愛知県豊橋市の豊橋市民病院が、集中治療センター(ICU)の改修に向けて実施しているクラウドファンディングで、第一目標の1,000万円を達成した。病院は10月26日、第二目標を2,500万円に引き上げると発表。約4億円の改修事業に対し、地域住民らからの支援が広がっている。
一方、同院では今年、職員の懲戒免職や医師の逮捕、看護師による電子カルテの不適切閲覧などが相次いで明らかになった。特に患者の手術情報が第三者に伝えられた問題では、週刊TAKAPIの独自取材によって、病院が看護師本人の申告を受けて初めて事案を把握していたことが判明している。
寄付の広がりと、職員の不祥事は直接結び付くものではない。重症患者を受け入れる医療機能を守る必要性も変わらない。
しかし、患者が安心して治療を受けるためには、最新の設備だけでなく、個人情報が適切に守られることも欠かせない。地域の中核病院として、医療機能の充実と組織管理の改善をどう進めていくのか。
約1カ月で1,000万円達成 第二目標は2,500万円
豊橋市民病院がクラウドファンディングを始めたのは9月28日だった。
現在6床のICUを8床に増やし、患者の治療スペースを広げるほか、人工透析などの治療に全病床で対応できる環境を整える計画だ。
改修費は約4億円。第一目標に設定した1,000万円は全体の2.5%に相当し、必要額との差額は病院予算で補う方針となっている。
病院が公開した活動報告によると、寄付総額は10月9日に300万円、14日に500万円、19日には700万円に達した。その後も支援が続き、26日に第一目標を達成した。
10月27日に公式募集ページで確認した寄付総額は1,197万円。病院は引き続き12月18日まで寄付を募り、集まった資金を改修工事や医療機器の購入などに活用するという。
平松和洋院長は、第一目標達成を受けたメッセージで、これまでに救急やICUで治療を受けた患者らからの感謝や、医療従事者を気遣う声が寄せられていると説明した。
地域医療を維持してほしいという思いが、多くの人々の支援につながっている。
相次ぐ職員問題 患者情報の不適切閲覧も発覚
こうした支援が広がる一方、病院の職員管理を巡っては複数の問題が表面化している。
7月17日には、酒気帯び運転で免許を取り消された後も無免許運転を続けていた20代の女性看護師が懲戒免職となった。同月には、眼科の男性医師が性犯罪の疑いで逮捕されたことも病院側から公表された。なお、医師の刑事責任が確定したことを意味するものではない。
さらに10月14日には、別の20代女性看護師が知人の電子カルテを業務上の必要なく閲覧し、その手術情報を第三者に伝えていたとして戒告処分を受けた。管理監督職の女性2人も厳重注意となった。
それぞれの事案は内容も発生経緯も異なり、同じ組織的原因によるものと断定することはできない。
ただ、電子カルテの不適切閲覧は、患者が病院に預ける個人情報の保護に直接関わる問題だ。医療機関では、病気や治療内容、生活に関わる情報など、極めて私的な情報が日常的に取り扱われる。
職員が正規の権限を持っていたとしても、業務と関係のない目的で患者情報を閲覧することは許されない。
独自取材で判明 発覚のきっかけは本人の申告
週刊TAKAPIは10月、電子カルテの不適切閲覧について豊橋市人事課に独自取材し、病院が問題を把握するまでの経緯を確認した。
看護師が知人のカルテを閲覧したのは6月初旬。知人のSNS投稿から豊橋市民病院を受診したと推測し、業務上の必要がないにもかかわらず電子カルテを開いていた。
問題が発覚したのは約2カ月後の8月6日だった。
看護師が別件の面談で自ら申し出たことがきっかけとなり、病院はその後、アクセス記録を調べて閲覧の事実を確認した。
つまり、不適切な閲覧は、日常的なアクセス記録の点検によって発見されたものではなかった。
市人事課は取材に対し、すべての職員の閲覧について、担当患者の情報だったのか、業務上の必要性があったのかを個別に判断することは難しいとの認識を示した。
また、当該看護師によるほかの目的外閲覧については、本人への聞き取りで確認されなかったと説明した。ただし、過去のアクセス記録をどの期間まで調べ、どのように業務との照合を行ったのか、具体的な調査範囲は明らかになっていない。
病院は患者への連絡と謝罪を行い、院長名の通知や情報セキュリティ研修、看護師長らを通じた指導などを進めたという。
一方、本人の申告がなければ同様の行為を把握できたのかという疑問は残る。日常的な点検の頻度や目的外閲覧を早期に検知する具体的な仕組みについては、当時の取材では確認できなかった。
「信頼回復には時間」市人事課も認識
週刊TAKAPIの独自取材では、市人事課も、職員の不祥事が病院全体への信頼に影響することを認めている。
担当者は、多くの医師や看護師が地域住民のために勤務している一方、一つの不祥事によって病院全体の信頼が損なわれ、その回復には長い時間がかかる可能性があるとの認識を示した。
医療機関への信頼は、患者が安心して治療を受けるための基盤でもある。
手術や救急治療で病院に命を預ける患者は、医療技術だけでなく、自身の情報が職員によって適切に取り扱われることも当然の前提としている。
今回の電子カルテ問題では、アクセス履歴が保存されていたにもかかわらず、通常の点検では発覚しなかった。
院長名の通知や研修によって職員の意識を改めることは必要だが、それだけで同様の行為を早期に発見できるようになるとは限らない。
問題の発生を防ぐ仕組みと、万一発生した場合に検知する仕組みは、分けて考える必要がある。
病院がその後、アクセス履歴の点検方法をどのように見直したのか。研修や注意喚起以外に、具体的な管理方法の改善が行われているのか。
この点は、現在も確認すべき課題となっている。
ICUの改修と病院への信頼 どちらも欠かせない
豊橋市民病院は、東三河で高度な救急医療を担う重要な医療機関だ。
老朽化した設備を更新し、重症患者の受け入れ環境を改善することは、病院にとって必要な投資である。職員の不祥事があったことを理由に、ICUの改修そのものの必要性が失われるわけではない。
また、今回の職員の問題とクラウドファンディングの寄付金管理に直接的な関係があるとする事実も確認されていない。
ただし、寄付が集まっていることを、組織管理上の問題が解消された証拠とみなすこともできない。
平松院長はクラウドファンディングの募集ページで、地域住民が安心して医療を受けられる場所であり続けたいという考えを示している。
そのために必要なのは、救急医療を支える施設や医療機器の整備だけではない。
患者の個人情報を厳格に管理し、職員の不適切な行為を防止すること。そして、問題が発生した場合には、再発を防ぐために何を変更したのかを具体的に説明することも求められる。
病院への信頼がどの程度回復したのかを、寄付金額だけで測ることはできない。だからこそ、病院が示す再発防止策の内容と実施状況を継続して検証する必要がある。
第二目標2,500万円へ 資金使途と組織管理の説明
クラウドファンディングの第一目標を達成した豊橋市民病院は、第二目標の2,500万円に向けて募集を続けている。
新たな目標額は、約4億円のICU改修費の6.25%に相当する。病院が掲げる使途は引き続き改修工事費や医療機器の購入費などであり、必要額との差額を病院予算で補う方針に変わりはない。
寄付金が最終的にいくら集まり、どの設備や工事に充てられたのかは、募集終了後に確認する必要がある。
それとは別に、患者情報の不適切閲覧を受けた管理体制の改善についても、説明が欠かせない。
病院が進めるICUの改修は、患者の治療環境を改善するためのものだ。一方、電子カルテの不適切閲覧を防ぐための対策は、患者が安心して診療を受けるための基本的な取り組みである。
いずれも地域の基幹病院に必要なものだが、成果を確かめる方法は異なる。
寄付によって新しい設備を整えることと、患者の信頼を守る組織体制を築くこと。その両方が進められているのか、病院の今後の対応が問われる。
編集部まとめ
豊橋市民病院のクラウドファンディングは、第一目標の1,000万円を達成し、第二目標2,500万円に向けた募集へ進んだ。
一方、週刊TAKAPIの独自取材では、電子カルテの不適切閲覧が看護師本人の申告によって発覚し、その後にアクセス記録で確認されていたことが分かっている。
市人事課は、職員の不祥事が病院全体の信頼に影響することを認め、再発防止と信頼回復に取り組む必要性を説明している。
寄付募集の成果と職員管理の問題は、別々に検証しなければならない。今後は、ICU改修の進捗と寄付金の使途に加え、患者情報を守るための具体的な管理体制がどう改善されたのかを確認していく。
特記事項
本記事は、豊橋市民病院のクラウドファンディング公式発表、豊橋市の懲戒処分資料、週刊TAKAPIによる豊橋市人事課への独自取材結果を基に構成した。
第一目標の達成と第二目標2,500万円の設定は10月26日の病院発表による。電子カルテ問題の発覚経緯と再発防止策は本紙が独自取材で確認した内容であり、職員の不祥事と寄付額の間に因果関係があることを示す資料は確認されていない。
週刊TAKAPI 編集部/成田
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