った。その後、疑われていた人物とAさんは全くの別人だったことが確認された。
学校は関係生徒と保護者への聞き取りを行い、メッセージの削除や謝罪の場を設けた。しかし、一度拡散された情報が誰に、どこまで届いたのかを完全に把握することはできなかった。
「学校で会うのが怖い」
Aさんは、誤情報の拡散に関わった生徒と校内で顔を合わせることに強い恐怖を感じ、心療内科を受診した。その後、長期間にわたって登校できない状態になったという。
メッセージを削除しても、「まだ誰かが信じているのではないか」「別の場所に保存されているのではないか」という不安は消えなかった。
上尾市教委は2025年9月12日、相当期間の欠席と心身への重大な被害が生じた疑いがあるとして、いじめ防止対策推進法に基づく重大事態に認定。調査委員会を設置し、生徒や保護者、学校関係者への聞き取りを進めた。
保護者「説明責任が不十分」
Aさんの保護者は所見書で、情報を発信・拡散した側の説明責任が現在も十分ではないと指摘した。
そのうえで、SNSを利用する子どもの保護者に対し、個人情報や事実確認のできていない情報を安易に広めないよう、家庭でも責任を持って指導してほしいと求めている。
調査委員会は、学校によるいじめの未然防止や、LINEを含むSNSトラブルへの指導が十分ではなかったと指摘した。
学校は再発防止へ
学校側は今後、個別面談や生活アンケートを強化するほか、SNSの適切な使い方を学ぶ授業、教職員研修、保護者向けの啓発活動を進めるとしている。
上尾市教育委員会も、今回のいじめ重大事態に関する調査報告書を市内の学校で共有し、LINEなどを介した誤情報拡散の防止に取り組む方針だ。
編集部まとめ
今回の問題が示したのは、未確認の情報を一度転送するだけでも、現実のいじめに加わる可能性があるということだ。
誤情報は、削除したからといって消えたことにはならない。保存や再転送によって拡散範囲が見えなくなれば、被害を受けた生徒は長期間にわたって不安を抱えることになる。
必要なのは「悪口を書かない」という表面的な指導だけではない。情報を受け取った時点で立ち止まり、事実かどうかを確認し、本人に関する内容を安易に他人へ送らない判断力を育てることだ。
学校だけでなく家庭でも、LINEやSNS上の行動には現実と同じ責任が伴うことを、具体的に伝える必要がある。
週刊TAKAPI編集部/成田
特記事項:本記事は上尾市教育委員会が公表した、いじめ重大事態に関する調査報告書の内容を基に構成しています。被害生徒および関係する生徒の特定につながる情報は掲載していません。
記事要点
埼玉県上尾市の市立中学校で、当時中学1年生だった生徒を過去のいじめ加害者とする事実無根の情報がLINEで拡散し、被害生徒が長期不登校となりました。情報はグループチャットを介して他学年にも広がり、発信や転送に関わった生徒は24人に上りました。上尾市教育委員会は2025年9月12日、誤情報の拡散と長期欠席に直接的な因果関係があるとして、いじめ防止対策推進法に基づく重大事態と認定しました。
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