柔軟剤や洗剤、制汗スプレーなどの香りによって頭痛や吐き気を訴える人がいるとして、愛知県内で学校環境の改善を求める動きが広がっている。
患者や家族らでつくる「香害をなくすみんなの会」は7月30日、愛知県と県教育委員会に要望書を提出。学校現場への周知、教職員研修、給食用エプロンの共用見直しなどを求めた。
豊橋市では、化学物質過敏症と診断された中学2年生の女子生徒が、教室内に残る香りなどの影響で通常の登校が難しくなっている。市は2023年度から、市立小中学校の給食エプロンを個人で用意する方式へ変更し、共用品を介した香料への接触を減らしている。
「学校へ通いたい」教室内の香りが壁に
豊橋市に住む中学2年生のあおいさん(仮名・14歳)は、化学物質過敏症と診断されている。
現在は、部活動や屋外体育を除き、自宅からオンラインで授業を受けることが多い。学校へ通う意思はあるものの、教室内に残る柔軟剤や制汗スプレー、香料入りハンドクリームなどのにおいで体調を崩すため、通常の学校生活を送ることが難しいという。
症状が現れ始めたのは小学3年生のころ。学校の改修工事で石油系の強いにおいを感じた後に激しい頭痛を訴え、その後は複数の香料や化学物質に反応するようになったとされる。
外出時にはマスクを着用し、周囲のにおいや使用されている製品を確認しながら生活している。
学校を避けているのではない。通いたい気持ちがありながら、環境上の理由で教室に入れない状態が続いている。
豊橋市は給食エプロンの共用を廃止
学校生活で問題となっていた一つが、給食当番用のエプロンと三角巾だった。
学校で共用し、使用後に各家庭が洗濯する方式では、家庭ごとに使う洗剤や柔軟剤が異なる。次に着用する児童生徒が、衣類に残った香りで体調を崩す可能性が指摘されていた。
豊橋市は2023年度から、特別支援学校を除く市立小中学校でエプロンの共用を廃止。児童生徒が各自で用意する方式へ切り替えた。
個人持ちにすれば、それぞれの家庭で香料の有無を選びやすくなる。体格に合ったものを使えるほか、共用品を介した接触を減らせる点でも利点がある。
これは学校内からすべての香りを排除する措置ではない。避けられる接触経路を一つ減らす、現実的な対応と位置づけられる。
「香害」は診断名ではない
「香害」は、柔軟剤、洗剤、芳香剤、香水、制汗スプレーなどの香りで体調不良を訴える問題を指す一般的な呼称で、医学上の正式な診断名ではない。
症状を訴える人の中には、医療機関で化学物質過敏症と診断されるケースもある。一方、少量の化学物質への接触と症状との因果関係や、発症の仕組みには未解明な部分が残る。
そのため、すべての香り付き製品を一律に危険と断定することは適切ではない。
ただし、医学的に未解明な点があることと、実際に体調不良を訴え、学習や登校を制限されている子どもがいることは分けて考える必要がある。
学校側には、本人、保護者、医療機関と情報を共有し、症状や環境に応じて接触機会を減らす対応が求められる。
別室やオンラインだけでは参加機会を失う
症状を訴える児童生徒への対応として、別室やオンライン授業が選ばれることがある。
健康を守るために必要な場合はあるものの、その状態が長期化すれば、授業、学校行事、友人との交流に参加する機会を失いかねない。
教室には、柔軟剤、香水、整髪料、制汗スプレー、ハンドクリームなど、複数の香りが持ち込まれる可能性がある。
本人だけを教室から離すのではなく、座席の位置や換気、スプレー製品の使用場所、清掃用品、授業参加の方法などを個別に調整する視点が必要だ。
学校施設の改修工事では、塗料や接着剤などへの配慮も課題となる。
2026年6月の豊橋市議会定例会でも、学校施設の改修、香害に関する周知、化学物質由来の体調不良の実態把握が論点となった。
約1万人の調査で8.3%が体調不良を経験
日本臨床環境医学会と室内環境学会の研究者らによる調査では、9都道県の中学生以下約1万人について保護者へ尋ねたところ、856人、全体の8.3%が人工的な香りによる体調不良を経験したと回答した。
体調不良を経験した場所として、園や学校を挙げる回答が多かったという。
この割合を全国の子どもの人口へ当てはめると、約70万人に相当するとの推計も示されている。
ただし、約70万人という数字は、全国の患者を直接診断して集計したものではない。限られた地域の調査結果を全国人口へ換算した推計値であり、患者数そのものとして扱うことはできない。
調査年や正式な調査名称など、より詳しい情報については、根拠資料の確認と併記が必要となる。
患者団体が県と県教委へ要望
「香害をなくすみんなの会」は7月30日、愛知県と県教育委員会へ要望書を提出した。
石井知子代表らは、化学物質過敏症の子どもが学校生活の中で日常的な困難を抱えているとして、予防的な観点から学校環境に対策を導入するよう訴えた。
要望には、学校現場への啓発、教職員研修、給食用エプロンの共用見直し、児童生徒の実態把握などが含まれている。
県教育委員会は、教職員を対象とした研修などを通じ、対応を進めたいとしている。ただし、研修の開始時期、対象範囲、具体的な内容は、現時点で明らかになっていない。
今後は方針を示すだけでなく、担任、養護教諭、管理職がどのように情報を共有し、個別対応へつなげるかが問われる。
他自治体も含め、対応には差
学校での香料対策は全国一律ではなく、自治体や学校ごとに対応の内容が異なる。
給食エプロンを個人持ちにする、香り付き製品への配慮を保護者へ周知する、施設改修時に使用材料を確認するなど、地域の実情に応じた対応が考えられる。
豊橋市のエプロン共用廃止は、具体的な先行例の一つだ。
一方、同様の取り組みがどこまで広がっているかを示すには、各自治体の実施状況を改めて確認する必要がある。未確認の事例を安易に並べるのではなく、制度の内容と実施時期を照合したうえで比較することが重要となる。
香りを禁止するのではなく、使い方を見直す
消費者庁は、香り付き製品の使用によって体調不良を訴える人がいるとして、使用時には周囲へ配慮するよう呼びかけている。
学校や家庭で考えられる対応は、すべての香料製品を一律に禁止することではない。
製品の使用量を守る。複数の香りを重ねない。人が集まる教室や更衣室でスプレーを使わない。必要に応じて無香料や香りの弱い製品を選ぶ。
体調不良を訴える人がいる場合には、使用場所や量を見直す。
こうした小さな調整でも、避けられる接触を減らせる可能性がある。
香りを使用する側を一方的に非難すれば、学校内の対立につながりかねない。必要なのは、「香りによって体調を崩す人がいる」という情報を共有し、同じ空間を使う人同士で対応を考えることだ。
編集部まとめ
「香害」は医学上の診断名ではなく、化学物質と症状の関係には未解明な点がある。
一方、豊橋市では、化学物質過敏症と診断された中学2年生が教室に入れず、オンライン授業を中心とした生活を続けている。学校へ通いたいと望みながら、香りによって学習や友人との時間を制限されている現実がある。
豊橋市の給食エプロン共用廃止は、共用品を介した接触を減らす具体策だ。
次に必要なのは、教室の換気、製品の使用場所、施設改修、授業参加の方法まで含め、子どもごとの状況に応じた対応を制度として定着させることだ。
香りを全面的に否定するのではなく、体調を崩す人がいることを知り、避けられる接触を減らす。子どもが健康を守りながら教室へ戻れる環境をつくれるかが、学校と行政に問われている。
週刊TAKAPI編集部/松本
特記事項:「香害」は一般的な呼称で、医学上の正式な診断名ではありません。本記事は、香料や化学物質による体調不良を訴える人がいる事実と、学校現場での対応を扱っています。すべての香り付き製品と症状の因果関係を一律に断定するものではありません。
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