全国の学校で確認されたいじめの「重大事態」が、過去最多となる1,405件に達した。
その数字以上に注目すべきデータがある。
文部科学省の調査によると、この1,405件のうち、重大な被害を把握する以前から学校側が「いじめ」として認知していたのは915件だった。
差し引き490件。全体の34.9%にあたる。
文科省も別の通知で、この状況について「約4割が重大事態に至るまでにいじめとして認知できていない」と表現している。
子どもに重大な被害が生じる前の段階で、学校はどこまで異変を把握できていたのか。
週刊TAKAPIは今回から「いじめ重大事態を追う」と題し、文科省の一次資料や各自治体の重大事態調査報告書などをもとに、学校と教育委員会によるいじめ対応を検証する。
重大事態は1,405件、過去最多
文科省が公表した令和6年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、小・中・高校、特別支援学校におけるいじめの認知件数は約76万9千件となり、過去最多となった。
いじめ防止対策推進法に基づく重大事態も1,405件で過去最多。前年度の1,306件から99件増え、増加率は7.6%だった。
「重大事態」とは、単に学校内で問題になったいじめを意味するものではない。
いじめ防止対策推進法28条は、いじめによって児童生徒の生命、心身または財産に重大な被害が生じた疑いがある場合や、相当の期間、学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある場合を重大事態と位置付けている。
法律はこうした場合、学校または学校設置者に対し、速やかに組織を設け、事実関係を明らかにするための調査を行うよう求めている。
重要なのは、被害が完全に確認された後ではない。
文科省は重大事態について、事実関係が確定してから対応を始めるのではなく、重大事態の「疑い」が生じた段階で調査を開始しなければならないとの考えを明確にしている。
1,405件のうち、事前に認知していたのは915件
今回の調査で明らかになったのが、重大な被害を把握する以前の学校側の対応だ。
文科省によると、重大事態1,405件のうち、重大な被害を把握する以前から「いじめとして認知していた」ものは915件にとどまった。
つまり、残る490件では、重大な被害が把握される以前にはいじめとして認知されていなかったことになる。
文科省は2025年12月の通知でも、1,405件の「約4割」が重大事態に至るまでにいじめとして認知できていないと指摘。「いじめを認知した時点で既に重大事態に陥っているケースもある」としている。
ただし、この490件という数字だけから「学校がいじめを隠していた」「すべて学校側の見落としだった」と結論付けることはできない。
学校では把握することが難しいSNS上の行為や、児童生徒が周囲に被害を伝えていなかったケースなども考えられるからだ。
それでも文科省自身が、重大事態に至る前の積極的ないじめ認知、早期発見・早期対応、継続的な見守りを改めて求めている事実は重い。
「いじめ」と認知することが対応の出発点
いじめ防止対策推進法では、いじめの判断に当たり、学校側が行為の悪質性だけで判断する制度にはなっていない。
そして、重大事態への対応では、児童生徒や保護者からの申立ても重要になる。
文科省の重大事態ガイドラインは、児童生徒や保護者から重大事態の申立てがあった場合、法の要件に照らして重大事態に当たらないことが明らかな場合を除き、重大事態が発生したものとして報告・調査を行う必要があるとしている。
単に調査でいじめの事実を確認できなかったというだけでは、「重大事態ではない」とするには足りないともしている。
これは非常に重要なルールだ。
学校側が当初、「けんかだった」「人間関係のトラブルだった」「いじめとは確認できない」と考えていたとしても、それだけで重大事態調査をしなくてよいことにはならない。
学校が把握できていない家庭での子どもの変化について、保護者からの申立てが重大事態を把握する端緒になる可能性があるためだ。
文科省「法やガイドラインに沿えず深刻な被害」
さらに踏み込んだ記述もある。
文科省は令和6年度調査を踏まえた通知で、近年の重大事態増加について、依然として法や基本方針、ガイドラインなどに沿った対応ができていなかったため、児童生徒に深刻な被害を与える事態が発生しているとしている。
国がルールを示していないわけではない。
いじめ防止対策推進法は2013年に施行され、文科省は重大事態の調査ガイドラインを策定。2024年8月にはガイドラインを改訂し、重大事態発生後の調査だけではなく、平時からの備えについても整理した。
それでも重大事態は1,405件まで増えた。
一方で、この「増加」をそのまま学校現場の悪化とみなすことにも注意が必要だ。
文科省は、重大事態について「限りなく件数を0に近づけるべき」とする一方、本来重大事態として扱うべきものは適切に取り上げる必要があるとしている。
これまで重大事態として扱われてこなかった案件が、法やガイドラインに沿って適切に認定されるようになった結果、件数が増える側面もある。
したがって問うべきなのは、単純な「重大事態の多い・少ない」ではない。
問われるのは「重大化する前」の対応
1,405件という過去最多の数字の裏で、490件は重大な被害が把握される以前にはいじめとして認知されていなかった。
逆に、915件については、学校側がすでにいじめを認知していたにもかかわらず、その後重大事態に至ったことになる。
ここにも、別の検証すべき問題が残る。
「認知できなかった事案」だけではなく、
認知していたのに、なぜ重大事態まで進んだのか。
いじめを認知した後、学校はどのような対応を取ったのか。被害児童生徒への聞き取り、加害側への指導、保護者との情報共有、教育委員会への報告、継続的な見守りは機能していたのか。
重大事態の発生件数だけを追っていては見えてこない問題だ。
国の制度と、学校・地方自治体での実際の運用との間に、どのような隔たりがあるのか。
週刊TAKAPIでは今後、全国の自治体が公表している重大事態調査報告書や再調査報告書、教育委員会の対応などを確認し、重大事態に至るまでの学校の初動や、調査開始までの経緯を追っていく。
次回は、児童生徒や保護者から「重大事態ではないか」と申立てがあった場合、学校や教育委員会はどこまで調査しなければならないのか。「重大事態を誰が判断するのか」を検証する。
担当記者:鈴木

コメント
0件まだコメントはありません。最初のコメントを投稿してみませんか。