海の危険性を具体的に説明せず
引率教員は「無理をしない」「単独行動をしない」といった注意をしていました。
しかし詳細調査委員会は、それだけでは十分ではなかったとしています。
本来は、
海とプールの違い。
波や潮流の危険性。
どの位置から足が着かなくなるのか。
少しでも危険を感じた場合には岸へ戻ること。
こうした具体的な危険を、生徒全員に十分説明する必要があったと指摘しました。
報告書は、適切な危険認識と説明があれば、事故を防ぐことができた可能性があったとしています。
引率2人で17人 生徒の位置を十分把握できず
監視体制についても問題が指摘されています。
海水浴開始後、引率教員の1人は主にテント付近で、生徒のスマートフォンなどの荷物を管理していました。
もう1人の教員は海水浴開始から約10分後にビーチへ到着しました。
生徒が複数のグループに分かれていること自体は把握していましたが、それぞれの生徒がどこにいるのかを正確には確認できていませんでした。
多数の海水浴客がいる中で、17人の生徒を継続的に監視することは困難な状態だったとされています。
「単独行動をしない」という注意も、海へ入った後には徹底できていませんでした。
なぜ事故は起きたのか 教員2人の判断だけでは説明できない
今回の報告書で最も重要なのは、事故原因を「当日の引率教員2人の判断ミス」だけに限定していない点です。
詳細調査委員会は、事故の背景として、
フランス語科内の情報共有。
海外研修の安全管理。
学校全体の安全教育。
危機管理体制。
管理職による確認。
こうした複数の組織的問題を挙げています。
事故当日の判断に至るまでに、危険を予測し、情報を共有し、安全な活動内容に変更する仕組みそのものが十分に機能していなかったと評価した形です。
過去のトラブルやヒヤリハットが体系的に共有されず
過去のフランス語研修では、複数のトラブルやヒヤリハットが発生していました。
しかし、次に研修を担当する教員へ体系的に情報を引き継ぐ仕組みは十分ではありませんでした。
2023年の研修では市バス同士の衝突事故にも遭遇していましたが、この経験も今回の引率教員2人へ、留意事項や安全上のリスクとして体系的に共有されたとは認定されていません。
詳細調査委員会は、事故やヒヤリハットを個々の教員だけの経験にせず、学校全体で共有する仕組みを作るよう求めています。
重大事故がなかったことで危険予測の意識が薄れた可能性
報告書は、過去に重大事故が起きてこなかったことにも着目しています。
過去のフランス語研修でも、生徒が海水浴をしたり、浮き島まで泳いだりすることがありました。
それでも長年、重大事故は起きませんでした。
しかし詳細調査委員会は、それを「安全だった証拠」とは評価していません。
大きな事故が起きなかったことで、危険性への認識が薄れ、具体的なリスクを予測して事故を防ぐ意識が十分形成されないまま、従来の活動が続けられてきたと指摘しています。
「これまで大丈夫だった」という経験が、安全性を保証するものではなかったということです。
学校安全計画を策定せず 危機管理マニュアルも不十分
さらに重要なのが、学校全体の安全管理体制です。
詳細調査委員会は、事故当時の暁星高校では学校安全計画が策定されておらず、危機管理マニュアルについても十分な内容が整備されていなかったと認定しました。
安全教育や安全管理を横断的に統括する部署もなく、教職員への危機管理研修、生徒への体系的な安全教育についても限定的だったとしています。
学校保健安全法では、学校に対し学校安全計画の策定・実施や、危険発生時の対応を定める危機管理マニュアルの整備が求められています。
報告書は、事故当時の暁星高校では、こうした基本的な安全管理体制の整備自体が十分ではなかったと評価しています。
語学研修の安全管理 フランス語科・引率教員への依存を指摘
報告書からは、海外研修の安全管理が特定の教科や担当者に依存していた問題も浮かびます。
暁星学園では長年、フランス語研修などの語学研修が、学校全体の教育活動でありながら、実際の運営はフランス語科や英語科を中心に行われてきたとされています。
2025年の研修は学校主催の形に変更されていましたが、実態としてはフランス語科や引率教員に安全管理が依存する構造が十分に改められていなかったと報告書は指摘しています。
管理職についても、研修計画を事故防止の観点から全行程にわたり具体的に確認することなく了承していたとされています。
つまり、「海外研修の安全を最終的に誰が責任を持って確認するのか」という組織上の役割分担が十分明確ではなかったことになります。
ライフセーバー、救命具、遊泳区域 再発防止策を具体的に提言
詳細調査委員会は、再発防止策として学校安全計画と危機管理マニュアルの策定・運用を求めています。
さらに、
安全管理を横断的に統括する組織の設置。
校長・教頭を含む全教職員への危機管理研修。
事故やヒヤリハット情報の全学的共有。
海外研修前の現地下見。
現地関係者からの危険情報収集。
緊急時に生徒を救助できる体制の確保。
などを提言しています。
海水浴など水辺の活動については、教員だけでは救助が難しい場所を避け、ライフセーバーが配置されているビーチを選ぶことや、ライフジャケットなどの浮き具を使用させること、教員が確実に救助できる範囲へ遊泳区域を限定することなども求めました。
危険を十分に低減できない場合には、その活動自体を中止する判断も必要だとしています。
学園「本法人に全ての責任」 6月に安全委員会設置
学校法人暁星学園は2025年11月5日、遺族の要望も踏まえて詳細調査委員会を設置しました。
委員会は2026年4月30日付で報告書をまとめ、学園が受領しました。
その後、遺族との協議を経て、10月3日に65ページの公表版全文を公開しました。
学園は事故について、
「本法人の危機管理意識、危機管理体制が不十分だった」
との認識を示し、
「本件事故は本法人に全ての責任がございます」
と表明しています。
学園は2026年6月、安全委員会を設置したとしています。
引率教員や管理職の処分は公表されず
一方、10月3日に公表された学園の説明や詳細調査報告書からは、引率教員2人や校長、管理職などに対し、懲戒処分や人事上の措置を行ったのかは確認できません。
事故原因や再発防止策については詳細に示されましたが、組織内部で責任をどのように整理したのかについて、公表されていない部分が残っています。
また、今回確認した公表資料では、この事故をめぐり新たな逮捕、送検、起訴などの刑事手続きが行われたことも確認されていません。
東京都を通じ文部科学省への提出求める
詳細調査委員会は、今回の報告書について、東京都の私学行政担当部署を通じて文部科学省へ提出する必要があるとしています。
現時点で、実際にいつ提出されたのか、東京都や文部科学省がどのような確認や指導を行ったのかについては、公表資料から確認できていません。
問われるのは「制度を作った後、実際に機能するか」
65ページの詳細調査報告書は、事故原因だけでなく再発防止策も具体的に示しました。
しかし、学校安全計画や危機管理マニュアルを作成するだけで安全管理が完了するわけではありません。
詳細調査委員会も、整備した安全管理体制が長期的に形骸化せず、実際に機能しているかを継続的に確認する必要があると指摘しています。
今後確認が必要なのは、
安全委員会が何を決定したのか。
学校安全計画と危機管理マニュアルがいつ完成し、どのように運用されているのか。
海外研修の実施基準をどのように変更したのか。
水辺の活動でライフセーバー、救命具、遊泳区域などをどこまで必須化したのか。
そして、理事会などが再発防止策の履行状況をどのように検証していくのかです。
事故後に作られた制度が、次の教育活動で実際に機能するのか。
報告書公表後は、その実行状況が問われます。
編集部まとめ
暁星高校のフランス語語学研修中に高校1年の生徒が亡くなった事故について、公表された65ページの詳細調査報告書は、事故原因を引率教員2人だけの判断に限定していません。
事故当時の海は遊泳には危険性が高く、浮き島を目指した11人のうち複数の生徒が危険を感じて途中で引き返し、別の生徒も溺れかけていました。
引率教員は海の危険性を十分に認識せず、遊泳範囲や浮き島へ向かうかどうかを生徒側の判断に委ねる結果になりました。
さらにその背景には、過去のヒヤリハットを共有する仕組みの不足、海外研修の安全管理が担当教員に依存していたこと、学校安全計画が策定されていなかったことなど、学校全体の危機管理体制の問題がありました。
事故を防げなかった理由を考えるうえで重要なのは、事故当日の一つの判断だけではありません。
危険を予測し、過去の情報を共有し、必要なら活動を中止するという安全管理の仕組みそのものが、学校組織として十分に機能していなかった点です。
週刊TAKAPI 編集部
特記事項
本稿は2026年10月3日に学校法人暁星学園が公表した詳細調査報告書と学園の公式説明、学校安全制度に関する公表資料をもとに構成しています。
詳細調査報告書では、個人情報やプライバシー保護のため氏名などが非公表・加工されています。本稿でも亡くなった生徒や関係する生徒を特定する情報は掲載していません。
引率教員や管理職の懲戒・人事上の措置、刑事手続き、東京都・文部科学省への報告実績について、公表資料で確認できない事項は断定していません。
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