2024年11月、埼玉県さいたま市西区の私立埼玉栄高校の総合グラウンドで、グラウンド整備用の軽乗用車が横転し、助手席に乗っていた当時17歳の男子生徒が死亡した事故を巡り、生徒の両親が学校法人や関係者らを相手取り、計約1億3662万円の損害賠償を求める訴訟を起こす方針であることが分かった。
遺族側は9月1日にも、さいたま地方裁判所へ提訴する方針。
事故から約1年9カ月。事故を起こした車両の管理状況や、生徒による無断運転を学校側がどこまで把握できたのか、さらに事故後の対応が適切だったのかが、民事訴訟の焦点となる。
生徒4人が整備用車両に乗車 横転し17歳死亡
事故は2024年11月16日午後11時半ごろ、さいたま市西区西遊馬にある埼玉栄高校の総合グラウンドで発生した。
男子生徒ら4人が、グラウンド整備に使われていた軽乗用車に乗車。車両がグラウンド脇ののり面に乗り上げ、助手席側を下にして横転した。
助手席に乗っていた当時17歳の男子生徒が頭などを強く打ち、死亡した。別の生徒1人もけがをした。
事故を巡っては、県警が車を運転していた男子生徒を自動車運転処罰法違反の過失致死傷容疑で書類送検している。
また、サッカー部の男性教諭2人についても、車両管理を巡り業務上過失致死傷容疑で書類送検されている。
書類送検は有罪を意味するものではなく、今回の民事訴訟における損害賠償責任とも別に判断される。
遺族側、約1億3662万円の賠償求める方針
遺族側の説明や訴状によると、学校を運営する学校法人佐藤栄学園や学園・学校関係者、サッカー部関係者のほか、事故当時に車を運転していた生徒や同乗していた生徒側などを被告として損害賠償を求める方針。
請求額は両親合わせて約1億3662万円としている。
遺族側は、事故そのものに至るまでの車両管理や生徒管理だけではなく、死亡事故後の学校側の説明や対応についても問題があったと主張している。
ただし、訴状全文が現時点で一般に公開されていない部分については、今後の提訴や裁判手続きを通じて、具体的な請求内容や各被告に対する主張が明らかになるとみられる。
鍵を車内に保管 容易に運転できる状態か
事故車両は、男子サッカー部がグラウンド整備に使用していた軽乗用車だった。
学校側が設置した第三者委員会の調査報告書では、少なくとも2022年11月以降、車両の鍵を無施錠の車内で保管する運用が始まり、遅くとも2023年3月以降には常態化していたとされる。
鍵を管理室などで厳格に保管するのではなく、車内に置く状態が続いたことで、生徒が車両に乗り込み、運転することが可能な状況になっていた。
今回の訴訟でも、こうした鍵の管理方法が事故発生の危険性を高めたのではないかという点が争点となる可能性がある。
生徒による無断乗車、事故前から繰り返される
第三者委員会の報告書や遺族側の説明によると、生徒によるグラウンド整備用車両への無断乗車は、死亡事故以前から繰り返されていた。
報告書では、事故のおよそ2年前から無断乗車が行われ、確認された関与は延べ73人に上ったとされている。
一方、報道では「約30人が運転や乗車を経験した」とする人数の示し方もあり、「実人数」と「延べ人数」が異なる形で伝えられている。
重要なのは、死亡事故当日の突発的な行為だけではなく、複数の生徒による無断乗車が長期間にわたって続いていたと第三者委が認定している点だ。
死亡事故前にも同じ車両が横転
さらに、死亡事故以前にも同じ車両で横転事故が起きていた。
第三者委員会の調査報告書では、2024年10月末ごろ、生徒らが同じ軽乗用車に無断で乗車し、車両を横転させていたとされる。
10月31日には教諭らが車両の異変を確認し、整備業者に点検・修理を依頼したとされている。
死亡事故が起きたのは11月16日で、報告書の日付関係に基づけば約2週間後となる。
事故直後の初期報道では「約1カ月前にも横転事故があった」とする表現もみられたが、その後公表された第三者委員会の報告書では「2024年10月末ごろ」と具体化されているため、本記事では報告書の時系列を基準としている。
報告書では、このほかにも以前から車両の破損につながる事案があったとされている。
学校側は事故を予見できたのか
民事訴訟で大きな争点となる可能性があるのが、学校側に死亡事故を予見し、防止することが可能だったのかという点だ。
死亡事故が、生徒による一度限りの無断運転によって突然発生したものなのか。
それとも、無断乗車が長期間繰り返され、車両の破損や横転まで起きていた中で、鍵を厳格に管理する、車両への立ち入りを防ぐ、生徒への指導を徹底するといった対策を取ることで防げた事故だったのか。
第三者委員会の報告書で明らかになった事故以前の経緯は、学校側の注意義務や予見可能性を判断する上で重要な材料になるとみられる。
ただし、第三者委員会による事実認定が、そのまま学園や教職員ら個々の法的責任を確定するものではない。
誰に、どこまで事故を防止する義務があったのか。死亡結果との間に法的な因果関係が認められるのかについては、訴訟の中で判断される。
寮の管理体制についても遺族側が問題視
遺族側は、車両管理に加えて、生徒が生活していた寮の管理体制についても問題があったと主張している。
寮はオートロック方式だったものの、生徒が無断で外出できる状況があり、その管理が十分ではなかったというのが遺族側の主張だ。
事故が発生したのは午後11時半ごろだった。
深夜の時間帯に生徒らがグラウンドへ移動し、車両に乗ることができた経緯についても、学校側や寮側にどのような管理義務があったのかが今後争われる可能性がある。
遺族は事故後の説明対応にも疑問
遺族側は、死亡事故以前の管理体制だけではなく、その後の学校側の対応についても問題視している。
学校側は事故直後の2024年11月に保護者説明会を開いている。
一方、遺族側は、第三者委員会の調査報告書が公表された後を含め、事故原因や管理上の問題について十分な説明が行われていないと主張している。
また、こうした事故後の対応によって精神的苦痛がさらに増したとして、損害賠償請求の中で主張する方針とされる。
事故後の対応に関する評価については、第三者委員会側と遺族側で認識が一致していない部分もある。
そのため、学校側の対応が法的な損害としてどこまで評価されるかも、提訴後の争点の一つとなる可能性がある。
第三者委、管理体制の問題を指摘
学校法人佐藤栄学園は事故後、第三者委員会を設置し、事故原因や学校の管理体制などについて調査した。
調査報告書では、生徒による車両への無断乗車が長期間にわたり行われていたことや、車両の鍵の管理などに問題があったことが明らかになった。
学校法人側は報告書の内容を重く受け止め、再発防止策に取り組むとしている。
事故から1年以上を経て、今度は民事裁判の場で、事故以前の管理体制と死亡結果との関係が改めて問われることになる。
編集部まとめ
今回の訴訟で重要なのは、2024年11月16日の死亡事故だけを切り取らないことだ。
第三者委員会の報告書では、生徒による車両への無断乗車が死亡事故以前から繰り返され、鍵が車内に置かれる状態が長期間続いていたことが明らかになっている。
さらに、死亡事故の直前にあたる2024年10月末には、同じ車両が一度横転していたとされる。
こうした危険の兆候を学校側が把握していたのか、把握できる状況にあったのか。そして、どの時点でどのような対策を講じるべきだったのか。
一方、事故車両を実際に運転した生徒や同乗者側の行為と、学校側の管理責任をどう区分するのかという問題もある。
約1億3662万円という請求額そのもの以上に、長期間続いていたとされる管理上の問題と17歳の生徒の死亡との間に、裁判所がどこまで法的な因果関係を認めるのかが最大の焦点となる。
週刊TAKAPI 編集部/一条
特記事項
本記事は、第三者委員会の調査報告書や遺族側の説明など、2026年9月1日時点で確認できた情報を基に構成しています。提訴前のため、訴状の詳細や被告ごとの主張は今後変更・追加される可能性があります。書類送検は有罪を意味するものではなく、刑事責任と民事上の損害賠償責任は別に判断されます。
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