豊橋鉄道が、渥美線と東田本線(市内線)の旅客運賃を改定する方針を示している。申請通り認可されれば、2027年5月から市内線の普通運賃は現在の200円から230円となる。
注目されるのは、その時期だ。豊橋鉄道は2024年3月にも運賃を改定している。今回の改定が実施されれば、わずか約3年で再び利用者の負担が増えることになる。
なぜ、再値上げが必要なのか。
週刊TAKAPI編集部は豊橋鉄道に独自取材し、今回の運賃改定について質問した。同社広報担当から返ってきたのは、個別の質問への詳しい説明ではなく、公表資料を確認してほしいという回答だった。
そこで編集部は、豊橋鉄道が国土交通省中部運輸局に提出した運賃改定申請の公表資料を改めて精査した。
数字から見えてきたのは、単なる「物価高」だけではない。老朽化する鉄道設備への大型投資、増加する維持管理費、大幅な利用者増を期待できない事業環境、そして運賃を引き上げてもなお赤字が残る厳しい収支見通しだった。
市内線200円から230円へ 渥美線も値上げ
豊橋鉄道が申請した改定内容では、渥美線の普通旅客運賃は現在の170~550円から190~580円となり、平均改定率は11.4%。
市内線は現在の一律200円から230円となり、平均改定率は15.0%となる。
改定予定時期は2027年5月だ。
一方、通学利用者への配慮として、通学6カ月定期については長期利用による割引率を現在の10%から12%へ拡大するとしている。
【独自取材】値上げ理由を豊橋鉄道に聞いた
週刊TAKAPI編集部は今回の運賃改定を受け、豊橋鉄道に質問事項を送り、値上げの背景などについて取材した。
これに対し、同社広報担当は、
「お問い合わせいただきました質問事項につきましては、弊社より発表しておりますプレスリリース資料等に記載の内容がすべてとなりますので、ご確認いただきますようお願いいたします」
と回答した。
編集部の個別質問に対する具体的な追加説明は示されなかった。
では、その「公表資料」には何が書かれているのか。
豊鉄が挙げる理由 人口減少だけではなかった
豊橋鉄道は今回の申請理由として、少子高齢化や人口減少による社会構造の変化、生活様式の変化などに加え、安全運行を維持するための設備の老朽化を挙げている。
国や自治体の補助制度を活用しながら設備更新を進めてきたものの、維持管理費や原材料費などが上昇。今後についても利用者数の大幅な増加を見込むことが難しく、企業努力だけで費用増加を吸収することが困難になっているという。
つまり、「乗客が急激に減ったから値上げする」という単純な構図ではない。
利用者の大幅増による収入増が期待できない一方、鉄道を維持するために必要な支出が増えているというのが、豊鉄側の説明だ。
2027年度の設備投資「11億2900万円」
資料の中でも目を引くのが、今後予定されている設備投資だ。
豊橋鉄道の計画では、鉄軌道事業の設備投資額は2025年度が3億2600万円、2026年度が4億5500万円。それが、運賃改定を予定する2027年度には11億2900万円へ急増する。
その後も2028年度9億2700万円、2029年度9億3900万円、2030年度8億4000万円を予定している。
2027年度だけを見ると、前年度の約2.5倍にあたる規模だ。
同年度の11億2900万円のうち、安全対策関連には8億9300万円、サービス関連には2億3600万円を投じる計画となっている。
製造から約60年 渥美線1800形も更新対象
では、何にそれほどの資金が必要なのか。
渥美線では、レールや分岐器、道床砕石、木製電柱などの更新が予定されている。
さらに大きいのが車両だ。
渥美線で使用する1800形について、豊橋鉄道は「まもなく製造後60年」を迎えるとして、制御装置や補助電源装置、ATS受信装置などの更新・改修を予定している。
市内線についても、レールの重軌条化や軌道敷の舗装改修、連接軌道化のほか、800形、T1000形の制御装置や補助電源装置などの更新・予防保全を進める。
今回の値上げの背景には、こうした老朽設備を維持・更新していくための費用負担がある。
IC改札導入、人材確保にも投資
値上げによって確保する収入は、安全設備だけに使われるわけではない。
2011年に導入したICカード関連機器を順次更新し、2027年度には渥美線にIC専用改札機を新たに導入する計画も示されている。
また、鉄軌道事業に携わる係員を安定的に確保するため、従業員の待遇や職場環境の改善にも取り組むとしている。
つまり今回の運賃改定には、安全設備の更新、老朽車両への対応、サービス設備、人材確保という複数の要素が絡んでいる。
すでに渥美線、市内線とも赤字
収支を見ると、豊橋鉄道が置かれている状況がさらに分かる。
2025年度実績では、渥美線の収入は13億186万円に対し、支出は13億1456万6000円。差し引き1270万4000円の赤字で、収支率は99.0%だった。
市内線はさらに厳しい。
収入4億6895万5000円に対し、支出は5億1159万8000円。4264万3000円の赤字で、収支率は91.7%となっている。
両路線とも、現時点ですでに支出が収入を上回っている。
値上げしても「赤字」はなくならない
今回の資料で特に注目したいのが、運賃改定後の収支予測だ。
豊鉄は2028~2030年度の3年間について、現行運賃を維持した場合と申請運賃を適用した場合をそれぞれ試算している。
渥美線では、現行運賃のままなら3年間で約9億2870万円の赤字となる見込みだ。運賃を改定しても、赤字は約5億104万円残る。
市内線も、現行運賃なら約4億8927万円の赤字。改定後でも約3億1684万円の赤字が見込まれている。
つまり、今回の値上げは「値上げによって鉄道事業を黒字化する」という計画ではない。
豊鉄自身の試算でも、値上げ後なお赤字が続くことを前提としている。
運賃改定によって収支悪化をどこまで抑え、鉄道の維持に必要な資金を確保するかという性格が強い。
編集部試算、値上げによる増収は3年間で約6億円
豊鉄が示した2028~2030年度の運賃収入予測を週刊TAKAPI編集部が比較すると、運賃改定による増収効果も見えてくる。
渥美線では3年間で約4億2800万円、市内線では約1億7200万円の増収となり、両路線を合わせると約6億円の増収になる計算だ。
それだけの増収を確保してもなお、鉄軌道事業には赤字が残る見通しとなっている。
それでも残った「なぜ3年で再値上げ?」
一方、公表資料を読み込んでも分からないことがある。
今回の申請理由として原材料費や維持管理費の上昇などが示されているものの、2024年の前回運賃改定以降、原材料費、電力費、人件費がそれぞれ具体的にどれだけ増加したのかまでは、今回確認した公表資料からは明確ではない。
また、前回の運賃改定によってどの程度の増収効果があったのか、2024年当時に想定していた将来収支と現在の実績にどの程度の乖離が生じているのかも、今回の再値上げを検証するうえで重要になる。
今回の運賃改定によって生まれる増収分を、安全設備、車両、サービス、人材確保などへ具体的にどう配分するのかという点も、公表資料だけでは全容を把握できない。
前回改定から約3年 問われる利用者への説明
今回の公表資料から、豊橋鉄道が設備の老朽化や維持管理費の増加、大型設備投資、人材確保など複数の課題を抱えていることは確認できる。
そして、運賃を引き上げてもなお赤字が残るという厳しい収支予測も示されている。
一方で、利用者から見れば2024年に続く短期間での再値上げとなる。
「なぜ前回の値上げから約3年で、再び値上げが必要になったのか」
その理由をより詳細に検証するには、前回改定時に豊鉄が描いていた収支計画と、その後の実績を比較する必要がある。
豊橋鉄道の運賃値上げに関するQ&A
週刊TAKAPI編集部では、2024年の前回運賃改定時の資料も含め、今回の再値上げに至った経緯について引き続き取材・検証する。
担当記者 黒木
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