原因は「緊急措置入院」の過去事例を誤って参照
今回、複数の手続きが抜け落ちた直接の原因について、知多保健所は担当職員が参照した過去事例にあったと説明している。
担当職員は過去の案件を参考に手続きを進めたが、その事例は通常の措置入院ではなく、「緊急措置入院」のケースだった。
県公式発表によると、緊急措置入院は急速を要する場合、通常の措置入院とは異なり、書面申請や職員の診察立ち会い、家族等への診察日時・場所の通知といった手続きを採れない場合に認められる制度で、指定医1人の診察により72時間を限度として行われる。
知多保健所は、
「参考にした事例が緊急措置入院の事例だったことを担当職員が気付かず、それを参考に手続きをしてしまった」
と説明した。
通常の措置入院と緊急措置入院の手続きを取り違えたことが、今回の不備につながった。
決裁はあった それでも誤りを止められず
問題は担当職員だけで完結していたわけではない。
本紙が、担当職員以外による確認がなかったのか尋ねると、知多保健所は、組織内で決裁手続き自体は行われていたと説明した。
一方で、
「そこのところまで理解が足りなかったということも原因の一つ」
との認識を示した。
愛知県では、法律上は都道府県知事にある措置入院の権限を保健所側に委任しており、知多保健所の説明では、最終的に保健所長が決定する仕組みとなっている。
担当職員が制度を誤認しただけでなく、決裁・確認の過程でも不備を発見できなかったことになる。
県は現在、措置入院の手続きを必ず複数職員で確認する運用に変更している。県公式発表でも、複数職員による確認の徹底と、全保健所を対象とした研修を再発防止策としている。
家族への直接通知せず「病院から伝わる」と判断
法定手続きの一つである家族等への診察日時・場所の通知についても、取材で判断の経緯が明らかになった。
知多保健所によると、本来は保健所の県職員が家族等へ直接伝える必要があった。
しかし、実際には、
「病院の職員を通じて伝わるだろう」
と判断し、保健所職員から家族へ直接通知しなかったという。
この点は県公式発表でも、「病院職員に通知することで家族等に伝わると考え、家族等へ通知しなかった」とされている。
県は8月13日、本人と家族を訪問し謝罪した。
本人や家族の権利・手続保障に具体的にどのような影響が生じたと認識しているか尋ねると、知多保健所は、手続きが欠けていたことについて「大変申し訳なく思っている」と説明した。
一方で、権利への具体的な影響について法的な評価までは示さなかった。
家族について「了解いただいていると思っている」
本人や家族から抗議や説明要求があったのかについても確認した。
知多保健所は、8月13日に謝罪したことを説明した上で、
「ご了解いただいていると思っております」
との認識を示した。
県本庁も、本人・家族への謝罪後、了承を得た趣旨の説明をしている。
ただし、家族が今回の手続き不備について具体的にどのような意見を県側に伝えたのかについては明らかにされなかった。
過去の案件「同様のことはない」 一方、一斉点検は実施せず
同じ手続き不備が過去にもなかったのか。
知多保健所は、同保健所がこれまで扱った措置入院について、
「同様のことはございません」
と回答した。
一方、県本庁に県内の他保健所も含めた過去案件を遡って点検したのか尋ねると、県は同様のケースを把握していないと説明したものの、今回の問題を受けた過去案件の一斉遡及点検は行っていないとの回答だった。
つまり、県は現時点で同様事案を把握していないとしているが、今回を契機に全ての過去案件を再検証して確認したという意味ではない。
県は過去案件の一斉点検ではなく、県管轄の全保健所に対する研修などを再発防止策として進める。
不備発覚から公表まで67日 県「正確性の確認に時間」
手続き不備が判明したのは7月27日。
県が問題を公表したのは10月2日で、発覚から67日後だった。
なぜ公表まで約2カ月を要したのか。
知多保健所は、
「公表に関しては県の本庁と調整しながらやっていた」
と説明。
県本庁も、
「内部で確認等を行っており、正確性を確認するために多少時間がかかった」
と回答した。
8月13日には本人と家族への謝罪を終えていた。
その時点で公表を検討していたのか尋ねると、知多保健所は、公表時期については県本庁で進めていたとして、具体的な判断過程については説明しなかった。
県「法の手続きを十分理解していなかったことが問題」
県本庁にも、今回の問題をどのように受け止めているのか確認した。
県は、
「職員が法の手続きを十分に理解していなかったところが問題であると認識している」
と説明。
知多保健所だけでなく、県が管轄する保健所を対象に研修を行い、法定手続きについての知識を深め、適切な運用につなげる考えを示した。
県公式発表でも、全保健所を対象とした研修と法令遵守の徹底を再発防止策としている。
編集部まとめ
今回の問題で、県が10月2日に公表した事実だけでは見えなかった部分が取材で明らかになった。
最大の論点は、7月27日に手続き不備が発覚してから8月7日に措置入院を再決定するまでの11日間だ。
知多保健所は、この期間について「結果として措置入院ということではない」と説明した。
一方で、具体的にどの制度・法的根拠による入院だったのかは明示していない。
また、最初の措置入院決定について正式な取消しを行ったのかという問いにも、保健所は「手続きをやり直した」と説明するにとどまった。
再手続きまで11日を要した理由は県本庁との確認・調整。担当職員だけでなく決裁過程でも制度上の誤りを発見できなかった。
さらに、県は県内で同様事案を把握していないとしているが、今回を受けて過去の措置入院を一斉に遡及点検したわけではない。
本人の意思にかかわらず入院させる制度だからこそ、手続きが適正だったかどうかは形式的な問題ではない。
県が11日間の入院を法的にどう整理しているのか、最初の決定を行政上どう扱ったのか、過去案件の確認を今後行うのか。
週刊TAKAPI 編集部/成田
特記事項
この記事は、愛知県知多保健所および愛知県保健医療局への電話取材と、2026年10月2日に愛知県が公表した資料を基に構成しています。
県公表資料は最初の措置入院決定を「7月中旬」としています。録音の文字起こしには「10日」と読める箇所がありますが、音声認識上の揺れがあるため、本稿では公式に確認できる「7月中旬」を採用しました。
また、知多保健所の「結果として措置入院ということではない」との回答を掲載していますが、本稿は7月27日から8月7日までの入院が違法・無効だったと独自に法的判断するものではありません。
対象者や家族を特定する情報は記載していません。
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