【第2回】乳児死亡事故、午後1時以降の午睡記録なし 国が再通知した「7つの対策」と保育現場の監督の死角

世田谷区の認可外保育施設で発生した乳児死亡事故と午睡記録の欠落を検証する週刊TAKAPIのアイキャッチ。世田谷区役所の実写写真を使用。

保育施設で子どもが眠る午睡の時間。その見守りが途切れたとき、何が起きるのか。

こども家庭庁は2026年2月13日、教育・保育施設などに対し、睡眠中の窒息事故を防ぐための安全対策を徹底するよう求める事務連絡を発出した。

契機となったのは、東京都世田谷区の認可外保育施設で2023年12月、生後4か月の男児がうつぶせ寝によって窒息死した事故だ。2026年2月12日、東京地方裁判所は業務上過失致死罪に問われた元施設長と元職員に執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。

この事故については、世田谷区も重大事故検証委員会を設置し、2024年9月に報告書をまとめている。

裁判所の判決文と区の検証報告書を照合すると、事故を防げなかった背景には、乳児の寝かせ方だけでは説明できない複数の問題があった。

職員の配置、経験や資格に応じた業務分担、午睡中の安全確認、そして自治体による指導監督。これらが十分に機能していなかった実態が浮かび上がる。

乳幼児9人を保育、現場に残った職員は2人

事故が発生したのは2023年12月13日。

東京地裁の判決文によると、当時施設には0歳児5人を含む計9人の乳幼児が預けられていた。

しかし、唯一保育士資格を持っていた施設長は、別の児童の送迎のために外出していた。現場で保育に当たっていたのは、いずれも保育士資格を持たない職員2人だった。

判決では、そのうち1人が午後2時50分ごろ、自力で寝返りのできない生後4か月の乳児を、敷き布団にうつぶせの姿勢で寝かせたと認定している。

職員はその後、乳児の状態をきめ細かく観察していなかった。

乳児は鼻や口を塞がれたことによる窒息で、搬送先の病院で午後4時52分ごろに死亡した。

東京地裁は、施設長が適切な保育体制を確保せず、職員への指導も不十分だったことに加え、実際に乳児をうつぶせで寝かせた職員にも注意義務違反があったと判断した。

判決は元施設長に禁錮1年6か月、元職員に禁錮10か月とし、いずれも3年間の執行猶予を付けた。

なお、判決の確定状況については今回の確認資料では把握できていないため、確定判決とは記載しない。

午後1時以降、睡眠チェックの記録がなかった

世田谷区の検証報告書には、事故当日の保育状況について重要な記述がある。

午前中には睡眠チェックの記録が残されていたものの、午後1時以降は記録されていなかったという。

事故後に行われた特別立入調査でも、睡眠チェックの記録が不十分だったことが指摘されている。

ただし、記録がない時間帯に一度も子どもの状態が確認されていなかったとまでは断定できない。記録の欠落と、実際の確認行為の有無は区別する必要がある。

それでも、睡眠中の観察をいつ、誰が、どのように行ったのかを把握できない状況は、安全管理上の重大な問題だ。

午睡チェックは、確認表に印を付けることが目的ではない。子どもの呼吸や体位、顔色などを実際に観察し、異常を早期に発見できる状態を維持するためのものだ。

記録は、その確認が適切に行われたかを振り返るためにも欠かせない。

人数の基準を満たしていても、安全とは限らない

この事故の検証で見過ごせないのは、職員配置を巡る問題である。

世田谷区の検証報告書によると、事故当時の乳幼児9人に対する必要保育従事者数は、当時適用された算定方法で2人だった。

施設に残っていた職員も2人。つまり、人数の算定上は配置基準を満たしていた。

しかし、実際に保育に当たっていた2人はいずれも無資格者だった。

検証委員会は、配置基準上の人数を確認するだけでなく、有資格者が保育時間を通じて従事できる配置になっているかまで確認する必要があったと指摘した。

職員が何人いるかという数字だけでは、安全な保育体制が確保されているかを十分に判断できない。

必要な知識と経験を持つ職員がいるか。その職員が不在になる場合の代替体制は整っているか。子どもの状態に応じた業務分担ができているか。

今回の事故は、こうした実際の運用まで確認する重要性を示している。

事故の5か月前、立入調査では文書指摘なし

行政による監督にも課題があった。

世田谷区は事故の約5か月前、2023年7月に当該施設へ一般立入調査を行っていた。このとき、文書による指摘事項はなかった。

一方、施設は過去にも睡眠中の安全管理について指導を受けていた。

検証報告書によると、2020年1月には、区の職員が施設を訪れた際、0歳児2人がうつぶせで寝ており、毛布が口に当たっている状況に気付き、施設長にあおむけへ戻すよう注意していた。

また、事故を起こした施設については、職員の経験不足や、施設長による指導・育成の不十分さも検証委員会から指摘されている。

それにもかかわらず、2023年7月の一般立入調査では文書指摘がなかった。

検証委員会は、事前に日時を通知する一般立入調査では、施設が抱える問題が表面化しにくいことを課題に挙げた。

さらに、施設長への詳しい聞き取りや複数回の訪問などによって実際の保育体制を把握できていれば、必要な指導につながった可能性があると分析している。

これは区の法的な過失が裁判で認定されたという意味ではない。しかし、従来の行政監督では十分に把握できなかった問題があったことを、区自身の検証委員会が明らかにした点は重要だ。

こども家庭庁が示した「7つの対策」

2026年2月13日付の事務連絡で、国は睡眠中の窒息事故を防ぐための七つの対策を改めて示した。

第一は、医学的な理由で医師から勧められている場合を除き、乳児を顔が見えるあおむけの姿勢で寝かせることだ。子どもを一人にせず、安全な睡眠環境を整えることも重視している。

第二は、柔らかい布団やぬいぐるみなどを使用しないこと。第三は、よだれかけのひもや布団カバーの内側のひも、ベッド周辺のコードなどを置かないことだ。

第四に口の中の異物を確認すること、第五にミルクや食べ物などの嘔吐物がないか確認することを求めている。

第六は、子どもと職員の人数に応じ、定期的に呼吸や体位、睡眠状態を点検すること。そして第七は、新たな窒息の危険に気付いた場合、記録して施設内で共有することだ。

国はこれらを新たな制度として創設したわけではない。2016年3月に作成された事故防止ガイドラインを踏まえ、すべての保育従事者が実践できるよう周知を求めている。

午睡チェックは何分ごとに必要なのか

保育現場で問題になるのが、安全確認を行う間隔である。

国の2月13日付事務連絡は定期的な確認を求めているが、全国の全施設に共通する新たな確認間隔を定めたものではない。

一方、東京都認証保育所の指導監督基準では、睡眠中の顔色や呼吸の状態について、0歳児は5分に1回、1〜2歳児は10分に1回の確認が望ましいとしている。

これは東京都認証保育所に関する基準上の記述であり、全国のすべての教育・保育施設に、そのまま一律に適用されるものではない。

重要なのは、施設に適用される指針や自治体の指導を踏まえ、子どもの状態に応じて必要な確認を行うことだ。

確認間隔を決めるだけでは十分とはいえない。職員が別の業務に移る場合や、交代・休憩が重なる場面でも、見守りが継続する体制が必要になる。

保護者が「指摘事項なし」を信じて施設を選んでいた

世田谷区の検証報告書には、保護者への情報提供に関する問題も記されている。

亡くなった乳児の保護者は、区のホームページに掲載されていた2023年7月の立入調査結果を参考に、当該施設を選択していた。

その調査結果には指導事項がなかった。

しかし、区がホームページに掲載する指導事項は、立入調査時に基準への不適合が明らかに認められた事項などに限られ、施設が潜在的に抱える問題まで示すものではなかった。

検証委員会は、保護者が施設の実際の課題を把握できなかったことを問題視している。

行政の調査で文書指摘がないことは、施設のあらゆる安全管理が十分であることを保証するものではない。

保護者が施設を選ぶ際に、どのような情報を入手できるのか。行政は何を確認し、その結果をどのように伝えるのか。

事故防止の問題は、保育現場だけでなく、施設選択を支える情報公開のあり方にも及んでいる。

編集部まとめ

世田谷区の乳児死亡事故について、裁判所は施設長の保育体制の確保・指導不足と、職員によるうつぶせ寝や観察不足を過失として認定した。

区の検証報告書でも、午睡記録の欠落、職員の経験や資格を踏まえた配置の問題、行政監督の限界が指摘されている。

こども家庭庁が2026年2月に再通知した七つの対策は、いずれも基本的な内容だ。それでも重大事故が起きた背景には、対策を知っていることと、実際の保育で確実に実施できることの間に隔たりがあった。

配置基準を満たしているか。睡眠チェック表が存在するか。行政の立入調査で指摘事項がないか。

これらは重要な確認事項だが、それだけで安全を保証するものではない。

求められるのは、子どもの命を守るための確認と対応が、日々の保育で途切れることなく実行されているかを確かめることだ。

特記事項

本記事は、2026年2月13日付のこども家庭庁・文部科学省による事務連絡、同月12日の東京地方裁判所判決文、2024年9月の世田谷区重大事故検証報告書、東京都の保育施設指導監督資料を基に構成した。

世田谷区の事案に関する刑事責任の記述は、東京地裁が認定した内容に基づいている。行政監督に関する課題は区の検証委員会による分析であり、区の法的な過失が裁判で認定されたことを意味しない。

また、特定の認可外保育施設で確認された問題を、全国すべての施設に共通するものとして扱っていない。

Qこども家庭庁はいつ午睡中の事故防止を再通知しましたか?
A2026年2月13日です。世田谷区の乳児死亡事故について前日に東京地裁の判決が出たことを踏まえ、全国の関係自治体に周知徹底を求めました。
Q世田谷区の事故では、何が原因で乳児が亡くなったのですか?
A裁判所は、施設長の不適切な保育体制と指導不足、職員によるうつぶせ寝と観察不足が重なり、生後4か月の乳児が窒息死したと認定しました。
Q事故当日の職員配置は基準違反だったのですか?
A世田谷区の検証報告書では、人数の算定上は当時の配置基準を満たしていたとされています。ただし、現場に残った2人はいずれも保育士資格を持たず、実際の安全管理体制に重大な問題がありました。
Q午睡中の安全確認は何分ごとに必要ですか?
A国の2026年2月13日付事務連絡は全国一律の新たな間隔を設定していません。東京都認証保育所の指導監督基準では、0歳児は5分に1回、1〜2歳児は10分に1回が望ましいとされています。施設に適用される基準や自治体の指導を確認する必要があります。
Q行政の立入調査で指摘事項がなければ安全ですか?
A必ずしもそうではありません。今回の事故では、約5か月前の一般立入調査で文書指摘がありませんでしたが、その後の検証で安全管理や人員体制の問題が明らかになりました。

週刊TAKAPI編集部/成田

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