週刊TAKAPI 独自取材|2026年10月15日
愛知県豊橋市は、消防団員を兼ねる市職員が勤務中の火災に対応するため、市役所から消防車で直接出動できる新たな体制を2026年10月1日から運用している。
対象は市役所本庁舎や近隣施設に勤務する消防団員15人。これまで出動時に自家用車の駐車場まで移動する必要があり、出動まで15~20分程度かかる場合があったが、新体制では5分以内の出動を見込む。
週刊TAKAPIは10月15日、豊橋市消防本部総務課に取材した。
取材では、導入費用が約500万円で国の補助金によって全額賄われることや、運用開始から現時点まで新体制による出動が1件もないことが明らかになった。
なぜ豊橋市は消防車を市役所に配置したのか? 背景に約1キロ離れた職員駐車場
今回の取り組みの背景には、市役所に勤務する消防団員が抱えていた出動上の課題がある。
豊橋市消防本部総務課によると、これまでも消防団員を兼ねる市職員は、勤務中に災害が発生した場合、可能な範囲で業務を中断して出動していた。
しかし、自家用車で通勤する職員の場合、車を止める駐車場が市役所本庁舎から約1キロ離れており、出動までに時間を要していたという。
豊橋市消防本部総務課は取材に対し、こうした状況について、円滑な出動が難しいという声が職員から上がっていたと説明した。
そこで豊橋市は、国の「消防団の力向上モデル事業」を活用。市役所本庁舎に隣接する公用車駐車場に消防車を配置し、対象となる消防団員が勤務先から直接出動できる環境を整備した。
出動まで15~20分から5分以内へ 実際にどれだけ早くなる?
新体制の大きな特徴は、出動準備に要する時間の短縮だ。
従来は、職員が市役所から離れた駐車場まで移動する必要があり、出動まで15~20分程度かかる場合があった。
新体制では、本庁舎に隣接する駐車場から消防車で出動するため、5分以内に出動できる見込みだという。
単純に比較すると、出動準備の段階で約10~15分の短縮が期待される。
ただし、これは実際の災害現場への到着時間を測定した結果ではない。
豊橋市消防本部総務課も、制度が始まったばかりで実績がないことを説明しており、実際に何分短縮できるかは今後の出動記録によって確認する必要がある。
市職員約4,000人のうち消防団員は39人 なぜ対象は15人なのか
豊橋市の職員は約4,000人で、このうち39人が消防団員として活動しているという。
しかし、39人全員が今回の新体制の対象となるわけではない。
消防団員を兼ねる職員の勤務先は市内各地に点在しており、本庁舎から離れた施設に勤務する職員もいるためだ。
今回の制度では、市役所本庁舎と、その近くにある上下水道局などに勤務する消防団員を対象としている。
遠方の施設から本庁舎まで移動して消防車に乗るのでは、出動時間を短縮するという制度本来の目的に合わない。
こうした理由から、対象者を15人に限定して運用している。
愛知県内初の特徴は「市役所分団」を新設しないこと 市内全域への出動に対応
今回の制度について、豊橋市は愛知県内初の取り組みとしている。
ただし、市役所に消防団の活動拠点を設ける仕組みそのものが、県内で初めてという意味ではない。
豊橋市消防本部総務課によると、他自治体には市役所の職員などで「市役所分団」を組織し、周辺地域の災害に対応する類似事例がある。
一方、豊橋市では新たな市役所分団を設置していない。
対象となる15人は、それぞれが従来所属していた消防分団の団員という立場を維持し、市役所から出動する。
そのため、市役所周辺だけでなく、各団員が所属する分団の管轄地域に応じて、市内全域が出動先となり得る仕組みだ。
豊橋市消防本部総務課は、このような形で既存の所属分団を維持しながら市役所から出動する仕組みについて、県内で同じ事例がないことを確認していると説明した。
つまり、県内初とされるのは、市役所に消防車を配置すること単独ではなく、既存の消防団組織を維持したまま直接出動する運用方式にある。
導入費用は約500万円 消防車は再利用、国の補助金で全額負担
週刊TAKAPIの取材では、今回の制度に必要となった導入費用も確認した。
豊橋市消防本部総務課によると、初期整備費用は総額約500万円。
消防車両については、従来使用していた車両を再利用するため、新たな車両購入費は発生していない。
一方、消防ポンプや消防団員の防火装備などを新たに整備した。
| 整備内容 | 費用・対応 |
|---|---|
| 消防車両 | 既存車両を再利用 |
| 消防ポンプ | 約200万円 |
| 防火服などの装備品 | 約200万円程度 |
| その他の整備費 | 総額との差額に含まれる |
| 導入費用総額 | 約500万円 |
| 国の補助率 | 100%(10分の10) |
※金額はいずれも電話取材で確認した概数。正式な費目別決算額ではない。
今回の整備には、国の「消防団の力向上モデル事業」が活用されている。
市がいったん費用を支出し、後から国の補助金を受ける仕組みで、豊橋市消防本部総務課は最終的に市の実質的な導入負担は発生しないと説明した。
来年度以降の維持費はどうなる?
新体制は来年度以降も継続する予定だが、取材時点では追加の予算措置を予定していないという。
装備品は対象人数に対して若干の余裕を持って購入しており、現状では新たな整備を必要としていない。
ただし、対象人数が増加した場合や装備品が破損した場合などには、追加の予算措置が必要になる可能性がある。
そのため、今後も一切費用がかからないという意味ではない。
勤務中に消防団へ出動したら給与はどうなる? 市民窓口への影響は?
消防団員を兼ねる市職員が勤務中に出動する場合、通常業務や給与がどのように扱われるのかも取材した。
豊橋市消防本部総務課によると、勤務中の消防団活動には「職務専念義務の免除」という制度を適用する。
地方公務員には、原則として勤務時間中は本来の職務に専念する義務がある。
一方、公益性のある消防団活動については、所定の手続きを経て、その義務を免除することができる。
今回の制度でも、職員が消防団員として出動する場合は、所属長の許可を得る必要がある。
市役所の通常業務が優先、出動は義務ではない
豊橋市消防本部総務課は、消防団員だからといって必ず出動しなければならないわけではないと説明した。
優先されるのは市役所の本来業務であり、業務の状況に応じて出動が可能な場合に活動する仕組みとなっている。
したがって、窓口業務などに支障がある場合は、出動しない判断も想定される。
給与は減額されず、消防団の報酬も支給
消防団活動のために職務専念義務が免除された場合でも、休暇扱いとはならず、市職員としての給与に影響はないという。
また、消防団員としての活動に対しては、消防団条例に基づく報酬が支給される。
豊橋市消防本部総務課は、市職員としての給与と消防団員としての報酬を受け取ることについて、法令上問題がない形で整理されていると説明した。
なお、長時間の出動についても、職務専念義務の免除に一律の時間制限は設けられていないという。
10月1日から運用開始も出動実績はゼロ件 効果の検証はこれから
今回の取材で明らかになった重要な点が、運用開始後の出動実績だ。
豊橋市では10月1日から新体制を運用しているが、10月15日の取材時点で、この制度を活用した出動は1件もないという。
市内では運用開始後にも火災が発生しているものの、新体制の出動には条件がある。
対象となるのは、原則として平日の午前8時30分から午後5時15分までの勤務時間中で、さらに対象職員が所属する消防分団の出動区域内で発生した火災だ。
これらの条件が重なる必要があるため、実際に出動する機会は限られる。
出動実績がゼロであることは、制度が機能していないことを意味するものではない。
一方で、現時点では実際の出動時間や現場到着時間を検証できていないことも事実だ。
年度末に国へ活動実績を報告する予定
豊橋市は、国の補助事業を活用していることから、年度末に活動実績などを報告する予定だという。
報告には、実施した活動や取り組みに対する評価などが含まれる見通しだ。
現段階では、市が出動実績を定期的に一般公表する予定はないものの、豊橋市消防本部総務課は必要に応じて情報を公表することは可能との認識を示した。
今後、実際の出動件数や時間短縮効果がどの程度確認されるかが注目される。
消防団員の担い手不足にも対応 豊橋市が掲げる2つの目的
豊橋市が今回の制度を導入した目的は、大きく2つある。
第一は、消防団員が迅速に災害現場へ向かえる環境を整え、地域の防災力や防火力の強化につなげることだ。
第二は、全国的な課題となっている消防団員の担い手不足への対応である。
豊橋市消防本部総務課は、消防団員が活動しやすい環境を行政が整備することも、担い手不足を改善するための一つの方法だとの考えを示した。
新体制を通じて消防団活動の環境が改善されたことを市民に知ってもらい、将来的に消防団に関心を持つ人が増えることにも期待しているという。
編集部の考察|「5分以内の出動」が地域の防災力向上につながるか
今回の制度で注目したいのは、消防車を新たに購入するのではなく、既存車両を再利用し、職員の勤務場所に合わせて出動体制を見直した点だ。
約500万円の初期費用を国の補助金で賄いながら、従来の消防団組織を維持する仕組みは、既存の人員や設備を活用する行政運営の一例といえる。
ただし、制度の評価は今後の実績に左右される。
また、今回の制度は勤務時間中の出動を支援するものであり、夜間や休日を含めた消防団活動全体の課題を解決するものではない。
市内のどの地域でも同じように時間短縮の効果が得られるかについても、実際の出動状況を確認する必要がある。
現時点で出動実績がゼロである以上、制度の導入そのものと、実際に防災力が向上したかどうかは分けて評価すべきだ。
年度末に予定されている国への報告は、その効果を検証する一つの機会となるだろう。
今回の対象者は、市役所の職員であると同時に消防団員でもあるという立場で活動する。
週刊TAKAPI 編集部/黒木
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