福岡県議会の正副議長ポストを巡る金銭授受疑惑で、8月に議員辞職した蔵内勇夫前議長(72)が11月5日、福岡市内で記者会見を開き、議会人事に関係する現金の受け取りを改めて全面的に否定した。
ゴルフや飲食の費用については「割り勘と認識していた」と説明。一方、自身に現金500万円を渡したとする元県議の証言については信ぴょう性に疑問を示し、第三者委員会などによる検証を求めた。
しかし、会見では金銭の支払いを裏付ける領収書などの具体的な資料は示されなかった。
会見後、金銭の支払いを実名で証言した吉松源昭県議は、蔵内氏の説明に反論。費用を割り勘で精算したという認識にも異議を唱えた。
また、自身が推進してきたワンヘルス政策の関連事業費が5年間で4378億円に上る問題については、集計範囲に異論を示した。高額な海外視察では、宿泊費などへの配慮が不足していたことを認めた。
議員辞職から約2カ月半。疑惑を否定する立場に変化はなかったが、複数の議員経験者による証言との食い違いは解消されていない。
議員辞職から約2カ月半 蔵内氏「金銭を受け取った事実はない」
蔵内氏の記者会見は5日午前11時、福岡市内のホテルで始まった。
蔵内氏は8月25日、福岡県議会議長と県議会議員の双方を辞職。当時は議会の混乱を避けるための決断と説明していた。
今回の会見では、自身が身を引くことが県議会の再出発につながると考えたと改めて説明。辞職と金銭授受疑惑は関係ないとの立場を示した。
正副議長人事に関連する現金の受け取りについては「そのような事実はございません」と明確に否定した。
車代などの名目についても、社会的儀礼の範囲を超え、政治倫理に反する金銭を受け取ったことはないと主張した。
一方、これまで金銭の支払いを証言した議員らについては、なぜそのような証言が出ているのか分からないと説明し、第三者委員会による調査で事実関係を明らかにするよう求めた。
「500万円を渡した」元県議の証言 蔵内氏は信ぴょう性を否定
金銭授受疑惑が表面化したのは7月だった。
議長経験者の吉松源昭県議や副議長経験者の江藤秀之県議が、議会人事に関連して当時の自民党県議団幹部らに多額の金銭を支払ったと実名で証言した。
その後、議長経験者の樋口明県議も、議長就任前にゴルフ代や飲食代などとして約700万円を負担したと証言した。
10月23日には、副議長経験者の新村雅彦元県議が会見を開き、2012年5月の副議長就任前に、福岡市中洲の料亭で蔵内氏に現金500万円を手渡したと明らかにした。
蔵内氏は5日の会見で、新村氏が現金を渡したとする会合について、記憶はあるものの、本人の認識と新村氏の証言には食い違いがあると説明した。
さらに、新村氏の証言について信ぴょう性がないとの考えを示し、第三者委員会で検証すべきだと主張した。
ただし、500万円の受け取りを否定する客観的な資料があるか問われると、約15年前のことで資料を見つけるのが難しいと説明。証拠を精査していると述べた。
会見の場で、証言を覆す具体的な記録は提示されなかった。
現金を渡したとする新村氏の証言と、受け取っていないとする蔵内氏の説明は、現在も真っ向から対立している。
ゴルフ・飲食代は「割り勘」と説明 支払い記録は示されず
金銭授受疑惑では、正副議長就任に関係する現金だけでなく、ゴルフや飲食の費用負担も問題となっている。
蔵内氏は会見で、複数のゴルフ会に参加していたことを認めた。
ただし、自身が会計を担当したことはなく、会計担当者から後で負担額を聞き、精算していたとの認識を示した。
招待された場合にも、社会的な常識として相応の金銭を包んでいたと説明した。
一方、個々の会合について、誰が費用を支払い、どのように精算したのかを示す記録は明らかにされていない。
今回の疑惑で検証すべきなのは、会合に参加していたという事実だけではない。
実際の飲食代やゴルフ代を誰が負担し、それが議会人事と関係していたのかという点だ。
蔵内氏の認識と、費用を肩代わりしたとする議員らの証言を照合するには、会合の開催記録や会計資料などの確認が必要となる。
会見後、吉松県議が反論 「割り勘は見たことがない」
蔵内氏の会見を受け、金銭授受疑惑を最初に実名で告発した吉松源昭県議が5日午後、反論した。
吉松氏は、蔵内氏が詳しい質問に対して第三者委員会で説明すると繰り返したことなどについて、十分な説明とは受け止めていないとの考えを示した。
また、ゴルフや飲食の費用を割り勘で支払っていたという説明について、自身はそのような精算を見たことがなく、金銭を受け取ったこともないと主張した。
吉松氏は、第三者委員会に対してだけでなく、県民にも説明する必要があるとの認識を示している。
これにより、金銭授受そのものに加え、ゴルフや飲食の費用負担についても、当事者間の認識が大きく食い違う状況が改めて浮き彫りとなった。
ただし、双方の説明は現段階ではそれぞれの主張であり、第三者委員会による最終的な事実認定が行われたわけではない。
ワンヘルス関連4378億円 県の公式資料では248事項を集計
会見では、蔵内氏が長年推進してきたワンヘルス政策についても質問が集中した。
ワンヘルスは、人、動物、環境の健康を一体的に捉え、感染症対策や環境保全などを進める考え方だ。
福岡県は10月29日に公表した行政改革審議会の資料で、2022年度から2026年度までの5年間について、ワンヘルス推進行動計画に関連する事業などを調査した結果、248の予算事項、総事業費4378億円と整理した。
しかし、この4378億円をワンヘルス専用事業への支出額と理解するのは正確ではない。
県の公式資料によると、総額には、法令に基づいて以前から実施していた事業や、ワンヘルス以外を主目的とする公共事業も含まれている。
特に、総額の9割近くは環境保護に分類された事業で、道路改築や漁場整備なども対象となっている。
一方、県が重点検証の基本対象として示したのは、2022年度以降に開始され、法令に基づかない県独自の事業など64事項、5年間で59億円だった。
4378億円と59億円は、集計対象の範囲が異なる数字である。
また、2026年度を含む5年間の事業費を整理したものであり、4378億円がすべて支出済みという意味でもない。
蔵内氏は予算集計に異論 「原点となる事業の精査を」
蔵内氏は5日の会見で、4378億円という数字について驚いたとの認識を示した。
そのうえで、道路事業や農業振興など、ワンヘルスと直接関係しない事業まで広く含まれていると指摘した。
ワンヘルス本来の目的に直接使われた事業費を精査する必要があるとの考えも示している。
また、政策への批判が広がっていることについて、ワンヘルスという名称そのものが正しく理解されていないと主張した。
一方、政策を進める過程では、県民に対してもっと丁寧に説明すべきだったとの認識も示した。
県の行政改革審議会では、今後、個別事業の必要性や費用対効果などを検証する方針だ。
ただし、同審議会は、政治的な意思決定過程やコンプライアンス上の疑惑追及については、検証対象外と整理している。
そのため、事業の必要性や支出の妥当性を検証することと、予算編成に不当な働きかけがあったかどうかを調べることは、別の課題となる。
ワンヘルス福岡オフィスに県費約6500万円 蔵内氏も「高額」と認識
ワンヘルス政策を巡っては、国際的な活動拠点に対する県の財政負担も問題となっている。
福岡市中央区のアクロス福岡には、2023年8月、アジア獣医師会連合ワンヘルス福岡オフィスが設置された。
情報公開資料などに基づく調査では、県が2026年6月までに事務所の賃借料や光熱費として約6500万円を負担したほか、派遣職員の給与として約4330万円を支出していたことが明らかになっている。
蔵内氏は会見で、事務所費について県民感覚からすれば高額だとの認識を示した。
より安価な場所でも活動は可能との考えを述べ、現在の場所でなければ事業ができないわけではないと説明した。
一方、オフィスの設置については、国際的な活動拠点を福岡に誘致する意義があったと説明している。
県の服部誠太郎知事は10月、今後の賃借料負担などをゼロベースで協議する考えを示している。
国際拠点としての必要性と、県が負担する経費の妥当性は分けて検証する必要がある。
海外視察の契約額、約100万円から1000万円超へ 蔵内氏は配慮不足認める
県議会の海外視察についても、公費支出の透明性が問われている。
公開資料に基づく調査では、2024年に実施された欧州視察で、旅行会社との契約額が当初の99万5500円から、最終的に1025万6900円へ増額されていたことが明らかになっている。
また、別の海外視察では高額なホテルへの宿泊も問題視されてきた。
蔵内氏は会見で、特定のホテルや部屋を自分から指定したことはないと説明。宿泊先などの手配は議会事務局に任せていたとの立場を示した。
その一方で、より安価な宿泊先を選べなかったのかという点について、配慮が足りなかったと認めた。
また、周囲の職員が率直な意見を述べにくくなっていたことに、もっと早く気付くべきだったとの反省も口にした。
ただし、宿泊費が高額だったことや契約額が増額されたことだけで、違法な支出があったと断定することはできない。
今後は契約変更の理由、業者の選定過程、実際の視察内容、公費負担に見合う成果があったかどうかを確認する必要がある。
福岡県議会は政治倫理条例を制定 百条委員会の調査はこれから
一連の疑惑を受け、福岡県議会は制度面の見直しも進めている。
10月17日には「福岡県議会議員の政治倫理に関する条例」が可決・成立し、23日に公布された。
条例では、議会の役職選任に関係する利益供与などの禁止や、海外活動の適正な実施、県職員への不当要求の禁止などを政治倫理基準として明示している。
また、弁護士など議員以外の委員による政治倫理審査会を設け、基準違反が認定された場合には役職辞任や議員辞職の勧告などを求める仕組みを定めた。
一方、金銭授受疑惑については、県議会が9月17日に弁護士13人による第三者委員会の調査体制を確定している。
さらに10月17日未明には、地方自治法100条に基づく調査特別委員会、いわゆる百条委員会の設置議案が可決された。
11月2日の代表者会議では、15人の委員をどのように選ぶかについて合意し、6日の会議で委員を決める方針が示された。
ただし、5日時点では百条委員会の具体的な調査開始時期は定まっていない。
第三者委員会と百条委員会は調査の枠組みが異なり、今後、それぞれの調査結果をどのように議会改革へ反映させるかが焦点となる。
会見では具体的証拠示されず 今後の説明の機会も不透明
今回の会見は、県政記者クラブからの要請を受け、蔵内氏側が主催する形で開催された。
会見には参加人数や生中継などに制限が設けられ、十分な説明の機会だったのかという問題も残った。
蔵内氏は500万円授受の証言を改めて否定したものの、会見では客観的な資料を提示せず、第三者委員会などで説明する考えを繰り返した。
会見後の情報では、今後新たな記者会見を開く予定はないとの意向も示している。
しかし、金銭授受について実名で証言する議員経験者が複数いる以上、本人の否定だけで事実関係が確定するわけではない。
同時に、証言が複数あるという理由だけで、蔵内氏が現金を受け取ったと断定することもできない。
必要なのは、個々の会合の日付、参加者、支払金額、会計記録などを整理し、双方の説明と客観的な資料を突き合わせることだ。
県議会の調査によって、どこまで事実関係を明らかにできるかが問われる。
編集部まとめ
蔵内勇夫前議長は11月5日の会見で、正副議長ポストを巡る金銭授受疑惑を全面的に否定した。
一方、現金500万円を手渡したとする元県議の証言を覆す具体的な資料は示されず、ゴルフや飲食の費用を割り勘で負担したという説明についても、吉松県議が異議を唱えた。
ワンヘルス関連事業費4378億円については、県の公式資料により、幅広い既存事業を含む5年間の総事業費であることが確認されている。蔵内氏も集計範囲に異論を示しており、今後は個々の事業の必要性と公費負担の妥当性が検証される。
高額な海外視察については、蔵内氏自身が宿泊費などへの配慮不足を認めた。
金銭授受の有無、政策予算の妥当性、海外視察の適正性は、それぞれ異なる問題だ。
蔵内氏の議員辞職から約2カ月半が経過したが、疑惑の真相はなお明らかになっていない。
県議会が設けた第三者委員会と百条委員会による調査が、関係者の証言だけでなく客観的な資料に踏み込み、具体的な事実を示せるかが今後の焦点となる。
特記事項
本記事は2026年11月5日夜までに公表された蔵内勇夫前議長の記者会見内容、会見後の関係議員の発言、福岡県の行政改革審議会資料、福岡県議会の公式資料、海外視察に関する公開資料に基づく情報を照合して作成した。
正副議長ポストを巡る金銭授受については、現金を渡したとする証言と、受け取っていないとする蔵内氏の説明が対立している。第三者委員会による最終的な事実認定は行われていない。
ワンヘルス関連の4378億円は、2022年度から2026年度までの5年間について県が整理した248予算事項の総事業費であり、全額が新規事業への支出や支出済みの決算額であることを意味しない。
59億円は、県が重点検証対象を選定する際の基本区分として示した64事項の5年間の事業費であり、4378億円と集計範囲が異なる。
海外視察の契約変更額は公表資料に基づく情報であり、その適法性について結論が出たものではない。
なお、県の行政改革審議会、県議会の金銭授受問題に関する第三者委員会、百条委員会は、それぞれ役割と調査対象が異なる。
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