【名古屋主婦殺害・民事訴訟】安福久美子被告側が請求棄却求める 「26年」と旧民法の“20年の壁”、遺族は司法判断へ

1999年11月、名古屋市西区のアパートで高羽奈美子さん=当時32歳=が殺害された事件が、27年目にしてもう一つの重い問いを裁判所に突きつけることになった

殺人罪で起訴されている安福久美子被告(69)に対し、奈美子さんの夫・悟さん(70)らが損害賠償を求めている民事訴訟で、安福被告側が請求棄却を求めて争う方針であることが分かった

被告側が持ち出したのは、改正前の民法にあった「除斥期間」だ

不法行為から20年が経過すれば賠償請求権が消滅するという旧民法の規定を根拠に、被告側は「加害者を知り得なかったことは、除斥期間の適用を排除する根拠とはならない」などと主張している

さらに事件そのものの事実関係については「包括的に黙秘権を行使する」としている 

一方の遺族側は、安福被告が逮捕されるまで請求相手を知ることができなかったとして提訴している

夫の悟さんは被告側の主張を受け、

「争うことは覚悟していた。司法に判断を委ねたい」

とのコメントを出した 

第1回口頭弁論は9月8日、名古屋地裁で開かれる予定だ 

これは単なる「時効をめぐる裁判」ではない

犯人が分からないまま20年が過ぎ、その後に捜査が動いたとき、被害者遺族の民事上の権利まで失われるのか

名古屋で始まる裁判は、その難題と真正面から向き合うことになる


この裁判で何が争われるのか

現時点で押さえておきたいポイントは明確だ

  • 事件発生は1999年11月
  • 安福被告が逮捕されたのは2025年10月31日
  • 遺族は2026年3月に損害賠償を求めて提訴
  • 被告側は改正前民法の「20年の除斥期間」が成立すると主張
  • 被告側は事件の事実関係について包括的に黙秘する方針
  • 遺族側は、長期間にわたり請求相手を知ることができなかった事情を訴える
  • 第1回口頭弁論は9月8日の予定

ここで注意したいのは、ネット上で単純に言われがちな「殺人事件でも20年で時効」という説明では足りないことだ

今回問題になっているのは刑事事件の公訴時効ではなく、不法行為による損害賠償請求権をめぐる民事上の期間制限である

しかも事件が発生したのは1999年

現在の民法だけを読んで結論を出せる事件ではなく、被告側は明確に改正前民法の除斥期間を主張している 


1999年11月13日 32歳の主婦が自宅で殺害された

事件が起きたのは1999年11月13日

名古屋市西区稲生町のアパートで、高羽奈美子さん=当時32歳=が刃物で刺され死亡した

事件は長期間未解決となった

そして発生から約26年後の2025年10月31日、愛知県警が安福久美子被告を殺人容疑で逮捕した

現場に残されていた血痕と安福被告のDNA型が一致したことが、長年動かなかった事件を大きく動かすことになった

安福被告はその後、鑑定留置を経て2026年3月5日、殺人罪で起訴されている 

ただし、ここは明確にしておかなければならない

安福被告は起訴された段階であり、刑事裁判で有罪が確定したわけではない


遺族はなぜ26年以上たって民事裁判を起こしたのか

夫の悟さんと長男は2026年3月、安福被告を相手取り名古屋地裁へ提訴した

請求額そのものは公表していない

訴状では、逸失利益約3960万円のほか、慰謝料、葬儀費用、さらに事件現場を保存するために借り続けてきたアパートの賃料などを請求している 

だが、遺族側も最初から「20年」の問題を認識していた

悟さんは提訴時、

「20年の期間をもって門前払いは社会正義に反する」

との考えを示している 

遺族側が訴えているのは、単に「事件が古いから例外にしてほしい」という話ではない

請求したくても、誰に請求すればいいのか分からなかった

そこがこの裁判の核心だ


被告側が主張する「20年の除斥期間」

そして9月3日、被告側の答弁内容が明らかになった

安福被告側は、遺族側の請求について棄却を求める方針を示した

根拠としているのが、事件当時の改正前民法724条にあった20年の期間制限だ

被告側は、

「加害者を知り得なかったことは、除斥期間の適用を排除する根拠とはならない」

などと主張している 

ここは今回の記事で最も重要なところだ

「20年たったから自動的に終わり」と編集部側で断定するべきではない

旧法が今回の事件にどう適用されるのか、その上で遺族側が主張する事情を裁判所がどう評価するのか

まさにそれを、これから裁判所が判断する


被告側は事件の事実関係について「包括的に黙秘」

もう一つ見逃せないのが、被告側の事実関係に対する姿勢だ

報道された答弁書によると、安福被告側は事件の事実関係について**「包括的に黙秘権を行使する」**としている 

つまり現段階では、

20年の除斥期間については明確に主張する

一方で事件の事実関係については包括的に黙秘する

という構えになる

ただし、黙秘権の行使そのものを被告に不利な事情であるかのように扱うべきではない

刑事裁判では安福被告の刑事責任が審理され、民事訴訟では損害賠償責任と期間制限などが争われる

この二つは分けて見る必要がある


遺族側「請求相手が分からないまま20年が経過した」

遺族側の主張も、かなりはっきりしている

2026年3月の提訴時、悟さん側は、安福被告が逮捕されるまで請求相手が分からない状態だったと説明している

今回の報道では、遺族側が「被告が自首することなく身勝手な潜伏を継続し、損害賠償を請求できる相手を知ることができないまま、20年が経過した」などと主張していることも明らかになった 

重要なのは、この「身勝手な潜伏」という表現は遺族側の主張だという点だ

刑事裁判で認定された事実として扱うことはできない

ここを混ぜると、記事は一気に危うくなる


26年間「請求しなかった」のか、「請求できなかった」のか

この事件の民事訴訟を読む上で、一番分かりやすい問いはここだろう

26年間、遺族が請求しなかったのか

それとも、

請求する相手が分からず、請求できなかったのか

被告側は、後者だったとしても除斥期間の適用を排除する理由にはならないと主張する

遺族側は、それで権利そのものを失わせるのは社会正義に反すると訴える

両者の主張は真正面からぶつかっている

だから今回の裁判を「被告側が賠償を拒否した」という一言だけで片付けると、肝心なところを見落とす

裁判所が判断を求められているのは、長期未解決事件と20年の期間制限をどう両立させるかという問題でもある


現場のアパートを長年残し続けた遺族

今回の損害賠償請求には、この事件特有の事情もある

悟さんは事件後、現場となったアパートの部屋を保存するため、長年にわたって借り続けてきた

遺族側は今回、その賃料についても損害として請求している 

事件現場を残すために支出した費用まで、どこまで損害として認められるのか

20年の問題が大きいため埋もれがちだが、ここも今後の民事裁判で注目される部分になる


「殺人に時効がないのに賠償には時効がある?」は正確ではない

この事件では、今後こうした疑問も出てくるだろう

「殺人罪には公訴時効がないのに、なぜ損害賠償は20年なのか」

だが、刑事と民事は制度が違う

殺人など人を死亡させた罪について公訴時効が撤廃された刑事制度と、不法行為による損害賠償請求権を定める民法上の期間制限は別物だ

さらに今回は1999年発生の事件であり、現在の民法だけをそのまま当てはめて論じることもできない

だからこそ、この記事では「20年時効で終わり」とも、「26年後でも当然に請求できる」とも書かない

どちらになるのかを決めるのは裁判所だ


夫・悟さん「争うことは覚悟していた」

被告側が請求棄却を求める方針が明らかになったことを受け、悟さんは、

「争うことは覚悟していた。司法に判断を委ねたい」

とコメントしている 

3月の提訴時には、今回の裁判を自分たちだけの問題として終わらせず、今後の未解決事件の遺族にも損害賠償への道を残したいという趣旨の考えも示していた 

だから、この裁判の結果は高羽さん一家だけの問題にとどまらない可能性がある


週刊TAKAPIの視点|「20年だから終わり」で済ませていい問題なのか

法律には期限がある

長期間が経過すれば証拠が失われ、記憶も薄れ、法律関係をいつまでも不安定な状態に置けないという考え方にも理由はある

そこを感情だけで否定することはできない

ただ、この事件には普通の損害賠償事件とは違う事情がある

被害者は亡くなっている

事件は長期間未解決だった

遺族は請求相手を特定できない状態だった

そして約26年後になって刑事事件が動いた

それでも「20年を過ぎた」の一言で民事上の救済まで閉じられるのか

逆に、長期未解決だったことを理由に期間制限を外すのであれば、どのような条件を満たした場合に認めるのか

どちらの判断にも、その先がある

だからこそ裁判所には、結論だけではなく、長期未解決事件における被害者救済と法的安定性をどう線引きしたのか、分かる形で示すことが求められる


9月8日、最初の法廷へ

第1回口頭弁論は9月8日、名古屋地裁で開かれる予定だ 

そこでまず注目されるのは、

被告側が20年の除斥期間についてどのような法的主張を展開するのか

遺族側が「請求相手を知ることができなかった」という事情をどう位置付けるのか

裁判所が期間制限の問題をどのように整理して審理するのか

そして事件そのものの事実関係について、民事訴訟がどこまで踏み込むのかだ

27年目を迎えた名古屋市西区の主婦殺害事件

刑事責任の行方とは別に、今度は26年後の民事責任が法廷で問われる

週刊TAKAPIでは9月8日の第1回口頭弁論についても引き続き取材・検証する

なお、安福久美子被告は殺人罪で起訴されている段階で、刑事裁判で有罪が確定したものではない

民事上の損害賠償責任についても、現時点では裁判所の判断は示されていない

週刊TAKAPI 編集部/黒木

情報提供募集

各種ご相談、情報提供、現地写真・動画、関係者からの証言などをお持ちの方は、メール(info@108takapi.jp)、各種SNSのDM、または公式LINEまでお寄せください。週刊TAKAPI編集部が内容を確認のうえ、取材・報道の参考とさせていただきます。

リアルタイム
サイト訪問者数
43

コメント

0件

まだコメントはありません。最初のコメントを投稿してみませんか。

コメントを投稿する

名前は空欄でも投稿できます。その場合は「匿名」と表示されます。