2026年夏、東海地方で水難事故への警戒が一段と必要になっている。
まだ8月上旬。それでも静岡県と岐阜県では、水難事故の発生件数がいずれも前年同期を約2割上回る水準となった。愛知県でも8月8日、海と川で死亡事故が相次ぎ、翌9日には静岡県の海水浴場でも新たな死亡事故が起きている。
これから迎えるのは、帰省や旅行で海、川、キャンプ場などを訪れる人が増えるお盆本番だ。
海も川も、甘く見てはいけない。
そして、最も注意したいのは「泳げるから自分は大丈夫」という過信だ。
静岡は28件、前年23件から約21.7%増 死者・行方不明者も12人
静岡県によると、2026年1月1日から7月26日までに県内で発生した水難事故は28件。前年同期の23件から5件増え、増加率は約21.7%となる。
死亡・行方不明者も前年同期の10人から12人へ増加した。
県はこうした状況を受け、「水難事故注意報」を8月31日まで延長している。危険な場所に近づかないこと、飲酒後や睡眠不足、疲労時には水に入らないこと、子どもから目を離さないこと、悪天候時には水場に近づかないことなどを呼びかけている。
「今年は水難事故が多いように感じる」という印象は、少なくとも静岡については数字にも表れている。
岐阜も28件で前年同期より5件増 死者17人
川のレジャーが多い岐阜県も同様だ。
7月30日時点の水難事故は28件で、前年同期より5件多い。こちらも前年23件から約21.7%増となる。死者はすでに17人に上っている。
さらに7月末までに水難に遭った人は31人で、前年より6人増えた。岐阜県内では板取川などで事故が相次いでおり、警察などがライフジャケット着用や無理な行動を控えるよう注意喚起を続けている。
静岡と岐阜では集計基準日の細かな違いはあるものの、いずれも前年同期より5件増え、約2割増という状況だ。
ただし、2026年夏期の全国集計はまだまとまっていない。このため現時点で「全国で水難事故が2割増」とすることはできない。
言えるのは、東海の一部地域ですでに前年を明確に上回っているということだ。
8月8日、愛知では海と川で相次いで死亡
直近の事故も重い。
8月8日午前、愛知県田原市赤羽根町の太平洋ロングビーチで、家族と訪れてサーフィンをしていた岡崎市の46歳男性が溺れ、その後死亡した。警察が事故の原因を調べている。
同じ8日、東栄町振草の鴨山川では、川を渡ろうとして溺れた小学6年の息子を助けようとした40歳の父親が自身も溺れ、搬送先の病院で死亡した。息子は母親に救助され無事だった。現場は川幅約10メートル、水深約2メートルだったという。
さらに9日には、静岡県牧之原市の静波海水浴場で、親族と海水浴に訪れていた19歳のベトナム国籍の男性が死亡した。
事故の原因や状況はそれぞれ異なる。
だからこそ注意したい。
水難事故は、「泳げない人だけ」が遭うものではない。
「泳げる」と「自然の水の中で安全」は別物
プールで25メートル、50メートルを泳げる。
学生時代に水泳をしていた。
毎年海へ行っている。
釣りやサーフィンの経験がある。
こうした経験は、水辺での安全を保証するものではない。
海には波、高波、離岸流、風、急な水深変化がある。川には流速、複雑な流れ、急な深み、滑りやすい川底、増水などがある。
警察庁も、水難事故を防ぐには海や河川それぞれの自然環境の特徴を理解する必要があるとし、離岸流や高波の恐れがある場合には海に入らないこと、河川では上流の降雨を含む増水の危険を確認すること、体調不良時や飲酒時には水に入らないことなどを挙げている。
国土交通省も、川では一見浅そうに見えても突然深くなる場所や、足元をすくわれる流れがあるとして、ライフジャケットの着用を強く呼びかけている。流れのある川では、人が単純に「浮いている」こと自体が難しくなる場合もある。
つまり、水泳能力と水難事故を回避する能力は同じではない。
自然の力が、人間の泳力を上回ることがある。
昨夏は全国で241人が死亡・行方不明 海と川で大半
警察庁によると、2025年7~8月の全国の水難事故は446件、水難者は535人、このうち死者・行方不明者は241人だった。
水難者535人の発生場所を見ると、海が288人で53.8%、河川が187人で35.0%。死者・行方不明者では海が114人、河川が94人だった。
海と川だけで、夏期の死者・行方不明者の大部分を占めている。
警察庁が大人にも子どもにもライフジャケット着用を求めているのは、そのためだ。
家族が溺れた―その瞬間、自分も飛び込む危険
今回の東栄町の事故は、家族で水辺を訪れる人にとって特に重く受け止めたい事例でもある。
目の前で子どもや家族が溺れたら、助けたいと思うのは当然だ。
しかし、救助しようと水に入った人まで溺れる二次的な事故は起こり得る。
水に飛び込むことだけが救助ではない。
周囲へ助けを求める。119番や110番に通報する。海であれば118番へ連絡する。浮き輪や救命具など、浮く物を投げ渡せる状況なら利用する。
救助する側まで流されれば、救助を必要とする人が増えてしまう。
「助けたい」という判断と「自分が水に飛び込む」という行動は、分けて考える必要がある。
お盆本番前に確認してほしい7つのこと
水辺へ出かける前に、家族や同行者で最低限確認したい。
- 海・川へ行く前に天候、波、風、河川の水位や上流の雨を確認する
- 遊泳禁止区域、立入禁止区域には入らない
- 川遊びや釣りでは大人も子どもも適切なライフジャケットを着用する
- 飲酒後、睡眠不足、疲労、体調不良時には水に入らない
- 子どもだけで水辺へ行かせず、大人は目を離さない
- 流されたサンダル、浮き輪、釣り具などを無理に取りに行かない
- 波が高い、流れが速い、少し怖いと感じたら「今日は入らない」と判断する
国や自治体が繰り返している対策の多くは、特殊な技術ではない。「危険なら近づかない」「ライフジャケットを使う」「体調が悪ければ入らない」という基本的な行動だ。
問題は、その基本を「自分だけは大丈夫」と省略してしまうことにある。
海も川も怖がる必要はない ただし、なめてはいけない
夏の海や川には、そこでしか味わえない楽しさがある。
水辺そのものを避けるべきだという話ではない。
必要なのは、自然を自分より弱いものだと思わないことだ。
泳げるから大丈夫。
浅いから大丈夫。
昨日まで晴れていたから大丈夫。
毎年来ている場所だから大丈夫。
子どものすぐ近くにいるから大丈夫。
そうした「大丈夫」が重なった先に、事故が起こる可能性がある。
静岡、岐阜ではすでに前年同期を約2割上回る水難事故が確認されている。そして愛知、静岡では8月に入ってからも死亡事故が続いている。
まだ8月9日だ。
お盆のレジャーシーズンは、これから本番を迎える。
海も川も、甘く見てはいけない。
泳げる人ほど過信しない。
危険を感じたら入らない。
そして、ライフジャケットを「念のため」ではなく、命を守る装備として考える。
楽しい夏を、悲しい記憶に変えないために。
水辺へ向かう前の数分間、そして水に入る前の数秒間の判断を大切にしてほしい。
編集部まとめ
2026年の水難事故について、現時点では全国の夏期集計が出ていないため、「全国的に2割増」と断定することはできない。
一方、静岡県は7月26日までに28件で前年同期23件から約21.7%増、岐阜県も7月30日時点で28件と前年同期より5件増えており、両県では明確な増加が確認されている。
お盆本番を前に重要なのは、事故件数を怖がることではなく、行動を変えることだ。
「泳げるから」ではなく、「今日は安全か」。
その判断を最優先にしてほしい。
週刊TAKAPI編集部/成田
特記事項
本記事は2026年8月9日時点で確認できた静岡県、警察庁、国土交通省などの公的資料、および各地域の報道を照合して構成しています。
静岡県・岐阜県の前年同期比は、それぞれ確認された28件と前年23件から算出した約21.7%です。両県で集計基準日などが完全に同一ではないため、「東海地方全体で約2割増」とは表現せず、「静岡・岐阜で約2割増」としています。
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