法律はある、それでも子どもは守られない――「疑いで動け」から13年、学校と文科省は何をしてきたのか

学校だけではない 文科省は「通知」の先まで見ているか

この問題を学校現場だけの責任にしてしまえば、不十分だ。

文科省は、いじめ防止対策推進法の施行以降、基本方針やガイドラインを整え、重大事態への対応について全国の学校や教育委員会へ何度も通知してきた。

2024年には重大事態ガイドラインを改訂した。

その後も「平時からの備え」「組織的対応」「疑いの段階からの対応」を繰り返し求めている。

にもかかわらず、2026年に文科省自身が行った全国点検では、基本的な備えが100%に達していない項目が残った。

自己回答の段階でも、全国一律には整っていない

文科省が全国の学校・学校設置者へ行った調査では、「備えができている」と回答した割合は、学校いじめ防止基本方針を毎年度、児童生徒や保護者へ説明している学校が92.0%。

いじめ情報を統一したフォーマットなどで記録する体制がある学校は90.6%。

犯罪行為に相当し得るいじめについて、警察へ相談・通報する方針を保護者に事前周知している学校は89.5%だった。

学校設置者では、保護者との情報共有が必要な際に、設置者が直接説明や調整を行える体制が89.6%。

首長部局や医療機関などと連携し、迅速に支援へつなげる体制は77.6%。

重大事態発生時の手順を事前に明確化し、学校へ示している設置者は86.6%だった。

注意が必要なのは、これが文科省による現地確認の結果ではなく、学校や設置者自身が「できている」と回答した割合だという点だ。

その自己回答の段階でも、100%には届いていない。

いじめ防止対策推進法の施行からまもなく13年。

しかも、重大事態は子どもの生命や心身への深刻な被害を扱う制度である。

全国平均で多くの学校が対応できているというだけでは、十分だとは言い切れない。

被害児童生徒にとっては、自分の学校が「できていない側」に入れば、全国平均の高さは救いにならないからだ。

杉並区 12件の重大事態のうち9件が調査中

対応の遅れについて、行政側が自ら認めた例もある。

杉並区は2026年4月、いじめ重大事態への対応について公式見解を公表した。

区によると、2015年以降の重大事態12件のうち、2026年4月1日時点で対応を終えていたのは3件で、9件は調査中だった。

教育委員会は、重大事態の認定やその後の調査に時間を要した事案があったことについて反省を表明し、区長も被害を受けた子どもや家族に謝罪した。

もちろん、重大事態調査には慎重さが必要だ。

関係児童生徒への聞き取りや、第三者委員の選定などに時間を要する事情もある。

それでも、時間はいくらかかってもいいということにはならない。

子どもの学校生活には限りがある。

小学校は6年間。

中学校は3年間。

高校も3年間。

行政が調査を続けている間にも、進級や卒業はやってくる。

行政手続きに流れる時間と、子どもの学校生活に流れる時間は同じではない。

札幌市 過去の案件を改めて洗い直すことに

札幌市では2026年、過去のいじめ事案を点検した結果、重大事態として調査すべきだった可能性について、さらに確認が必要な案件が複数浮上した。

その後、一部については重大事態として改めて調査することになった。

市長自身も、いじめ防止対策推進法への認識が十分ではなかった可能性や、学校が判断に迷ったときの相談体制について言及している。

法律施行から10年以上が経過した後になって、

「あの案件も、本来は重大事態として扱うべきだったのではないか」

と過去を点検し直す。

その間に失われた時間は戻らない。

文科省は「通知した」で責任を終えられるのか

文科省が問題を認識していないわけではない。

2026年にも、法、基本方針、ガイドラインに沿った対応ができず、児童生徒に深刻な被害を与える事態が依然として生じている趣旨を示している。

だからこそ、再び通知を出し、

疑いの段階から重大事態として扱うこと。

組織的に情報共有すること。

記録を残すこと。

保護者へ説明すること。

そうした対応を求めている。

全国共通のルールを示す通知そのものは必要だ。

地方自治体や学校には、それぞれの権限と責任もある。文科省が全国の学校を直接運営しているわけではない。

それでも、次の問いは避けられない。

何度「徹底」を求めれば、本当に徹底されたと言えるのか。

通知を出した。

研修資料を配った。

チェックリストを作った。

そこで国の役割は終わるのか。

2026年の自己点検でも、重大事態発生時の手順を学校へ示している設置者は86.6%。

首長部局や医療機関などとの連携体制は77.6%だった。

国自身が未整備の存在を確認しているのであれば、その次に必要なのは、

どこができていないのか。

なぜできていないのか。

いつ改善するのか。

そして、本当に改善されたのか。

そこまで追うことではないか。

「通知した」という事実と、「現場で機能した」という事実は同じではない。

子どもにとって重要なのは「いつ動いたか」

学校側には、

「いじめとして認知していた」

「校内で共有していた」

「解消に向けて対応していた」

「重大事態かどうか検討していた」

という説明があるかもしれない。

教育委員会にも、

「学校へ指導した」

「第三者委員会を設置した」

「現在調査している」

という説明がある。

文科省も、

「ガイドラインを示した」

「全国へ通知した」

「徹底を求めた」

と説明できる。

しかし、被害を受けた子どもの時間は、行政の説明では戻らない。

学校へ行けなかった1日。

調査開始を待った1カ月。

事実関係の確認を待つ間に迎えた進級や卒業。

それらは後から取り戻せない。

だから重大事態制度は、すべてが確定するまで待つのではなく、「疑い」で動く仕組みになっている。

にもかかわらず、被害児童生徒や保護者が法律を調べ、ガイドラインを読み、証拠を整理し、情報公開請求を行い、SNSで外部へ訴えなければ十分に動かないケースがあるのであれば、その制度が本当に子どもの側に立っているのかは改めて問われる。

学校には問う。

情報を得たとき、本当に組織として動いたのか。

教育委員会には問う。

学校任せにせず、子どもを守るために必要な介入を行ったのか。

文部科学省にも問う。

法律施行からまもなく13年。いつまで同じ「徹底」を繰り返すのか。

制度の存在だけでは意味がない。

子どもが苦しんでいた、その時点で制度が動いたかどうかが問われる。

週刊TAKAPIでは今後、全国の重大事態調査報告書について、保護者が最初に被害を訴えた日、学校がいじめを認知した日、重大事態として判断した日、設置者・首長へ報告した日、第三者調査を開始した日を可能な限り確認していく。

見るのは、「対応したか」ではない。

いつ動いたのか。

その時間軸を追わなければ、いじめ重大事態制度が実際に子どもを守っているのかは見えてこない。

担当記者:鈴木